EP04-漆:道化師の嗤う声


 宙舟園そらふねえん


 俺が……この笹瀬川ささせがわ清兵衛せいべえが最後に勤めた企業〈X SEEDエクシード〉が運営していた児童養護施設。世の中には幼い頃に親を亡くした子どもが大勢いるからって、世界的に躍進を続ける大企業としての社会貢献がそれだった。


 結局は五年前に閉鎖しちまったが、俺はそこで教えた子たちが誇りだった。特に、俺が一番に関わったのは、坂上さかがみあいという女の子。


 専攻していた宇宙開発の分野は、流石さすがに宇宙ステーションに勤めていた父親譲りの優秀さで、大胆な発想も素晴らしかった。


 唯一の難点は人付き合いが苦手だったことくらいか。そのうち良くなるだろうなんて甘い考えでいたのが良くなかった。二十歳はたちで大学院を出たあたりで気付いてやるべきだった。


 発想が天才のそれだからか、あるいは両親を早くに亡くしてきたからか、何でも独りで抱えがちで周りを頼ろうとしない性格。


 そのせいで、俺はあの子が危険なものを構想していることさえ気づかなかった。


 サイボーグ計画。


 幼い時から望んでいた「宇宙でも生きられる人間の創造」という夢を、あの子は諦めていなかった。それを知った時、そんな非道な方法でさえなければ、きっと喜べただろうに。


 結果として、俺はただ否定することしかできなかった。けれど、それは仕方ないことだ。あの研究は人を不幸にする。


 改造された人間はきっと精神が耐えられない。なにしろ、全体の九割が人工物にすり替えられる身体だ。その時点で人間と呼べるかわからない代物で。倫理の観点で見ても、人間としての幸せのほとんどを棄てざるを得ない存在なんて、許せるわけがなかった。


 けれど、そんな俺への天罰はすぐにやってきた。


 二年前、押し入った強盗に娘夫婦が殺された。それとほぼ同じタイミングで、坂上愛も火災で死んだらしいと聞いた。


 あの時、俺はどちらも助けてやれなかった。薄情な話、実の娘にも負けず劣らず気に懸けてきた子だ。もう一人の娘とまで思った愛弟子まなでしだったというのに。


 それ以来、俺に遺されたのは孫娘の翡翠ひすい、ただひとりだけ。


 両親が死んだとき、燃えさかる家の外で倒れていたというあの子は、どういうわけか左目を失明していた。それが家族をうしなったショックによるものなのか、それとも物理的な傷なのか、知り合いの医者に見せても結局わからなかった。


 引き取ったばかりの頃は、いきなり夜に泣きだすことも多くて。怖いものが視えると、俺の腕の中で縮こまるのは日常茶飯事で。学校に行っている間でも、眼帯を外すとまともに動くこともできなくなってしまうと呼び出されることは度々あった。


 ほどなくして仕事を辞めて、あの子との時間を増やしたおかげか、今は笑顔でいることが多くなったように思う。


 捕まって身動きの取れない今、心残りはそんな翡翠のことだ。独りで寂しい思いをしているかもしれない。それこそ俺を探して危ない目に遭っていないといいが。俺の警察嫌いを知っているだろうから、通報などしていないだろうが。


 いや、たとえ通報していたとしても、きっと無駄だ。


 この街の警察は、信じられない。昔からそうだ。犯罪者を放置するどころか、裏から手引きをしているような節さえある。そうでなければ、あまりに多い行方不明者のうわさも、最近やたらと多い赤マフラーとかいう悪党がのさばることもないはずだ。


「あー、笹瀬川博士、目が覚めたー?」


 薄暗い空洞の中、昨日までの奴とは違う声が反響する。


 縛り付けられた椅子の上で、視線だけを動かす。どういうわけか、サーカスで見かけるようなピエロが見えた。いや、あれはもっと安易なお面か。ふざけやがって。


「やーやー、お元気ですかー? なんか〈スポンサー〉側のおっさんたちに色々とかれたらしいねー?」


 妙に子どもっぽい姿や話し方が、苛立いらだちを増幅させる。


 せた細身だが、昨日までの連中とは明らかに何か違う。ここに連れてこられてから見た中で、最も悪寒おかんのする相手だ。なんというか、得体が知れない恐怖が胸に込み上げる。


「坂上愛については、何も知らないって言い張ってるって聞いたんだけど、ほんとー?」


「死人のことなんて聞いてどうする? 第一、知っていたとしてもお前らになんか話す筋はねぇ!」


 吠えるしかできないのは哀しいが、今は仕方がない。両手を縛るこんなワイヤーさえなければ、今すぐにでも脱出してやりたいが。自分が捕らえられている場所を把握し、脱出ルートを見つけるところまでこぎ付けないことには始まらない。


 助けは来ない。そう思った方がいいだろう。だから目の前の敵の言葉から情報を拾っていくしかない。


「でもさー、弟子だったんでしょー? 例の宙舟園そらふねえんでも、手塩にかけて育てていたって聞いたし、〈X SEEDエクシード〉で部下になった時も大事にしていたって聞いたしー?」


 どいつもこいつも、あの養護施設を何だと思っているんだ。


 確かに坂上愛や早乙女さおとめ歩生明あるふぁみたいな天才がいたことは認めざるを得ない。だがしかし、それだけだ。本当に孤児たちが身を寄せ合って生きていた場所だったというのに。


 会社に入る前から、あの子の宇宙研究への熱意は本物だった。だからこそ俺も純粋に力になりたいと思えた。


「坂上愛にとって博士だけが家族みたいに接してくれた人だったらしいじゃん? 同じ分野の研究者としても理解者だったんじゃないのー?」


「それでサイボーグ計画の設計図を預かっているんじゃないのか、だと? 冗談も休み休み言いやがれ!」


 こんな場所にずっと幽閉されて、訊かれるのはそればかり。


 やれ〈獣核ゲノム・コア〉だ〈実験体〉だとやかましい連中だ。意味なんて理解できないが、とにかくその技術にあの子が一枚噛んだことだけはわかった。


 おそらくこいつらが欲しているのは、彼女が会社に顔を出さなくなる直前に見せてきた『MR計画』とかいう研究のことに違いない。


 それが理由で殺された可能性だってある。火災での死亡なんていくらでもでっちあげられるってもんだ。身内のいない焼死体、その隠蔽いんぺい工作。この街じゃ、簡単に放置されるような事件だ。


 しかし、なんだって二年も前に死んだ科学者の書いた設計図なんか欲しがるのか。大方、兵器開発にでも利用する気なんだろうが。この連中が彼女の計画を知ったのも最近なのか。


 どっちにしても、あんな不幸のかたまりは再現させちゃいかん。何とか逃げ出さなくては。


「あ、そーそー! スペシャルゲストを連れてきたんだ♪」


「ゲスト……、っ⁉」


 身の毛がよだつとはこのことか。ピエロの指先、その天井のシャンデリアからゆっくりと降りてくるのは。


「翡翠ッ⁉」


 この世で最も大事な孫娘の姿。


 縛られているのか。くそ、ここからじゃ光源の上にいる奴が命綱を握っていることしかわからない。良く見えないが何とも仰々ぎょうぎょうしい姿をしているから、こいつと一緒にサーカス団でもよそおって街に潜伏しているのか。


