第4話 死闘の決着と、JC3人組

 11.


「っつ! いってぇ・・・はぁ、はぁ」

 息が切れ、足ももつれ始めた。

 かわせていたはずのナイフが身を切るようになり始め、ついに頬にまで熱が走る。

 ことりたちは、もう逃げ切っただろうか。

 そろそろ俺も逃げてもいいかな・・・?

 ていうか、逃げないと死んでしまう。

(グギャ! グギャー!)

 しかし、ゴブリンは俺を逃がす気がなさそうだ。

 まぁ、すでに3人逃がしてるわけだしなぁ・・・

 考えをめぐらせながら、必死で身をかわす。

 かがみ、のけぞり、半身になり、時には竹刀を犠牲にしながらなんとかしのいでいた。

 喉元を狙う凶刃をかわ・・・そうと思ったのに、足から力が抜けて座り込んでしまう。

「・・・え?」

 やばい・・・やばいやばいやばい!

(グギャ)

 振り上げられたナイフ。

 その先端がこちらを向いている。

 このまま落ちてきたら、俺はあっさりと・・・死ぬ。

 死ぬ、死ぬ!

「うあぁぁぁぁ!?」

「レオにい!!!」

 ことり!?

 あわてて背後を振り返れば、なにかを投げたような体勢のことり。

 ゴブリンに目を移せば、宙を舞う・・・シャーペン?

(グギャー!!)

 獲物を仕留める寸前で邪魔されたゴブリンの眼が、ことりたち3人をとらえる。

 足元の俺と、ことりたちを見比べて・・・ことりたちを視界に収めた。

 どうやら俺、もう抵抗できないと思われた模様。

 そのままゆっくりとことりたちに歩みを進めるゴブリン。

 鈍く光るナイフを掲げながら、醜悪な笑いを漏らしながら・・・

 このままじゃ、ことりたちが、死ぬ。

 しかも、俺のせいで死ぬ。

 ・・・そんなもん、許せるかよ。

 ぐつぐつとたぎる胸の熱が、右手に握る竹刀へと移動するような感覚。

「っ・・・なんだ、これ?」

 竹刀が、光ってる?

 いや、竹刀っていうか、もはや柄の部分しか残っていなかったんだけど、そこから光が伸びて刃を形作っていた。

 腹の底から胸へと湧き上がる熱を、右手へ移せば移すほど刃が伸びていく。

 ゴブリンはまだ気づいていないが、もうことりたちに刃が届きかねない距離だ。猶予はない。

「お、おぉぉぉぉぉ!!!」

 湧き上がる熱のままに右手の刃を掲げ、ゴブリンへと突っ込む。

 相手も直前で気づき、ナイフでガードしようとしたが、右手の刃は一瞬でそれを焼き切った。

(グギャ!? グギャー!!)

 真白の斬線が走り、ゴブリンは断末魔の悲鳴を残して倒れる。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」

 しばらく俺の荒い息遣いだけが通路に響いて、胸の熱が引くと同時、右手の刃も消失していった。

「っはぁ・・・」

「レオにい! 大丈夫!?」

 思わず通路に手をついて突っ伏すと、ことりが走り寄ってきてくれた。

「あー・・・大丈夫。 ちょっと、疲れただけ・・・」

 なんとか答えながら、壁に背を預けて座り込む。

 少し体力に余裕ができたことにより、礼を言ってないことを思い出した。

「・・・あ、ことり。さっき、ありがとな」

「えっ、あ、ううん! こちらこそ、だよ・・・!」

 にへら、と笑うことりの顔は、俺の記憶にある笑顔のままだった。


 12.


「とりあえず、いつまでもここに座り込んでたら危険だな。 さっさと階段で上にあがろう」

 傍らに座ることりに視線をやりながら、俺は言う。

 幸い今のところそんな気配もないが、いつ奥から新手のゴブリンが現れるかわかったものじゃないからな。

「うん!」

 元気よく立ち上がった茶色いボブの横で、サイドテールがぴょこんと揺れる。

 小さい頃からの、ことりのトレードマークだ。

 服装は俺も数年前まで通っていた中学の制服。靴は茶色のローファー。

 これは3人ともに共通している。

「あー・・・それで、ことり? そろそろ紹介してくれるか?」

 ことりの後ろでずっともじもじしている女の子2人にチラリと視線をやりつつ、お伺い。

 ここで自分からグイグイいけるようなら、陰キャやってないんだよなぁ。

「あ、えっと、こっちの髪の短い子がみいちゃん・・・牧田美也子ちゃんで、こっちのメガネの子がしいちゃん・・・北村栞ちゃんだよ!」

「よ、よろしくお願いしまーす」

「・・・よろしくお願いします」

 牧田さんの方はショートカットで腕にはシュシュを着けており、スカートの丈も気持ち短めで、印象としては・・・活発なギャル?いや今時はこれくらい普通なのか?

 北村さんは黒い長髪にメガネをかけた、いかにも文学少女って感じだ。

「よろしく。俺は八島玲央。ことりの・・・なんだろ?近所の兄ちゃん、かな?」

「幼馴染でいいでしょー!」

 まぁ、なんでもいいけども。

「それより、この階の敵はマジでヤバい。さっきも言ったけど、早いとこ上に上がろう」

「敵・・・あの、バケモノだよね。あれ、なんなの・・・?」

 ゴブリンに襲われた恐怖を思い出したのか、ことりが少し顔を青ざめさせながら言った。

「わからん。俺も帰る途中いきなりここに放り込まれたからなぁ」

「レオにいもなんだ・・・」

「俺も、ってことは、やっぱことりたちもここがなんなのかとかわからない感じか?」

 3人そろって、顔を見合わせながら頷く。

 まぁ、そうだよなぁ。

「とりあえず歩きながら話そう。3人とも、ステータスっ・・・ってのは、もう確認したか?」

 会話の中で『ステータス』と口にしただけでも、目の前にプレートが浮かび上がって、ちょっと驚いてしまった。

 慣れないとだなぁ、これ・・・

「すてーたす? わぁ!? なにこれ!?」

 続いて口にしたことりの目の前にも、おそらくステータスプレートが出現しているんだろうけど、俺から見ることはできないようだ。

 急に立ち止まって、目を真ん丸にして中空を見つめているようにしか見えない。

「・・・それ、どうやら自分にしか見えないみたいだから、人前でやらない方がいいぞ」

 その姿があまりにもコミカルだったため、思わず忠告するのだった。

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