第6話 新たな非日常

 あれからオレたちはいろいろなところへ遊びに行った。遠出はできないが、街中にあるものを思いつくところへ行った。ゲームセンター、カラオケ、映画館、ショッピングモールでで意味もなく歩き回ったりした。水族館とか動植物園とか。色々なところへ見て回った。

 いくつかの言葉を紡いで表現するのはできるが、そんなまだるっこしいことはしない。いや、しなくてもいい。オレたちの間にある感情はすごく楽しかった。この一言で集約させれてしまう。

 オレは真衣と遊びまわって、感銘を受けた。普段ならただただ通り過ぎているだけの施設、誰かといっても、特に何も思わなかった。だけど、2人で遊びまわると景色が違って見えた。感情すら違って感じた。

 真衣も、オレと一緒にいるときは輝いて見えた。昔、真衣自身が暗いオーラにまとわれていた。それが真逆になっていた。オレは、真衣に思っていたのは、自殺という行為に惹かれていただけ。だけれども、今は違った。笑顔に、仕草一つ一つに心を打たれるのだ。

 真衣も、同じことを思ってくれているのだろうか……そう考えると、少し恐い。でも、考えるのは無駄ということにしよう。この恐怖も、毒になりかねない。


 オレは、いつも通り、待ち合わせのあの廃墟へ向かっていった。真衣はまだ来ていないようだ。そういえば、初めて会ったのがここだったなと近い昔に思いをはせようとしていたが、珍しい先客がいたのだ。見知らぬ女性だ。オレより上だろう。女性は膝をたたんで何かをしていた。

 オレはその様子を覗いた。

 花束を前に女性は手を合わせていた。

「どうしんですか?」

 そう言葉にしようとしたが、張り詰めた雰囲気から言い出せずにいた。オレはただ後ろで立っている不審者のようだった

「お姉ちゃん、また来るよ」

 女性は、誰に向けるのかわからない言葉を投げかけた。その言葉はただ風に流されるだけであった。

 オレは声をかけるかどうか迷った。というか、このまま黙っていた方がいいのではないか、認識されない方がいいのではないか、そんな気がしてきた。

 花束を前にしているということは、献花であろうかと勝手に推測する。

「ああ…………」

 そしてオレはふと思い出した。そういえば、ここは心霊スポットだったな、と。昔誰かが死んだって……。じょあ、この女性はその妹さんなのだろうか。

「じゃあね」

 寂しそうに告げた。女性はそう言って立ち去って行った。

 オレはその背中をただ見守るだけだった。その背中からは哀愁が漂っていた。

 オレは女性の背中を見届けてから、前を向く。そしてかがみ、花束を見つめた。

「変な不審者になっちまったかな……」

 変な独り言をつぶやいて、苦笑いを浮かべる。

「あれ?」

そしてオレは花束の中にメッセージカードがあるのに気が付いた。亡くなったお姉さんに向けてのものだろう。オレは辺りを見渡し誰もいないか確認する。それからそれをつい興味本位に覗いた。

「これは……」

 オレは、その中身に驚愕した。ものが言えなくなってしまった。絶句したのだ。

 そういえば……。

 オレは、ハッとする。まさかと思った。そして気になってしまってしょうがないことが出来たのだ。

 調べにいかなければならない。そう思ったら居ても立っても居られない。真衣には申し訳ないと思ったが、今日の予定はキャンセルしよう。

 そして、オレは走り出したのだった。

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