「てめぇ……卑怯者が⁉」


「あれ、いいのかなー? そんな態度とって?」


 指を鳴らす動作に合わせて、頭上でぐらりと揺れた小さな体。まだ軽いとはいっても、人間一人分の体重を支える糸の細さに目が離せなくなる。


 まさか、本気で落とす気ではあるまい。俺から聞きたい情報がある以上、人質を殺したりはしないはずだ。


 だが、それでも。軽く十メートルはあるだろうところから、こんな硬いコンクリートに叩きつけられたら、どうなるか……。想像するだけで震えが止まらなくなる。


「やめろ……やるんなら、俺一人にしろ‼」


「えー? 博士が設計図のことも、赤マフラーを造った科学者の話もしてくれないからー、これが最終手段的な感じなんだけどなー?」


 目をきそうになる。こいつが言っていることは、まさか。


「赤マフラーが……坂上の造ったサイボーグ、だと?」


「え、知ってたんじゃないの?」


 その白々しいほどの問いかけが、何よりの肯定だ。彼女が造り出した兵器が暴れ回っているという事実。しかし、疑問は拭えない。


「だが坂上の設計図は一見しただけでもまだ問題があったはずだ。第一、あれだけの性能を維持できるエネルギー源なんて……」


「それって、これの話?」


 手品のように何もないところから奴の手の中に現れたのは、宝石のような輝き。しかしどこか蠱惑的こわくてきな色に引き込まれそうになるのは何故なぜか。


「じゃじゃーん! 知る人ぞ知る魅惑みわくのテクノロジー、〈獣核ゲノム・コア〉!」


 それが、連中が言っていたやつか。


 ゲノムといえばドイツ語で「遺伝情報」。コアが英語の「核」を意味するなら、そのまま直訳して「遺伝情報の核」という造語になる。


「これさえあれば、どんな技術でも実現可能な奇跡の力! 〈スポンサー〉が能力のある者たちに与える革新の力! そして、選ばれた者を上位の存在へと昇華させる希望の力‼」


 受け売りだけどね、なんて付け足されても、俺には理解できない。どんな技術も実現するだの上位の存在だのと、どこの胡散臭うさんくさいセールスだ。わかりたいとも思えない。


 ただ一つだけ、はっきりしていることがある。


「それを使って……坂上がテロを起こしていると……?」


「だーかーらー、そこが知りたいんだよー。坂上愛の恩師をえさにして、赤マフラーをおびき出すために博士の人形まで用意してさ。でも来たのは、あのお孫ちゃんと変なバイクの男だったんだー。超がっかりだよねぇー」


 こんな拉致監禁を二度もおこなっておいて、まったく悪びれる風もない。しかも俺の人形というのがどんなものにしろ、それに釣られてきた孫娘にまでこんな仕打ちをするなんて。


「ただ、前に〈ホロウ〉が造った方の赤マフラーは〈スポンサー〉を追い詰めるって言ってたんだよねー? なんか知ってる?」


「お前らも坂上の考案したサイボーグを造ったっていうのか⁉」


「僕ちゃんはその時いなかったから詳しくは知らないけどねー? あ、でも〈ホロウ〉が言うには全然うまくできなかったんだって」


 ご自慢のテクノロジーとやらでも想定のスペックに到達できなかった、というわけか。それで設計図を書いた坂上に話を聞こうとしたら、彼女が死んでいて。そうして俺から話を聞こうとした、と。


「ちょっと待て、お前らは設計図もなしにどうやって……」


「違うよー。彼女が売った技術を基に造ったけど、駄目だめだったって話。で、死んだはずの赤マフラーに代わる二代目が現れてねー? それを造った人間を探しているんだよー」


 落胆が押し寄せる。


 あの坂上が技術を売っただと。こんな非道なことをする連中にあんな危険なものを……。


「おじいちゃん……⁉」


 思考をさえぎったのは、愛する孫娘の叫び声。


「あー、起きたー♪ よし、じゃあショーを始めよーか!」


 嬉々とした道化の声。その仮面の下から垣間見えた瞳に、ゾッとした。


「待て、翡翠は関係ない! あの子がお前らの欲しい情報なんか知っていると思うか⁉ やるなら俺だけでいい。俺を吊るし上げればいいだろ‼」


「勘違いしてるみたいだからー、先に言っておくね?」


 くるくると回るピエロが、ケラケラと不気味に笑う。


「最初から、あの子を助けてあげるつもりなんてないよ? だって、殺すためにここに連れてきたんだもん?」


「嘘をつけ! 何かしらの情報を掴むために連れてきたんだろう。あの子を傷つける姿を見せて、俺から技術でも企業秘密でもしゃべらせるために。そうでなければ、筋が通らない!」


「僕ちゃんね、昔から命を狙われてきたんだー」


 さっきまでの楽しげな声が消えた。代わりに、俺の耳に反響する声は……敵意と殺意に満ちていて。


「僕が〈ゲノム・チルドレン〉だからって、たくさんの大人に殺されかけた」


「ゲノム……チルドレン……?」


「そ。生まれながらに選ばれた者。生まれながらに〈獣核ゲノム・コア〉を宿した子。でも〈スポンサー〉に敵対する〈アンチ〉がまだ強かった頃は、僕もいっぱい死にかけた」


 全てを理解はできないが、こいつがつらい目に遭ってきたことだけはわかった。それゆえに、人間としての心が壊れていることも。


「でもね? 死にかけたときに〈当たり〉を食べたことで、僕は覚醒した」


 あの仮面の下で、恍惚こうこつとした顔をしているのかもしれない。そんな印象を受ける声に、戦慄を覚える。


「そこからはたのしかったなー。いっぱい殺せるようになってね。同胞を殺した奴らに逆襲もしたよ。妻とか子供とか目の前で引き裂いて、その肉を口に流し込まれた時のあいつらの顔ったら……、最高だったなぁ……」


 上にいる孫娘の耳を塞ぎたくなるような残酷。だが今の俺たちは縛られて互いに触れることさえできない。


「てめぇ……なんて酷いことをしやがる……!」


「僕ちゃんが味わった痛みに比べたら、あんなの全然じゃない? 僕たち〈ゲノム・チルドレン〉は簡単に死ねないからって、心臓や脳に銃弾を何発も撃つんだよ? 復元してる間もさ、心が痛かったなー。どうして僕ちゃんたちばっかりーって」


「お前……本当に人間なのか?」


 ぴたりとピエロが動きを止める。訳のわからない行動がこんなに不気味なものなのだと、六十五年も生きて初めて実感できた気がする。


「キャハハハ!」


 声を上げて笑う。しかし楽しいからではないのは明白。もっと、おぞましい理由な気がしてならなかった。


「僕が人間じゃない? なら君たちはゴミ以下だ! この〈実験〉の果てに生き残るのは、選ばれし王にかしずく者だけ! どうせ消えるくずなら、せめて僕たちを愉しませてから死んでよ‼」


