第五十四話 嫌味に聞こえましたらお詫びしますが。

 ディナーが終わりゲストの小金崎隼人、南香織、早乙女沙織、山女京子の四人は、担当になったメイドに案内されて、第二王女ルシアの部屋に通じる廊下を無言で歩いていた。


 ルシアは、メリウス、夢月零ゆめつきれい優翔玲子ゆうがれいこの同席を、メイド長のクローラに伝えている。

 メリウスたちは、クローラ、ターニャ、秘書セーラと一緒だった。


 第一王女コットンと秘書ニーナは、サーニャと一緒にルーク・ドメーヌの部屋に呼ばれていた。

筆頭執事のスペードがドメーヌ国王の机脇で待機している。


 ドメーヌは、長女のコットンに頼みごとを抱えていた。

それはルシアには、言いにくいことであるからだ。


「お父さま、何か大切なお話でしょうか? 」


「ーー それが、理事長のことなんだが」


 ルークは、ややうつむき加減になって銀髪の髪を両手で挟んで、ゆっくりと話しだした。


「ーー それが、シルクが、先日、ふらっと立ち寄った時」


「お父さま、お母さまが来られたのですか」


「久しく、見ていなかったから、つい、あの性格を忘れていて」


「お父さま、あの性格って」


「そう、昔のコットンの性格に似ている」


「失礼ですわ。お父さま」


 ルークは、拙いと思ってコットンに軽く詫びて、机の向かい側に置かれた新しい大きなソファに腰を下ろした。

 青いソファの前の低いテーブルにスペードの部下の執事が、水の入った飾りグラスをルークの前においた。

 飾りグラスのカット模様が窓から入る夕日にキラキラと輝き反射している。


「コットン、私は、つい口を滑らせて言ってしまったのだよ」


「お父さま、お母さまは口が悪くても優しい方ですから

ーー 私は大丈夫かと思います。

ーー それに、いざとなればメリウスがいます」

 

 ルークは、飾りグラスをもてあそびながら溜息を漏らす。


「そうだね。あれこれ考えても

ーー “覆水盆に返らず”だな」


 ルークはメリウスから聞いたことがある日本の諺を口にした。


「あら、お父さまも、その諺を聞いていたのね。

ーー お母さまは、ランティス王子がメリウスさんたちを紹介した時に、日本の名前を聞いているわ。

ーー 多分、問題ないと思うわよ」


「それなら、私だけ悩んだことになるな」


「お母さまに直接尋ねた方が早いわよ! お父さま」


「ーー そうか。すべて杞憂ならいいのだが」




「お父さま、私は、ニーナと一緒にルシアの処に寄って、

ーー 小金崎さんたちとお茶をしますけど

ーー お父さまも如何かしら」


「小金崎って、日本人の映画監督か? 」


「さっき、メリウスさんがお父さまに紹介した小金崎さんです」


「コットン、分かった。同行しよう」




 ルーク・ドメーヌは、筆頭執事のスペードと秘書サーニャを呼び、私服兵に指示を出させた。

城内とは言え、国王の警備は厳重になっている。


 筆頭執事スペードと私服兵の一人が、ドメーヌ国王の前を歩き先導している。

国王とコットンが並び、秘書サーニャとコットンの秘書ニーナがあとに続く。

 大きな廊下の後方を別の私服兵六名がガードした。


 時よりスペードが後方を振り返り確認した。

国王の後ろには、ターニャと並ぶ実力のサーニャが警戒していた。


 窓のない絵画だらけの廊下を進み、スペードは廊下の端に見える記号で区画を確認した。


「国王、まもなくルシア王女の特別区画に入ります」


 ルシア王女の特別区画には、大魔法使いメリウスが施した結界が幾重にもされていた。

 外部の侵入者が通過すると反応するとスペードたちは聞かされている。


「コットンさま、あと少しで到着します」


 ピンク髪の秘書ニーナが紫髪のコットンに言った。

 ピンク髪のサーニャも周囲に目を光らせている。




 廊下の交差点から、ランティス王子とティラミス王子が担当メイドと一緒に現れ、私服兵が反応して身構える。


「ランティス王子、ティラミス王子、この城内は申請もなく勝手に動いたら火傷では、すみませんよ」


「分かったよ、ニーナさん」


「で、王子たちが、なんで女子区画にいるのですか? 」


 秘書ニーナもサーニャも、この双子の王子の軽さを毛嫌いしていた。


「ニーナの言う通りよ。通行許可証をお持ちですか? 」


「コットン、そんなの聞いたこと無いよ」


「あら、ティラミス王子、知らないの? 今、私が決めたのよ」


 コットンは、時より腹の虫が首をもたげ、以前のころの性格を剥き出しにする事があった。


「まあ、いいわ、ティラミス王子、ランティス王子、私が第一王女の権限で限定解除するわよ。

ーー でも、それは一時的なことよ」


 コットンの強い言葉に幼馴染みの二人はたじたじになっていた。


「コットンさま、私がいるから大丈夫ですから・・・・・・ 」


 国王秘書サーニャが気の毒な王子たちを庇うようコットンを宥めた。




 スペードが立ち止まり、振り返る。

 私服兵たちは廊下の壁際に整列して、双子の王子たちを案内したメイドもルシアの部屋の入り口横で待機している。


「スペード、着いたか」

国王が言った。


 秘書ニーナがルシアの部屋の扉をノックした。

普段ならルシアの秘書の緑髪のセーラが現れるとニーナは思っていた。


 ドメーヌ国王は、微妙な間に胸騒ぎを覚える。

 ルシア王女の部屋の扉がゆっくり開き、メリウスたちのメイドのクローラが出迎えた。


 クローラも、いつもと違うとルーク・ドメーヌが感じ原因を悟る。

おもむろに、ルークはメイド長のクローラに声を掛けた。


「ルシアと会いたいのだが」


 秘書セーラが、隣の扉から顔を覗かせ王に伝えた。


「シルク・ドメーヌさまとルシア王女は、謁見の間でお待ちしています。

ーー メリウスさまのアドバイスがあったようです」


「つまり、メリウスさんは、私たちが訪問することを予見していたのか」

 ドメーヌ国王は、メリウスの未来予知魔法に驚く。


「あら、王様、お待ちしていましたわ」

 朝霧女学園理事長のシルク・ドメーヌ妃が皮肉を込めて言う。


「シルクよ。勘弁してくれないか?その言い方」


「私は、普通ですわ。嫌味に聞こえましたらお詫びしますが」

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