第11話 来客対応は朝ごはんの後で

「ソラさん、お客さん来てますよ?」


 冒険者になった翌日、宿で朝食を食べていると三世から来客を告げられる。昨日は講習会が終わると時刻は夕方だった事もあり、購買で目的の本を買った後は宿に戻った。アズサの審査は途中で講習会のテストを終えた人が出だして中断、現在保留中と言ってあるがアズサ当人が審査再開を申し出るかどうかも審査の内らしいので今も尚審査中とのこと。


「……おかわり」「「おかわり」」

「だろうと思って持ってきました」


 受け取ったオムレツを食べ、卵に包まれているトマトの甘みに舌鼓を打ちながら来客の心当たりを考える。


 たぶん、昨日会った人の誰か。


 このサラダ、エリンギっぽいのが美味しい。


 誰に会ったっけ? 


 やっぱ味噌汁は鰹出汁だな。


 丸盾、槍……銛? 寿司が美味かったのは覚えてる。魔力残滓が残っているほど新鮮な食材を生で食べるとその食材の最期が見えるせいで頻繁に食べようとは思えなくなったが。


 この米、郷で食ってたのより少し粘り気が強いな……なんて銘柄だろう。


 あとは講習会か。翼耳、銃……次回は魔物の解体だったっけ。解体、解体……肉。


 あ、肉食べたい。朝だから鳥肉かな。


「おかわり。鳥肉を香草とバターで焼いたのも追加で」「「私も」」


「香草の代わりに一昨日ソラさん達から頂いた香草狼牛ハーヴルフ混合角粉調味料シーズニング・スパイスを使ってみてもいいですか?」

「あれカレー味になるから俺の分は香草で」

「私はカレー味がいい!」「私も」

「分かりました。ところでお客さん待ってますけど、いいんですか?」

「うん? 俺達も宿泊客だろ?」


「僕に興味無さ過ぎないかな!?」

「この店だったのね。やっと見つけたわ!」


 痺れを切らした様に店内へ入り、俺達の座る席まで来た女二人。失礼、見覚えのある片方は男だった気がする。


「よう、ジョナサンと……誰?」


 動き易さ優先のパンツスタイルな魔道士風の衣装に狼の頭部を模した肩当てが付いたマントの少女。【異名表示】で異名と長ったらしい名前は見えているが名乗られた覚えは無い。


「なんだろう、余計な文字は入ってだけど最初と最後が合ってるだけましな気がしてきたよ」

「あんたこそ誰よ! 私はこの看板娘おんなに栄養が胸にいく秘訣を聞きに来ただけ——って、何を言わせるのよ!?」


 悲しいくらいの絶壁がそこにはあった。


「えっと……ダイナだっけ? 体質に秘訣も何も無いと思うんだけど。あ、ジョセフはなんの用だっけ?」


「遠ざかっちゃったよ……」

「うるさい! 少しでも可能性があるなら聞いて損は無い! それに私はリタ・インダースとしか名乗った事ないんだけど? って言うか初対面よね」


 しまった……やらかした。


「それじゃあ私は注文を通さないといけないので〜」

「あ、待ちなさい——」

「三世」

「——三世!」


 自称リタ・インダースは三世が厨房の方に引っ込むと振り返り睨みつけてきた。


「とりあえずジョンと……リタ? も座ったらどうだ?」

「あ、うん」「…………何で私の真名を」


 ジョンは素直に、リタは渋々といった様子で隣のテーブル席に腰掛ける。


「もしかしてソラ君って【名札付与レディ・プライマリー】みたいな名前に関係したスキル持ってる?」

「ちょっと、パーティでもない相手にスキルを尋ねるのはマナー違反よ」


 確か【名札付与】は対象の頭上に自分で付けた名前が浮かんで見えるスキル、と昨日買った『冒険者入門』のスキル名鑑欄に書いてあった気がする。


「口止め料代わりに朝飯奢るから黙っといて」

「え、悪いよ」

「そう? なら、私は真名の一部を明かされた迷惑料代わりにいただくわ」

「朝飯食べ終わるまで相手する気が無いから一緒に朝飯でもどうかってだけだ。気になるなら自腹で食べればいい」

「じゃ、じゃあご馳走になろうかな……朝ご飯食べて来ちゃったけど」


 タイミング良くおかわりを持ってきた三世に二人の分と追加のおかわりを注文し、運ばれてきた鳥肉を齧った。小気味良い音と共に香ばしいバターと香草の香りが口腔から鼻腔へと駆け抜け、揚げ焼かれた事で閉じ込められていた肉汁が溢れる。


