セバスチャン

「セバスチャン、これ、壊れてるんじゃないか」


旦那だんな様、ちゃんと音は出ておりますよ。あとセバスチャンではありません」


「しかしセバスチャン、ちっとも電話の内容が聞き取れないじゃないか」


「旦那様、鉱石ラジオはそういう電波を受信するためのものではありません」


「そもそもだ、電話会社の暗号コードくらい難なく解けるはずのお前が、主人であるこの私の命令をさらっと拒否するからだぞ」


「旦那様、確かに可能ではありますが、それは犯罪ですので」


「どこの馬の骨とも知れない男と、今夜も娘がキャッキャウフフな会話をしているかと思うと、もう発狂しそうだ……」


「旦那様、そんな慣れない道具まで使っている時点で、充分に狂っている側かと」


「海より広い私の心でも、うちの可愛い娘のこととなれば別だよ、セバスチャン」


「旦那様、いい加減に変な呼び名から離れないと海より広い私の心でもグーパンですよ」


「しかし何か他に手はないのか、セバスチャン」


「旦那様、いい加減に諦めてはいかがでしょうか」


「セバスチャン、なぜそんなことを言うんだ。お前は私の忠実な執事だったじゃないか」


「旦那様、お嬢様はもう高校生です。立派に恋をなさるお年頃かと思いますよ」


「いーやーだー! おっきくなったらパパとけっこんしゅるー、って言ってたもーん! パパはずっとあの子のそばにいたいんだもーん‼」


「旦那様、いきなり幼児のような口調にならないでください。読者様が混乱します」


「あ、そうだ。風に乗って声が聞こえる魔法使いとか、相手の心のドアを簡単にノックできちゃう超能力者とか、そういう人脈に心当たりとかない?」


「仕方のない旦那様ですね。では私がお嬢様の部屋へ様子をうかがいに行きましょう」


「おお、その言葉を待っていたぞ、伝説のエージェント《淡色たんしょく》!」


「旦那様、それ以上を口にするのなら、どうぞ缶詰の中に詰められるお覚悟を」


「そんなことより、早く行ってきてくれ。可能であれば相手の名前とか聞き出して、ついでに始末してくれると助かる」


「旦那様、あくまでお嬢様に害をなす男と知れた場合は、洗いざらい罪を白状したくなるまで追い詰めて、サクっと追い払います」


「はっはっはっは。これで勝利の朝焼けを観るのは私、ということだな」


「それでは旦那様、おやすみなさいませ」



「はてさて。調査したはいいが」


(お願いですから、このことは黙っていてくださいまし!)


「ふむ、どんな嘘をでっちあげたものか」


(これがバレたら、わたくし、もう……)


「しかし、あの父あって、あの娘あり、ということだろうか」


(お父様にあげる誕生日プレゼントを思いつきませんわ!)


「まったく、不器用なご主人様たちだことで」

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《短編》置き場 スリッパ @Slipper0514

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