「ごふぁ……⁉」


 脇腹を蹴り飛ばされる。あの細い身体のどこにこんな力があるのか。この老体と一緒にくくりつけられた椅子も倒れるが、道化の面をした悪魔はただ見下ろすばかり。


「さー、孫娘と自分、どっちを先に殺してほしい? まあ、どっちにしろ、簡単には殺さないけどねー♪」


 舌なめずりをするような音がした。ダメだ、こいつを止める手段なんか思いつきやしない。だが、それでも。翡翠だけは、逃がさないと……。


「やめて‼」


 上から聞こえた叫び。それがあの子の声だと認識するより先に、悪魔が振り返る。


「おじいちゃんに、ひどいこと、しないで……!」


 泣いている。大事な孫娘が、俺を守ろうと必死に声を荒らげて、泣いている。


「ふーん。じゃあ、君から死になよ」


「きゃ……⁉」


 細い手で合図した途端、悲鳴にもならない声がした。俺に遺された最後の守るべきものが、今、落ちてくる。


 手を縛られたままだから、頭から激突するのは避けられない。


「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」


 もうダメだと思って、目を伏せたくなった。


 その瞬間。


「翡翠……、ッ⁉」


「え……うそー?」


 目を疑った。ただの子どもでしかないはずの翡翠が、白い光を放っている。


 まるで風でも味方にしたようにふわりと地面に降りて。孫娘も状況が理解できていないのか、きょろきょろと辺りを見回している。


「あれ……もしかして、君って……〈当たり〉?」


 言うが早いか、一瞬で翡翠のところまで移動していた道化。まずい。


「逃げろ、翡翠⁉」


「あー、この目かー!」


 俺の声が届くより先に、ピエロの手があの子の眼帯に伸びる。じたばたと抵抗した翡翠の首を掴み上げる道化師がまたわらう。


 あらわになった眼。本来は色があったはずなのに、今はにごった白だけしかない。


「うわー、なにこれ、綺麗に真っ白じゃんかー! 激レアだー! って、あれ、左目だけ? 他の部位はお変わりないんですかー?」


 シャツを引きがそうとする下劣な悪魔に、必死に足を動かすが効き目はなく。それでもあの子はにらみつけるのを辞めない。


「おじいちゃんに……ひどいこと、しないで……!」


 その声を聞いたからか、それとも確認するだけ無駄だと思ったのか、奴の手が止まる。


「へー、あんな老い先短いのが助かる方がいいんだ?」


「大切な、おじいちゃん……だから……」


 やめろ。やめてくれ。俺は良いから、お前だけは。お前だけは……死なないでくれ。


「よし。〈スポンサー〉が欲しがる完全な〈当たり〉になれるか試すために、君の目の前で殺すことにしよう! もう、徹底的にぐちゃぐちゃになるまで!」


「⁉」


 数メートルは離れたここからでも、孫の顔が強張こわばったのがわかる。


 飛び降りてきたのは蜘蛛くものような怪物。そいつが孫娘をがっちりと捕まえて放さない。


 交代で道化師がこちらに戻ってくる。殺されるのはわかっている。だが、それでも。


「わかった! 俺は殺していい! だから、翡翠だけは……助けてくれ‼」


 無駄かもしれない。けれど、懇願こんがんせずにはいられなかった。


 この子だけは、死なせたくない。


 こんな場所で、こんな奴に殺されたなんて、天国に行った娘夫婦に顔向けできない。


「ダメだよー? 数少ない〈当たり〉を逃がすなんて、〈ホロウ〉に怒られちゃう」


何故なぜだ⁉ どうしてこんな筋の通らないことを平気でする⁉」


「筋なら通ってるじゃん。僕ちゃんたちが新たな世界を造り出す。そして完全な統治が始まるんだ。そのために必要な犠牲が、あんたらゴミくず。ほら、筋書き通りでしょ?」


 涙ながらの言葉なんて、無意味だった。こいつらに人間の心なんてない。本物の化物だ。


「やだ……おじいちゃん‼ おじいちゃん‼」


 助けてくれ。誰でもいい。この際、悪魔だろうが死神だろうが、構わない。


 あの子だけは、幸せにしてやらなきゃいかんのだ。この老いぼれの残った人生すべてをなげうっても、助けなきゃならんのだ。


 親代わりとしての使命でも何でもない。ただ、翡翠の笑顔に救われたのが俺だったという話だから。


 娘の美鳥みどりと、その伴侶になってくれた源治げんじくんが死んで。おまけに可愛がってきた愛弟子まで、拒絶したまま言葉も交わせず、あの世に連れていかれて。


 そうして、ぽっかりといた心を救ってくれたのは、孫娘の翡翠だった。


 あの子が救われないなら、こんな世界、ただの地獄じゃないか。


「じゃあ、業火で豪華な解体ショーの始まり始まりー‼」


 おもむろに振り上げた手には火柱。どんな方法だったとしても、これを受ければただでは済まない。


 ああ。神様。俺は死んでもいい。だが、どうか翡翠だけは、どうか……。




「ミッションコード……変身」




 鋭い刃のような冷たさと、荒々しい獣のような熱さ。そんな二律背反をはらんだ声が響き渡る。


HOPPERホッパー


 機械の音が鳴ると同時に聞こえたのは、うめき声。それが孫娘を捕えていたはずの怪物のものだと気付くより先に、道化の面を借りた悪魔が振り返る。


「本当に助けに来たんだ。ねえ……、二代目の赤マフラー!」


終止符ピリオドだ……」


 見えたのは、孫娘を抱きかかえて立つ銀の影。


「お前を殺しに来た……!」


 血赤のマフラーをまとう死神が、そこにいた。

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