第13話 ただし、漫画やアイテムはワキから出る
「廉価武器に命を預けるなって事だな」
防具屋の親父と似た様な事を言う店主の案内で武器屋店内に戻り、店に置いてある武器を物色する。
「品質が良いのは分かるが……」
「俺の造った武器を褒めてくれるのは嬉しいが値引きはちょっとしかしてやらんぞ。んで、どんな武器が欲しいんだ?」
安くはなるのか。
「あー、投げる用の剣か盾?」
「剣も盾も投げるモンじゃねぇぞ!? あと盾は防具屋だ」
「ソラ、この槍投げやすそう!」
「盾もあったわよ?」
ティアナが細長い円錐状の槍を、ウナは半球状の丸盾を持ってきた。その槍と盾は意匠がどことなく似ている。
「待て、それは隣の防具屋と共同制作した槍と盾だ! 投げて使う気の奴に売る気はねぇ」
手に取って見る前に槍と盾は取り上げられて元の場所へ戻されてしまった。少し怒った様子からして武器を紹介してくれそうにない。気を取り直して遠距離や投擲系の武器が置いてある一角に移動するとジョンが何かを探していた。
「やっぱり
「そういやジョンって講習会の時に見せてくれた銃以外の武器は何持ってるんだ?」
「え? あれ一挺だけだけど」
ジョンの体格を改めて確認する。本当に銃が撃てるのか心配になるくらい華奢だ。
「な、なに?」
「銃の反動で吹っ飛びそうだなって」
「スキルで軽減してるから大丈夫だよ。流石に狙撃銃はうつ伏せか座っての狙撃姿勢じゃないと無理だけど」
ジョンは本当に本気で狙撃手を目指しているのだろうか。
「本気で狙撃手目指すには筋肉足りてなくないか?」
「もう一回本気で狙撃手を目指そうと思ったのがソラ君に会ってからだから」
「銃って今持ってる一挺以外にないのか?」
「家に予備とその予備があるよ。狙撃銃も予備とその予備が」
「なら拳銃もう一挺と狙撃銃二挺を装備に追加だな。あと、近接戦用に短剣も買うか」
「なるほど、銃剣だね?」
携行する銃を増やす事自体に異議は無いのかジョンは短剣が飾られている棚の方へ。
再び店内の武器を見て回っているとアンナに紹介された武器に目を輝かせているリタを発見した。
「凄いわ、完全再現じゃないの」
「見た目だけじゃなくて、重さまで再現したってお父さん言ってたよ」
二人が眺めているのは壁に掛けられた無骨な大剣。身の丈を超える刀身は辞書と大差ない程に肉厚で、子供が隠れられるくらいに幅広い。その隣に飾られた大剣を納める金属製の鞘は艶なしの黒で塗装され重厚感溢れる仕上がりになっている。
『
異名が見えた。どうやら【異名表示】の効果対象は人に留まらないらしい。
「あの剣、何かで見たような……」
「知ってるのウナちゃん?」
「札に書いてある通り漫画じゃないか?」
「ちょっとあんた達、イシヤプロダクション出版の『超剛筋重騎士物語』を知らないの!?」
知らない……ティアナの部屋にもウナの家にも漫画はあったけど鍛錬漬けで読む暇無かったし。
「スタジオ・テンセイの作品しか読んでない」
「私もティアと同じね」
「スタジオ・テンセイ作品と同じ雑誌に掲載されてるのに?」
「「そうなの?」」
そういえばティアナの部屋にあった本もウナの家に届いた本も単行本ばかりで雑誌の類は見かけなかった。
「それは由々しき事態ですわ!」
ティアナとウナが首を傾げた直後、突然店の戸が開いた。少しくぐもってはいるが声の主はティアナ達と同年代の少女……と思われる。
「「「……誰?」」」
「「「「超剛筋重騎士だぁー!」」」」
俺達夫婦三人と他で反応が分かれた。
特にリタと武器屋の店主なんかは目を輝かせて興奮している。まるで有名人にでも会ったかの様な——なんとか騎士本人? いや、違う。
「コスプレイヤー?」
「こすぷれいやぁ? 超剛筋重騎士様にそんな呼び名があったとは存じませんが……」
「あ、いや漫画のキャラクターとかと同じ格好をしたり成り切ろうとする人のことだ」
子供が縦に三人は余裕で入りそうな大きさの重厚な全身鎧にその首から膝上までを覆い隠す程の大盾。その外見でお嬢様な声を発しながら首を傾げられると違和感が凄い。
「でしたら、そちらの魔道士の格好をした方も胸が圧倒的に足りてませんが私と同じコスプレイヤーですわね」
視線がリタへと集まる。
「あ! そっちの嬢ちゃんの格好、どっかで見たと思ったら爆乳魔道士の衣装じゃねぇか。胸の大きさが違い過ぎて気づかんかった」
「ほんとだぁ。お姉ちゃん、おっぱい全然無いねぇ」
「魔道士の格好に狼マント、確かにそうだ!」
リタは防具屋の時と違い、怒りを爆発させるでもなく静かに涙を流し膝から崩れ落ちた。
「だって、だって……同じ格好をしてれば私の胸も膨らむ気がしたのよ」
後で聞いた話によるとそのキャラは漫画の回が進むに連れ胸が大きくなっていったらしい。
「でも、詰め物で誤魔化さない姿はご立派ですわ」
