vol.2 小春
記念句会は土曜日だったが、翌日に先約があったため金曜日に有休を取り前入りをすることに。さすがに東京から徳山往復はしたくなかった。普段の出社よりも早い電車に乗り羽田に向かう。1時間早いだけでこんなに電車は空いているのかと驚いた。京成の朝は大変な混雑なのである。
飛行機は岩国空港までのフライト。岩国空港は米軍基地内に建てられた空港だそうで、到着後の外の風景の撮影は禁止である旨の放送が何度も流れていた。そうであるならといつも以上に外の景色を眺めてみた。一度は映像で見たことあるような灰色の米軍機が綺麗に並べられていた。到着が少々遅れたためタクシーで岩国駅まで移動し、乗り込んだのは岩徳線。こんなローカルな電車がまだ生き残っているのかと感心した。1時間ボックス席を独り占めしながら吟行に励んだ。
徳山到着後は紅里と合流。紅里が翌日の句ができていないので吟行をしたいと言い出す。自身が主役の句会なのにも関わらず肝心の句の準備ができていないとは随分肝が座っている。ならばと徳山動物園に行くことにした。徳山動物園の話は何度か紅里から聞いたことがあり、とにかく「小春」がかわいいということだ。秋草の人であればあのレジェンドが思い浮かぶだろうが、こちらの小春はシマウマだったと記憶している。顔と名前が一致する瞬間というのは何ともワクワクするもので、これほど道中興奮しながら動物園に向かうのも久々の感覚だった。
徳山動物園は狭いように見えてとても広い。のんびりと動物を見ていくうちにどんどん奥に吸い込まれて行く。紅里曰く動物達は寝ていることが多いのだが、今日は行く先々の動物が活動的であった。「上川と動物の相性がいいんだよ」と明日の主役にお褒めいただいたが、むしろ相性が良すぎたのか亀の交尾も目撃してしまった。
盛んな動物たちを見ながら、ようやく小春と対面する。確かに美しい馬体をしていて、上品に水を飲んでいた。一目見て紅里が長年惹かれてきた理由がわかった気がした。そして、それと同時にもう一匹のシマウマが居ることも知る。「耳の先が白いのが小春で耳の先が黒いのがソウだよ」。ソウは「霜」と書くというのは帰宅後に知った話したが、どうやら2人は相性が良くないらしく、同じスペースの中にわざわざ柵を作られていて区切られて居た。どうやら霜の小春へのアピールが激しすぎて小春が嫌になってしまったと。確かに区切られた区画内での小春はおだやかに過ごしていて、霜は端の方で気まずそうにしているように見えた。とにかく、小春に出会えたことが収穫だった。これから紅里に小春の話をされても、実感を持って聞くことができそうだ。
結局動物園ではほとんど句を詠まずに駅前に戻り、そこからは日付が変わるまでお酒を飲み続けた。俳句の話は、お酒が入った方がちょっぴり楽しくなる気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます