『宇宙人はいなかった』 中の2


 ションはゆったりと、浮上したのである。


 艦外映像を見ながら、艦長とシポクは驚いた。


 そこには、大量という数を、はるかに通り越したような、無数の生き物が居た。


 体長は、1.5メートルくらいだが、個体差がかなりあり、大きいのは2メートルはありそうだ。


 はんぺんか、じゃこ天か、そうした平たい身体に、短い触手が4本生えてある。薄い茶色から、やや、桃色なのも居て、必ずしも一律ではない。性別はすぐにはわからない。服は着ていなかった。頭と胴体の区別は付きにくいが、目のようなものは、確認できる。生き物であることは間違いない。知的なのかどうかは、判断できないが、互いにコミュニケーションは行っているようにも感じられた。


 なんといっても、特徴的なのは、口である。


 それは、長い棒のように尖っていて、しかも、自在に伸縮するようだ。


 身体全体を船のようにして、海に浮かばせている。


 そうして、さかんに、その口を海中に突っ込んでは、獲物を捉えているようなのだ。


 しかし、それだけではない。


 なんと、連中は、ションの上にも這い上がり、その口を突き刺そうとする。


 いや、突き刺すのだ。


 『信じがたい。この、ジャラルムン合金の船体を突き刺しています。指令室あたりは、特に頑丈ですから、突き刺せなさそうですが、ドッキング貨物部分が突き抜かれそうです。なんらかの化学物質か、なにかを分泌していますね。あり得ない。』


 『キンキュー。キンキュー。854部分ハソン。シンニュウブツあり。キンキュー。キンキュー。』


 コンピューターが叫んだ。


 『映せ。ほら。』


 『あいあい。わ! な、なんだ。』


 なんと。そのやや弱かった天井から、その怪物たちの長い口が侵入してきて、たまたまそこで働いていた船員の身体を突き刺したのだ。


 海中の魚と同様に、船員の身体は分解され、吸い取られてしまった。


 『なんということだ。避難。区域を閉鎖しろ。』


 『船体に、高圧電流をかけます。』


 『よし、やりたまえ。』


 ばしばしばし!


 ションに乗っかっていた怪物たちが、海にずり落ちて行く。


 『飛べ、飛べ、緊急離陸。』


 『あいあい。』


 ションは、大慌てで、海上から飛び上がった。


 大量の海水が流れ落ちる。



     

 


 

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