第五十三話 メリウスは気が利かないのよ!
ドメーヌ城地下の混浴温泉から戻った小金崎隼人は、メイドから渡された部屋着に着替えていた。
シルバーグレイのスーツに淡いブルーシャツ姿になって、ディナールームへの大きな廊下を歩く。
双子の王子たちを案内するメイドと一緒に小金崎は移動した。
前には、ランティス王子の金髪とティラミス王子の銀髪が見えていた。
双子の王子たちも同じ色のスーツ姿を着用している。
シャツの色は小金崎と違い淡いピンク色だった。
窓のない幅広い廊下の壁面には、等間隔で絵画が飾られていた。
「小金崎さん、他の三人の女性も来られますか」
「ええ、直接聞いていませんが、多分」
小金崎は、ランティスに答えて、王子たちが傍にいることにほっとしている。
メイド長のクローラと一緒に、メリウス、零、玲子の三人が別の方向からやって来た。
廊下が交差した角での遭遇だった。
「メリウスさん、他の三人を見ていませんか」
ランティス王子が尋ねた。
その時、別のメイドに案内された、早乙女沙織、南香織、山女京子の三人が、部屋着と呼ばれたドレス姿でメリウスたちの前に現れた。
メリウスは咄嗟に無詠唱魔法で、日本の四人にマナースキルをも与える。
「メリウスさん、今、何かしませんでしたか」
「小金崎さんたち四人に、マナースキルを追加しただけです」
緑髪に緑の瞳のターニャと秘書セーラーが、スカートスーツ姿でディナールームの入り口に立っていた。
髪と瞳の色に合わせた淡い緑色の衣服が彼女たちを引き立たせている。
「セーラ、メリウスさんの到着が遅いですね」
「ターニャさん、何か、用事でしょうか? 」
目の前にクローラと一緒のメリウス、零、玲子の姿が視界に映る。
双子の王子と見慣れない男性がいた。
その背後にも、見慣れない女性がいる。
「メリウスさんたちを待つように、ドメーヌ国王からの指示がありました」
「なんでしょうね」
「多分、新しいゲストの件じゃないでしょうか」
メリウスはターニャの言葉を受け、背後にいる日本人四人を順に軽く紹介した。
「小金崎さん、早乙女さん、南さん、山女さんです」
ターニャとセーラも初対面の挨拶を省略して喜んで四人を迎えた。
「じゃあ、みなさん、国王がお待ちですから、
ーー ディナールームに、お入りください」
ルシアの秘書セーラが誘導して招き入れた。
メイド長のクローラはメリウスたちに付き添っていたが出入り口でメイド控え室に消えた。
セーラが廊下側のテーブルに日本からのゲストを着席させようと案内した時だった。
第二王女のルシアが慌てて、セーラの処にやって来る。
「セーラ、そこの席はダメ。
ーー だって、私もコットン姉さんも、
ーー 小金崎さんに、とても親切にしてもらっているわ」
ルシアは、そう言って、窓側の列のテーブルをセーラに用意させた。
「すみませんね。
ーー 小金崎さん、事情を知らない者の不手際をお詫びします」
「ルシアさま、お気になさらないでください」
「小金崎さんが気になさらなくても私が気になるのよ」
コットン譲りの頑固な性格が首をもたげ始めた時、紫髪に紫の瞳の第一王女コットンがルシアの前に秘書ニーナを引き連れてやって来た。
「ルシア、何しているの?
ーー 小金崎さんたちをお父様に紹介して上げましょう」
コットンが言った。
「コットンさま、私がドメーヌ王の処にお連れします」
「メリウスさんなら、安心ね。
ーー お任せするわ」
魔法使いメリウスは、四人に無理を言って、国王の前に連れて行き挨拶した。
第一王女コットン、第二王女ルシアもメリウスと一緒にいる。
「ーー と言うわけで、
ーー お父様、私たちの日本での恩人です」
ドメーヌは、ルシアの言葉を聞いて次の言葉を飲み込む。
「それで、みなさんは、どのくらい滞在されますか」
「・・・・・・ 」
「お父様、そんな言い方したら、答えられないわよ」
「そうね。ルシアの言う通りよ」
コットンがルシアを援護をしている。
「じゃあ、言葉を変えよう。
ーー いつお帰りの予定ですか? 」
「お父様、それもよくないわよ」
「ルシア、コットン、
ーー 私も、その日本という国を見て見たいのだよ。
ーー 娘なら、父の言葉の意味が分かるだろう」
ルシアとコットンは首を横に振って否定した。
ルーク・ドメーヌは困った素振りを見せて筆頭執事のスペードを呼んだ。
「スペード、今日のおすすめワインを、
ーー ルシアとコットンの日本の人たちに差し上げてくれないか」
ルシアとコットンは、ルーク・ドメーヌの態度に苦笑いを浮かべていた。
スペードは給仕数人呼び、白ワインの準備をさせた。
ルシアとコットンがゲストのテーブルに寄り、小金崎隼人と南香織の緊張をほぐしている。
玲子も昔の友人、早乙女沙織に声を掛けてリラックスさせた。
メリウスは山女京子の横に座り言った。
「ディナーは、これからです。
ーー ゲストですから、気にせずにリラックスしてください」
「そうよ、京子さん、リラックスよ」
零がメリウスの後ろから顔を出して微笑んでいる。
給仕が数人、前菜を大きなワゴンに乗せてやって来た。
メリウスたちも気付き、中央列のテーブルに戻る。
「じゃあ、小金崎さん、南さん、お食事の後でね」
ルシアとコットンが同じ言葉を残して自分たちのテーブルに戻った。
執事の数人が白いレースのカーテンを閉じた。
「メリウス、ディナーが始まるね」
「零さま、カーテンが閉まっただけですが・・・・・・ 」
「メリウスは気が利かないのよ」
「零さま、分かりませんが」
ドメーヌ城のディナールームに夕日が差し込んで、窓際が赤く染まり始めた。
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