第4話 新スキル
「私、洗礼担当の受付嬢でもありますよ?」
忘れかけていた目的——冒険者になりに来た事を思い出したところ、三世に冒険神の洗礼を受ける必要があると教えられた。そして都合の良いことにフラークさんがその洗礼を行えるとのこと。
「とは言っても、新人以外の受付嬢であれば誰でも洗礼はできますけどね」
「じゃあ俺達三人の洗礼お願いします。あ、三世もついでに受けとく?」
「あ、私は既に洗礼を受けた事があるので」
洗礼を受けたら冒険者にならなければならないわけではない。ミナウスに住む人々は各種組合で洗礼を受け、ステータスを表示できるようにする慣習があるらしい。
「では洗礼について説明をしていきます。とは言ってもやる事は極簡単です。
まず、噴水前の台座にある玉に触れます。玉に触れていると次第に光り出しますので、光ったのを確認してから手を離して下さい。
その後は噴水の前に移動し、両手を噴水内の水に浸します。すると、自分にだけ見えるステータスが表示されます。
それと同時にステータスの使い方が感覚的に理解できるようになりますので、ステータスを閉じて下さい。
以上が洗礼の流れとなります。分からなければもう一度説明いたしますがご質問は?」
この説明を何度もして慣れているのか、淀みなく聞きやすい声で説明するフラークさんが別人に見えた。さっきまでの醜態が嘘のようだ。
「手を噴水から出すタイミングは?」
「ステータスが表示されれた後であれば大丈夫です」
「台座の玉に触れるのは片手でいいのよね?」
「はい。片手でも、両手でも触れていれば問題ありません」
「ステータスが表示できる人が洗礼を受けるとスキルが貰えるって本当?」
「本当ですよ。ただし、自力でステータス表示が可能になった人に限ります。洗礼によるスキル獲得は初回しか起こりませんので、どうしてもスキルが得たい場合は自力でステータス表示ができるようになってから来てください」
「ステータス表示ならできるぞ。それと、自己紹介がまだだったな。俺はソラ」
そう言いながらステータスを表示する。
//
ソラ
年齢 16歳
職業 新婚
ライセンス
・
・煌式戦闘術
・その他
//
「私、ティアナ!」
ティアナが後に続き——
//
ティアナ
年齢 16歳
職業 新婚
ライセンス
・騎虎騎乗者
・煌式戦闘術
・虎武術
・その他
//
「アグーナよ。『ウナ』は愛称だからアグーナって呼んでもらえるかしら」
——ウナも続く。
//
アグーナ
年齢 16歳
職業 新婚
ライセンス
・騎虎騎乗者
・煌式戦闘術
・凍式抜刀術
・その他
//
「職業『新婚』ってなんですか……まぁ、私も職業『看板娘』なんで人の事言えませんが」
そしてなぜか三世もステータスを表示した。
//
ミケコ三世
年齢 乙女の秘密ですニャ
職業 三毛猫のカギしっぽ亭の看板娘
ライセンス
・軽食調理
//
「しまった、郷で籍を入れた時にノリで変えてそのままだった」
「あ、ほんとだ」「忘れてたわ」
ステータスは使えるようになれば表示内容をある程度編集できる。籍を入れた後、職業を新婚に変更できるようになったのを発見して三人でテンション上がって変えたのを忘れていた。
「し……新婚……そんな表記が可能だったなんて……くっ、オホン。先程も名乗りましたが、私はフラーク。フラーク・トーリゴです」
流れでフラークさんもステータスを表示するかと思いきや、表示しなかった。なんでも、冒険者時代のステータス表示のままでお見せできないのだとか。フラークさんの精神衛生的に。
洗礼は特別何かが起こるでもなく、すんなりと終わった。一人づつ順番なので今はティアナが台座の玉を光らせている。
今の内に新しいスキルの確認でもしておくとしよう。
噴水に手を突っ込んだ瞬間に表示された時と同じ状態のステータスを表示する。
///
ソラ
16歳
【スキル】
・次回予告
・
[天恵]
・
〔形質拡張〕
・獣の因子〈虎〉
・臨死体験〈三回〉
///
先程のが公開ステータスだとすれば、こちらは非公開ステータス。信頼のおける家族や仲間でない限り見せる事はない。
久々に見た非公開ステータスで死ぬ寸前の極限まで追い込まれるどころか三回死んでいた事に戦慄を覚えながらも、スキル【異名表示】を選択してスキル説明を表示させる。
///
【
目にしたモノの異名と名前が見える
///
人の名前を覚えるのが苦手な身としては便利と言えなくもない……かもしれない。
「ゔぅ〜ソラ〜……私のスキル、頭にバッテン付いてる〜」
「おかしいですね。デメリットのみのスキルは存在しないはずなのですが……」
俺の思考はティアナの涙声によって中断される。役に立つかどうかも分からないスキルが一つから二つに増えたところで
「ティアナ、ステータスのスキルを選択して説明を見てみたら何か分かるかもしれない」
ティアナは言われた通り、自分にしか見えていないステータスに指で触れるも首を傾げる。
「説明なんて出ないよ?」
「ステータスにスキルの効果が分かる便利機能など無いはずですが」
ティアナが俺にも非公開ステータスを見えるようにして見えたスキル欄には【Xかん】の文字があった。
「これ、バッテンじゃなくてエックスだな」
「エックス?」
「変数とかに使う文字だ」
「なるほど、そういう事ですか」
何か分かった様子のフラークさんの方を向くが、思わず目を逸らしてしまった。笑いを堪える為に。
【異名表示】の効果かフラークさんの頭上に『
そして目を逸らした先で——
「どうしました? ソラさん」
「いやなんで……も——」
——『
「受付嬢のお姉さん、何か分かったの?」
「はい。基本的にスキルは有れば便利、無くても困らない微妙なモノがほとんどです。先程も言いましたがデメリット効果しか持たないスキルは存在しないので、ティアナさんのスキルはその変数なる文字……エックス? に別の言葉が入り複数の意味を持つ複合的なスキルなのだと思われます。今までに無い新種スキルですよ」
「スキルは微妙なモノ」の部分に妙に納得してしまった。【次回予告】は約半年近く新しい『次回予告』が追加されなかったし、【異名表示】は役に立ちそうにない。
「なに……これ……」
「どうしたの? ウナちゃん」
「読めないのよ。新しいスキル」
「おかしいですね、ステータスの文字は
見せてもらったウナの非公開ステータスには【錬筋術】と文字化けしたスキルの二つが並んで表示されていた。
「ソラ、読めない?」
字解神に限らず[天恵]の加護には効果は二種類ある。常時発動の
字解神の加護の発現効果は書いた文字が全ての人に伝わる文字となる効果とこの世界『グランジオール』において使用歴のある文字を一時的に読めるようになる効果がある。
対価となる力を眼に集め、加護を発現。
文字化けしたスキル名を目にした瞬間――途轍もない量の情報が頭に流れ込み、堪らず膝をつく。加護の発現も解けてしまった。
「だ、大丈夫!?」
「あ、ああ。ウナ、そのスキルなんだけど処理中っぽい」
「処理中?」
「たぶん……だけど、スキルとして定着するのに時間がかかるんだと思う」
新種のスキルに、未知の文字化けスキルと彼女達の方が主人公っぽくないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます