03 小さくなった第二皇子
煌びやかなシャンデリア、高そうな装飾に置物、飾り物の甲冑、そして赤い絨毯。
度々訪れることのある皇宮の中はいつ来ても、身が引き締まる思いがする。一貴族として、それも爵位の一番上である公爵家の娘であっても、貴族と皇族の暮らしはまた違うんだなと言うのが実感できる。
そんな皇宮内のとある一室に私たちは案内された。
部屋の前には屈強な兵士が二人立っており、その兵士にお父様が声を掛けると、直ぐに中へと通された。
「やあ、久しぶり。ステラ」
「ご、ご無沙汰しております。ソリス殿下」
「固いなあ、ステラは。そんな取り繕って言わなくても大丈夫だよ。皇太子の俺が許すんだから、いつもの砕けた口調で言いじゃないか。幼馴染みなんだし」
「……皇太子に、幼馴染みって言われるとゾッとします」
「あはは、でも事実だしねえ」
部屋に入るとすぐに、美しい銀髪の青年が話し掛けてきた。
ソリス・ウィズドム皇太子殿下。この帝国の皇太子であり、次期皇帝になるお方。そして、一応幼馴染みでもある。
私のお父様と、ソリス殿下のお父様が戦友だから……と言う簡単な理由である。そのため、他の貴族よりも多く皇宮に招かれ、皇族と言葉を交している。
ソリス殿下は、ニコニコと微笑んでいて、まるで太陽がそこにあるかのようだった。
しかし、彼の腹の内は読めない。彼は、いつも笑顔だがそれは仮面のようなものだ。彼は、いつも本音を見せないし、その笑った顔を崩さない。こちらを見透かしているようにも見える。
それはさておき、ソリス殿下は私が認める強い男の一人でもある。彼は、剣の達人で、今や皇帝の次にその腕を各地にとどろかせているほど手で、剣豪の名にふさわしいお方なのだ。
「それで、私達は何故呼び出されたの?」
「ああ、それね」
「それって……それの為にここに来たの。『帝国の一大事』って言うから……てっきり、ソリス殿下に何かあったのかと思って」
「俺の事を心配してくれたの? ありがとう。でも、俺はステラの方が心配かな。ティエラ伯爵子息に婚約破棄されたって聞いたけど」
「何故それを知ってるの?」
「さあ、何故だろうね」
ニコニコと、ソリス殿下は笑ってはぐらかした。
まだ、婚約破棄されてから数時間しか経っていないのに、どうしてソリス殿下の耳まで入っているのだろうか。情報の出回りが早すぎる。婚約破棄された本人が言いふらしたわけでも無いのに。
そんな風に、不審な目を向けていればソリス殿下はハハッ、と笑って口元に手をやった。
「ごめん、ごめん。ティエラ伯爵子息……えっと、カナールだったかな。彼本人が言いふらしてたんだよ。君の悪口も含めて」
「もう、どうでも良いわよ。終わったことだから」
「相変わらず、切り替えが早いねえ。でも、俺は許せなかったからちょーっとお仕置きしておいたよ。これで、君の悪口は言えない」
「……な、何をしたんですか?」
「それは、秘密」
と、ソリス殿下は、私の口元に人差し指を立ててウィンクをした。
本当に、何をしたというんだろうか。気にはなるけれど、まあ良いだろう。それよりも、私はもっと気にしなければならないことがあるのだ。
私は、ゴホンッ、と咳払いをして話を戻す。
すると、お父様がこちらを見た。見たと言うより、睨んでいるように思えた。私とソリス殿下がいかがわしい雰囲気になったとか勘違いしたからだろうか。お父様は、勘違いが激しいタイプだから。
私は、ソリス殿下を優しく突き放して、もう一度咳払いをする。
「それで、『帝国の一大事』とは、何があったんですか? ソリス殿下や、陛下のことでも無いみたいですけど……」
「フッ……それはね」
ソリス殿下は笑いながら指を鳴らした。それと同時に、部屋の扉が開く。そこには、見慣れない銀髪の少年が騎士に連れられてやってきた。
その瞬間、私の心臓が大きく跳ね上がった。
(か、かわ……可愛い……)
小さな口、クリクリとした大きなサファイアの瞳、折れそうな白い足、そして、柔らかそうな頬。
一言で言うなら、天使。いや、もう天使以上に可愛いと言っても過言ではないくらい可愛らしい容姿をしていた。
そんな、天使のような男の子は私を見ると、もじっと騎士の後ろに隠れてしまった。その表情や上目遣いだけでご飯三杯はいけそうだと思った。
「でででで、殿下。彼は、ああ、あの子は一体!?」
「まあ、落ち着いてステラ……何か、想像とは違うリアクションだね」
「逆にどんなリアクション期待していたんですか!?」
思わず、興奮気味に叫んでしまった。
だって、こんなにも愛くるしくて、可愛くて、守ってあげたくなるような子なんてそう簡単にはいないだろう。
それに、この子が誰なのか分からない。まさか、隠し子とか言わないだろうな。ソリス殿下は婚約者がいないし……それに、何処かで見たことがあるような気が。
いつまで経っても、ソリス殿下が紹介してくれそうに無いので、私からその子供の方へ歩いて行きその子の前で屈んで目線を合わせた。その子供は、怯えながらも私と目を合わせてくれた。近くで見るとその愛らしさが一気に増す。
「初めまして。私はステラって言うの。僕、お名前なんて言うの?」
私がそう聞けば、足下にくっつかれている騎士や周りの人達の顔色が少しだけ青く、どんよりとなった気がした。気のせいだろうと思って、ん? と首を傾げてみれば、その子が小さな手を私に差し出してきた。
「ぼく……ゆーいん、って言うの」
「ユーイン、いい名前だね…………って、ユーイン!?」
名前を聞いた瞬間、私は勢いよく後ろに飛んだ。そして、ソリス殿下の方を見る。ソリス殿下はお腹を抱えて笑っていた。それはもう、酷い笑いようで……
「ちょちょちょ、ちょっと! ソリス殿下!? これどういうことなんですか!?」
「どうも、こうも。ユーインだよ。ユーイン・ウィズドム。俺の弟だよ」
「ででで、でも、小さくなって……ええ!?」
頭では理解が出来なかった。
いや、完全にその前までの記憶が吹き飛んでいた。帝国の一大事、ユーイン様が小さくなったとは聞いていたけれど、本当だったのだと。お父様のあれは、周りにバレないためのフェイクかと思っていたのに。
(ま、ま、マジで?)
と、心の中で叫んだ。
まだ理解できない。そんな風に目を回していれば、先ほどまで騎士の足にしがみついていた小さいユーイン様が私の方に走ってきて、ドレスの裾を引っ張った。
「ど、どうしたんですか? ユーイン殿下……」
「あのね、あのね……ステラ。僕と結婚を前提に付合って欲しいんだ」
「うううううん?」
その言い方、口調、顔、潤んだ瞳。全てが愛おしくて、愛らしくて、破壊力が抜群だった。
(え、まさか、今、私……婚約を迫られてるの――――!?)
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