第1話 王の前でも相変わらず

 アルディニア王国の近くの草原で暗黒龍というトカゲを倒した日の夜、俺はこの国の国王に呼ばれていた。


「ハンドルディよ。我が国の騎士団に代わり暗黒龍を討伐してくれて礼を言うぞ」

「礼を言われるまでもないな。うるさいトカゲを蹴飛ばしただけだ」

「おい貴様! 国王の前だぞ!」


 俺が頭を垂れていないことか、それとも敬語を使っていないことか。

 何が気に障ったのかは分からないが、護衛の一人が槍をこちらに向け騒ぎ立てる。


「待て」


 しかし国王はそれに制止をかける。護衛もその一言で不本意ながらもいそいそと下がる。


「確かにこのような無礼は本来なら許されない。だがハンドルディはこの国を救ってくれた英雄だ。今回だけは不問としてやろう。

 ところでハンドルディよ。暗黒龍を倒した君に褒美を渡したいんだが、何か欲しいものはあるか? できる限りの範囲内なら工面するが……」

「なら今すぐに凱旋パレードを開け! この俺を讃えるパレードをな! そして祭りを開け! ここの国民を騒がせ盛り上げさせろ!」

「わ、分かった。そもそもあの龍を倒してくれたんだ。それくらいはやるつもりだったが……そこまでいうならより派手なものにしてみよう。

 だが今日いきなりやるのは無理だ。とりあえずこちらが用意した部屋で明日の夜まで待っててくれ」


 そうして俺は王様が用意してくれた豪華な部屋に案内される。


「ほう。俺をもてなす部屋に相応しいな」


 他国から来た王族を招くことを想定しているのか、ベッドや机や椅子はどれも最高級の品質を使っていた。

 

 暇な時間ができたのでこの前の国で貰ったお菓子でも食おうかと鞄を探る。  

 俺の鞄はアイテムボックスと呼ばれる道具で、生物以外のほとんどの物体を仕舞い永久に保存できる代物だ。


「ハンドルディ殿はいるか!!」


 部屋の扉が叩かれ外から女の騒がしい声が聞こえてくる。

 耳障りなのでその声を止ませるべく扉を開ければ、そこには金髪の中々可愛らしい若い女が立っていた。

 武具を身につけていることから恐らくこの国の兵士か何かだろう。


「誰だお前」

「誰って……一応龍を倒した後に少し話しただろう。この国の騎士のクリシア・フォルツァだ」


 そういえばこの俺がトカゲを倒した時騒がずに静かに黙っていた女がいたな。そいつか。


「何の用だ」


 正直あまり印象は良くなかったが、せっかく俺の部屋まで来たのだ。少しは応答してやろうとする。


「無礼も承知でお願いしたいことがある。私を鍛えてくれないか?」

「ほう。何でだ?」

「私はこの国を守るためにもっと強くならないといけない。だから信じられないほど強いあなたに稽古をつけてもらいたい」


 なるほどまたこのタイプか。まぁこういう輩には大体言うことは決まっている。


「ならまずは軽く真剣で素振りを一万回やれ。話はそこからだ。これくらいできないとお話にならん」

「ぐっ……分かった一時間と少し時間をくれ。すぐに終わらせてくる」


 クリシアは急いで訓練場かどこかに走り去っていく。


「よし。俺は城下町に遊びにでも行くか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る