第12話 交換チケット
「うちにそれより上等な防具はねぇ」
防具屋の親父は俺の着ている服を指差しそう言った。俺が今着ている作務衣に似たこの服は
「廉価防具じゃなくてお店に置いてある防具よりも上等ってこと?」
「あんた、いい服着てるわね」
結局、ジョンとリタとはお試しでパーティを組む事になった。ジョンは他にパーティを組んでくれる人がいない為、リタは『
「おかげでチケットの使い道が無い」
「だったらフード付きのマントにしなさい。意外と消耗品なのよ、擦り切れたり風で飛んでいって失くしたりで。復習がてら講習会に参加してマント代を節約する冒険者は多いわよ」
「そのわりにリタさん、講習会にいなかったよね?」
「私のこの狼マントが廉価品だと思う?」
チケットと交換できるフード付きマントを手に取り、リタが着ている狼の頭が右肩に付いたマントと見比べる。
「マント部分は大差無いだろ」
「え!? あ、本当……だ?」
「正解。狼頭の肩鎧は特注だけどマント部分は付け替え可能よ。ところでソラ、あんたの連れ二人えらく静かだけど大丈夫?」
ティアナとウナは部屋を借りて話をしていた時も一緒にいたが、お試しでパーティを組む事にした際に軽く自己紹介した程度しかリタとは喋っていない。ちなみに借りた部屋はリタが客としてそのまま借りる事になった。三世と似た生活環境で過ごせば同じ栄養が胸にいく体質になれるかもしれないとかなんとか。
「ああ。二人は人見知りみたいなもんだ。そのうち慣れるだろ」
「人見知り? 昨日、あれだけ暴れ回って訓練場を滅茶苦茶にしたわりに奥手なのね」
「そのわりにはミケコさんや受付嬢さん達と普通に話してたような……」
ティアナとウナは首を傾げている。たぶん、リタの「暴れ回る」か「無茶苦茶」辺りに心当たりが無いのだろう。
「同性同世代かつ上下関係に無い相手限定で人見知りなんだ二人は」
「……そう。ところで訓練場の整地が常設依頼にあったけど、あれ訓練場の状態で報酬額って変わる? ジョンちゃん」
「依頼掲示板はいつも見てるけど報酬額が変わった事は無かったよ? だからジョンちゃんはヤメテって」
「だったら訓練場はまだあのままね。他の所だと専属の術士なりを雇って整備するもんだけど格安の報酬で新人任せにしてるみたいだし」
「そうなのか?」
「うん。今朝、依頼掲示板見るついでに訓練場も覗いて来たけどあのままだったよ。でも、他の所だと専属の人がいるんだね。ミナウス以外の冒険者組合には行ったことないから知らなかったよ」
そう
「にしてもミナウスの冒険者組合はケチよね。他だと講習会の報酬は点数次第で、力試しなんかは内容次第で増えるのよ」
「それ聞くと再回答無しで満点取ったのに損した気分になるな」
「だとしてもマント増えるだけよ?」
「たしかに」
「ジョンちゃんだったら、今悩んでる防具全部交換し……ジョンちゃんって真面目っぽそうだけど何点だったの?」
「知らん。ティアナとウナは満点だったぞ」
「もう! うるさいな、ちゃんと満点取ってからチケット貰ったよ!」
「取ってからね……再回答は?」
「ぅ……三回だけって、僕の点数はいいの! それより防具選ぶの手伝ってよ」
「「胸当」」
ティアナとウナも指差しで答えて全員一致の革の胸当一択だった。
「り、理由を聞いても?」
「ティアナとウナの動きが目で追えるなら頭と腕に当たりそうなのは避けれるだろ?」
「胸当が一番革を使ってる量多いからお得よ、お得」
リタの「お得」という言葉に防具屋の親父は苦笑いを浮かべつつジョンからチケットを受け取り、胸当をジョンへと手渡し口を開く。
「お前さんらチケット交換もいいが普通に買って防具を揃えるって手もあるんだぞ? そっちの兄ちゃんと獣耳の嬢ちゃん達の服に及ぶモンは無ぇが、品揃えは悪くないはずだ。特に胸当の嬢ちゃん、言っちゃあなんだが廉価防具に命を預けるなんて正気の沙汰じゃないぞ。死にたく無いなら装備に金を惜しむな」
「僕、男だから!」
「なんじゃと!? じゃ、じゃあ狼マントの嬢ちゃんも……」
防具屋の親父よ、そこに視線を向けるのは最悪手だろうに。
「だ〜れ〜がぁ! 洗濯板よりも凹凸が無い、絶壁まな板平面女じゃあぁぁ!!!」
「まだ何も言ってな————」
合掌。
ブチ切れたリタだったがお詫びの品にフード付きマントを受け取ると一転して、商人顔負けの交渉術を発揮し何故かジョンの分までマントを譲り受けている。
買い物をする雰囲気ではなくなってしまったので隣の武器屋へ移動すると——
「ピエールお兄ちゃん!? ……じゃない」
——喜色を浮かべるも直ぐに顔を曇らせた童女『鼓笛隊のアイドル アンナ・ポスミス』に迎えられた。
「ピエール?」
「知ってるの!? たくさん女の子連れたお兄ちゃん」
「いや、知らん。あと、俺の嫁はこの二人だけだ」
「お嫁さん!」
ティアナとウナを抱き寄せながら応えると童女は目を輝かせて二人に詰め寄って来たが、何かを思い出したのか離れていく。
「じゃなかった。えっと、いらっしゃいませ。今お父さんはトイレ行ってるので少々お待ちくださいませ!」
わざわざカウンターの裏へ回って台に乗り両手を広げて挨拶する様子は可愛らしかった。流石、幼いながらに『鼓笛隊のアイドル』の異名を持っているだけはある。
「可愛らしい店員さんね」
「そうだね。ところでソラ君、ピエールって君が昨日の昼前に力試しの相手をした人だよ?」
「確かにそんな名前だったかも? いや、同じ名前の別人かもしれん。えっと店員の——」
「アンナだよ!」
「——アンナちゃん、ピエールってどんなヤツだ?」
「えっとね〜盾持っててカッコイイ!」
人違いだった。
「あ、モリ? って槍みたいな武器使うよ」
銛? 木槍……やっぱり合ってるかも。
「最近、さきゅばす? って人達のお店に入り浸って会いに来てくれないから懲らしめて!」
合ってた。
「それは依頼か?」
「え? うん! あ、でもピエールお兄ちゃんはアンナのだからイジメ過ぎないでね?」
「じゃあ報酬を貰おうか。昨日、打ち負かして怪我らしい怪我もさせずにサキュバスの店にしばらく行けないようにしてやったぞ?」
「ソラ君、君が勝ったのは僕も観てたけどお店に行けなくなるって何したのさ」
「回転寿司奢らせた」
「あら、超高級店じゃない」
「それ……サキュバスのお店に行けなくはなるけど他の店にも行けないくらいの金欠になってないかな」
「えぇ本当!? メガネのお姉ちゃん!」
子供からも女性扱いをされショックを受けるジョン。そのショックによる遅れは性別を訂正する機会を失わせた。武器屋の店主がトイレから戻って来た事によって。
「おおう、どうしたんだいアンナたん。って、お客さんか。いらっしゃい、今日は何をお探しで?」
「チケット交換。廉価武器に
「あるにはあるが、チケット三枚だぞ?」
「一枚しかない。ところでトイレ行ってた割に手が乾いてるけど、ちゃんと手を洗ったか?」
「あー! お父さん、またトイレで手洗わずに出てきたの!? ちゃんと手を洗ってっていつも言ってるでしょ!」
「ご、ごめんよ〜アンナたん! お父さん、手を洗ってくるから。あ、お客さん。そこの樽にチケット一枚で交換できるのが入ってるよ」
武御木魚は一言で言えばギターの形をした木魚だ。訓練場で見た時に気になっていたが、金を出してまで欲しいかと問われたら答えは否。チケットで手に入るならと思ってたが残念だ。
「あんた、得物は?」
「特に無いな」
「なら無難に剣かしら。これなんてどう?」
何故か我先にと廉価武器が突っ込まれている樽を漁るリタから金属製の剣を受け取る。汚れや大きな歪みは無い。訓練場の木剣が本物の剣と重さが合わせてあるのは本当だったな。
「ソラ、それ振ったら直ぐに折れるよ?」
「あら、ティアナだったかしら。私の目利きが信用できない?」
「えっと、そうじゃないよ?」
「ほう。それはどういうこったい嬢ちゃん。廉価武器ではあるが柔な造り方はしてねぇぞ?」
濡れた手を拭いてから言ってくれ、武器屋の親父よ。
「もう、お父さん! ちゃんと手を拭いて!」
「アンナた〜んタオル取ってくれてありがと〜お父さんしっかり手を拭くから。お客さん、裏に試し斬りの鎧案山子があるから試してみるがいい。まぁ、手が痺れても文句言うなよ?」
言われて店の裏手に出ると金属鎧を着せられた鉄柱があった。斬れるものなら斬ってみろと言わんばかりの顔が描かれている。
「絶妙にイラッとする顔ね」
「おい、アンナたんの自信作だぞ」
「………………」
剣なんて振った事無いとか言えない雰囲気だな。碌に使えもしない剣とか槍なんて投げた方が有意義なんだけど。とりあえず剣が飛んでいかないように柄をしっかりと握り締め、裏拳の要領で全力で振り抜いた。
金属がひしゃげる音、甲高い金属音——硬いモノが割れる音が響く。
手には柄だけになった剣とは呼べない棒だけが残り、中心辺りで真っ二つに割れた刀身に歪んだ鎧と上半分になった案山子が地面に転がっていた。
「わぁ〜凄い、お父さん渾身の鉄柱折った!」
「案山子バラバラになったけどいいのか?」
「え? うん! アンナが描いた顔無事だし」
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