「あんた達のそれ美味そうね」

「美味いぞ」

「朝定食二人前とおかわりお待ちしました」

「鳥肉のやつ、おかわり」「「私も」」

「ついでに私のも」

「食べたいけど、そんなに食べれそうにないから僕はいいや」


「あと、この二人と話をするのに空いてる部屋を借りたいんだけど空いてるか?」

「宿泊料金いただきますよ?」

「問題無い」

「まいどあり〜」




 朝食を食べ終わり、遅い朝食に入る三世から新しい部屋の鍵となる札を受け取って部屋へ。


「ひとまず、わざわざ部屋を借りた理由を聞いてもいいかしら。えっと、ソラだったわね」

「ね、ねぇソラ君……それは何をする気!?」


 ジョンには俺が操作する魔力がある程度見えているらしい。ある程度、なのは完全に見えているなら検討がつくからだ。魔力で魔法陣を描いてやる事なんて魔術の発動しかない。


「っ!? これ、遮音結界? あんた、そんななりして魔術が使えたのね」

「お前こそ、魔道士っぽい格好をしときながら格闘家じゃねぇか」


 筋肉を見れば分かる。


「勝手に魔法を警戒した相手が近寄って来てくれるからのしやすくて便利なの。この格好」


「二人とも外見から想像つかな過ぎるよ」


「あらジョン、あんたも女の子なのに意外な名前してるじゃない」


「僕は男だよ——って、うひゃあ!?」


 リタは何を思ったのかジョンの胸に手を当て揉む様に指を動かした後、自身の胸に両手で触れ膝から崩れ落ちた。


「や……柔らかい、私……よりも……」

「え、ええぇ……」


「ジョン……お前——」


「違うよ! 僕、ちゃんと男だから!!」


「——筋肉足りてねぇんじゃねぇか?」


「はえぇ? き、筋肉?」


 華奢ではあるが骨格からしてジョンが男なのは疑ってないが、銃を扱う割に筋肉が足らず反動に負けて撃つ度に転がりそうな印象がある事を伝える。


「それは僕の持つスキル【反動軽減デ・リコイル】のおかげだろうね」

「ちょっとジョンちゃん、そうやって不用意にスキルを口にするもんじゃないわよ」

「うん。ちゃん付けはヤメテ? ソラ君が遮音結界を使ったのはスキルの話をする為だろうから大丈夫だよ」


「だったらさっきのテーブル席で遮音結界を使えばよかった気もするけど」


「この遮音結界、魔道具のヤツ見て覚えただけだから融通が効かないんだよ。テーブル席で使ったら食堂ごと遮音結界に包まれてたな」


 俺が展開している遮音結界は魔道具に内蔵されていた魔法陣を感じ取ったモノをそっくりそのまま再現している。しかし字解神モジヨムンの加護で魔法陣は理解できるが魔法陣の仕組みや見た魔法陣に無い魔法陣用言語を知らない為、魔法陣をアレンジをする事ができない。


「それは……営業妨害になるわね。で、なんで私の真名を知ってるか教えてくれるって事?」


「ああ。その前にジョンの用件だけ聞いて席を外してもらうかと思ってたんだが、スキル聞いちゃったからな」


「筋肉……筋肉……え? あ、ごめん気が早っちゃってたみたい。僕、ソラ君達とパーティ組めないかなって思ってて」


「ジョンちゃん……パーティが組めると思って自分のスキルを口走っちゃったのね。いいわ、私のスキルも教えてあげる。私のスキルは【感度良好センシティブ】って言って五感がちょっと良くなるわ」


「俺のは【異名表示ザ・ネームド】つって、異名と名前が見える。リタの場合だと——」


「あ、ちょっ待っ——」


「——『盗賊狩り ダイナ・マイ・プルルン・ボイン・バイン・ニーナ・リタ・インダー』と頭の上に見える」


 って、言ったそばから異名が『巨乳願望』に変化した!?

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