第5話 僕の好きな女の子

 僕はわざと竹内を怒らせて、冷静な判断をできなくさせて議論の勝負にもちこんだのだった。

 腕力(わんりょく)では、僕は竹内に勝つのは難しそうだ。でも、議論の勝負では勝つ可能性がじゅうぶんあると何の根拠もなく思った。僕は議論の勝負で負けたことは1度もないのだ。僕は全勝である。議論の勝負をしたのは今までで2歳7カ月の妹のほのかとした1回だけである。しかも、第3者の立ち会いもなく、僕が勝手に勝った事にしただけである。もちろん、第3者の立ち会いが、ほのかの母親でなければ確実に僕に勝利の判定がでたに違いないと僕は確信している。ここまで僕は考えて、ある事に気付いたのだった。議論の判定をしてくれる第3者を決めていなかったのだ。冷静な判断ができる第3者が必要だ。誰が良いだろうか。僕は考えた。僕に友達はあまりいない。判定をしてくれそうな人が思いつかない・・。困った。担任の先生とかどうだろうか。いや、「馬鹿な勝負はするな」と言われそうだ。絶対に止められる。そうすると誰が良いだろうか。どうせ良い感じがする人がいないなら、思いきって僕が好きな女の子に声をかえてみようかと思った。その子なら、僕の味方をしてくれるはずだ。あきらかに僕が勝負に勝っているのに僕に「負け」の判定をしたら、その子の事を嫌いになるかもしれない。僕は一瞬そう考えたけど、そんな事はないはずだとわりと楽観的な僕は考えなおした。僕はその子に声をかける事を決心した。しかし、いざ声をかけようと思うと、緊張でドキドキしてきた。とても声をかけれそうにない。僕が、もじもじしていると竹内が大きな声できれぎみに言った。

「どうした?議論の勝負をするんじゃなかったのかよ。俺は暇じゃないんだぞ!」

僕は、いつも暇そうにしていると心の中でつっこんだが、もちろん声には出さなかった。これ以上、竹内を怒らせて議論の勝負をしてくれなくなったら、困るのは僕なのだ。僕は竹内に言った。「竹内くん、議論の勝負に第3者の判定をしてくれる人が必要なのは知っているよね。それで今から、その人に判定してほしいと言ってくるよ。」

 僕は冷静なふりをしてそう言った。僕の心臓は竹内をこれ以上怒らせないかという不安とこれから好きな子に声をかけようとする緊張で、爆発しそうだ。

 「それもそうだな。」竹内は意外に冷静なのか議論の勝負についてわりと詳しいのかどっちかわからないけど、あっさり納得したようだ。


 僕は今から声をかけると言ってしまったので、もう後戻りはできない。そう考えると心臓のドキドキはさらに激しくなった。僕はこのまま死んでしまうのではないかと思った。緊張し過ぎて死ぬことはないだろうけど、だいぶ汗もでてきて、自分でも本当に大丈夫なのかと思いはじめた。

 

 今さらだけど、僕が好きな女の子について紹介する。その子は同じクラスメイトで、名前は今田 早紀(いまだ さき)さんだ。顔は超可愛くて、スタイルも良い。髪はショートカットで肌も白い。声も可愛いくて性格もかなり良い。僕の理想の女の子だ。これだと何の説明にもなってない気がするが、僕の少ない語彙力ではこれ以上、説明することはできない。僕はその子と今まで1回もしゃべったことがない。

 僕はその子に急に話しかけて、どういう反応をされるのか全く想像できない。

 僕はその子のところに行き、勇気をふりしぼって声をかけたのだった。


(続く)

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