「それは……流派の掟で禁じられてるから」
「実は私も大きい方ではないので胸の辺りはスカスカで小物を収納しておくスペースに改造しているくらいでしてよ?」
「あなたとは良い友達になれそうね」
「まぁ! 嬉しいですわ。
「リタよ。よろしく、リーン」
手を取り合うリタとリーン。
『縁談詐欺 キャスリーン・マルス・オールストロング』と厳つい兜の頭上に【異名表示】で見えるが忠告すべきだろうか。異名が『理想的外見』と頻繁に入れ替わり続けているから判断しにくい。
「そこの超剛筋重騎士様をご存じない御三方には、この『超剛筋重騎士物語』の一巻を差し上げますわ! お気に召しましたら是非とも続巻を書店にてお買い求めくださいまし」
「いや、今どっから出した」
突然力なく垂れた鎧の右腕の腋から左手で三冊の単行本が取り出された。
「あら、すみませんわ。超剛筋重騎士様らしく腹部装甲を開いて出すべきでしたわね」
「うぉ! すげえ完全再現だ」
腹部装甲が少し前開きになるのを見て興奮する武器屋の店主は無視して、単行本を受け取る前に尋ねる。
「一つ聞いていいか」
「三冊とも布教用ですからお気になさらないでくださいまし」
「『縁談詐欺』って言葉に心当たりは?」
そう尋ねた瞬間、リーンの気配が剣呑な気配に——
「ありませんわよ?」
——変わらなかった。
「おいおい兄ちゃん。勧善懲悪モノの『超剛筋重騎士物語』好きに悪いヤツはいねぇぜ?」
「そうよ、ソラ」
「重騎士様は悪いことしないよ〜」
「うん。僕も悪い事する人が超剛筋重騎士の格好をするとは思えないかな」
しまった、俺が悪者の流れになってる。
「私を見かけた男性からよく縁談を申し込まれるのですが、いざ縁談でお会いすると必ず破談を申し込まれますの」
「それは縁談を持ちかけてた本人が破談を言い出したって事で合ってる?」
「ええ、合ってますわ。示談金と破談理由を口外しない事を条件に破談を受け入れてますが、私からお誘いしたことは一度たりともありませんのに詐欺扱いされますの?」
「ちなみに何故破談に?」
「口外しません?」
全員が頷く。
「この前は一緒にピアノ演奏がしたいと申されたのでピアノを片手で持ち上げ、縁談を申し込んできた方を椅子ごと持ち上げて弾いていただこうとしたら土下座で破談をお願いされましたわ」
おかしいな、遮音結界は張ってないはずなんだけど。
「知らなかった。
「ええ。全身で音楽と奏者の躍動感を感じられますわ。最近ピアノのお稽古はコレしかしてませんのよ?」
「違うよ!?
武器屋親子が何度も頷いているからジョンが正しいらしい。
「まぁでも、武器を適当に素振りするよりかはピアノ持ち上げる方が筋トレになりそうだな」
鉄の剣も思ったより軽かったし。
「おい兄ちゃん。そいつは聞き捨てならねぇ。この俺の最高傑作を持ってみな。片手で振り回せんなら売ってやるよ」
言われた通り片手で持ってみる。
「えぇ、そんな!?」
驚いたのは何故かリーンだった。いや、何故も何も格好からしてお目当ては武器屋店主が指差した大剣か。
「そんな軽々と持たれちゃぁ仕方ねぇ。その大剣、兄ちゃんに売ってやるよ」
「いや、いらねぇ」
「なんだと!?」
「そもそも欲しいなんて言ってないし、よく考えたら筋トレはこの
そう言って四肢につけた円環を見せると今度は店主が驚きの表情を見せた。
「兄ちゃん……それ、魔力を注ぐと重くなるっ
「俺は筋肉都市の出身じゃねぇよ。お義父さんの一人が筋肉都市出身だけど……だよな?」
「そうね私の父が筋肉都市の出……って、思い出した!」
突如、頭を抱えだすウナ。頭を抱える手には単行本が——って、いつの間に受け取って読んでたの? ティアナも漫画読むのに集中してるし。
「あの〜その大剣買わないのでしたら、私が買いたいのですけど〜」
「え? あぁ、はい。どうぞ」
「ありがたく存じますわ。筋肉都市と聞いて、そちらの蒼い髪の方を見て思ったのですが『マシヴ・ハイパワー』と言う方をご存じです?」
蒼い髪の方——ウナは心当たりがあるので反応して肩が少し跳ねた。
「もしかしなくても、お義父さん『マシヴ・ニックスキルマン』の旧姓だよな」
「ええ、そうよソラ」
「では! 貴女のお父様が超剛筋重騎士様のモデルとなった『超鋼筋獣騎士』! 筋肉都市の英雄ですのね!」
「「「「な、なんだってー!?」」」」
「あ、あの私も最近冒険者を始めまして。も、もしよろしかったらパーティに加えていただけませんか?」
タンク(仮)なお嬢様? が仲間になりたそうな目で(兜で見えない)こちらを見ている。
仲間にしますか?
〉はい。
いいえ、とは言わせませんわ。(選択不可)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます