第五十一話 猫は日焼けが苦手でございます。ニャン!

 湘南の別荘の大きな応接室に、金色の光が溢れていた。


 夢月零、メリウス、優翔玲子ゆうがれいこ、第二王女ルシア、第一王女コットン、ランティス王子、ティラミス王子、小金崎隼人、南香織、早乙女沙織、山女京子の十一人の男女が、数珠じゅず繋ぎになって黄金の光の中に入って行った。


「メリウス、扉の中に入れたよ」


「零さま、次元トンネルの中でございます。

ーー 他のみなさんも、私語はなさらないでください」


 次元トンネルの中は薄暗く、靄が渦巻き、ひんやりとしている。


「メリウス、向こう側に明かりが見えているわ」


「零さま、出口でございます」


しばらくして、メリウスたちは記憶にある、異世界の朝霧女学園の正面玄関前に出た。




「零、帰れたわね。

ーー 零と初めて出逢った場所よ。

ーー 覚えているかしら」


「ルシア姉さん、もちろんです。

ーー 令嬢ルシアさまでしたね」

零はルシアを見て微笑んだ。


「今は、第二王女のルシア。

ーー そして零は、私の前世の妹ね。

ーー ところで、メリウスさん、ここじゃ拙いわよ。

ーー 城から離れているわ」


 メリウスは、みんなを中央に集め円陣を作るように言った。

「みなさん、私がまぶたを開いてと言うまで・・・・・・。

ーー 瞼を閉じて頂けますか」


「分かったわ。メリウスさん」

 コットンは、そう言って静かに瞼を閉じた。


 メリウスは、自分以外の男女全員が瞼を閉じていることを確認した。


「じゃあ、みなさん瞼を開いてください」


 メリウスの解除は、すぐだった。


 目の前に見えていた朝霧女学園は消えた。

 メリウスたちは、ドメーヌ城の正面玄関横に転移していたのだ。


 メリウスは、到着すると、新しいゲストの四人に言語スキルを付与した。




「じゃあ、零たちの時と同じく、ゲスト証が必要ね」

ルシアが言った。


 金髪のランティス王子はルシアの言葉の意味を悟り、城の正面玄関に向かう。


 城の正面玄関では、メイド長のクローラが辺りを見回している。


「ランティスさま、メリウスさんたちを探していたのですが、突然、雲隠れして困っています」


「クローラ、それなら大丈夫。僕たちと一緒だから」


 ランティスは、そう言ってクローラの顔前で指を差して示した。


「ああーー 」


「ところで、クローラさん、お願いがあるんだけど。

ーー 四人分のビジター証をお願いしたい」


「ゲストでしょうか」


「ルシアさまが、新しいお友達を招いてビジター証をと、言っていた」


「分かりましたわーー 四人分でよろしいのですね」


 ランティス王子は、クローラにウインクして答えた。

ランティスのそういう癖が誤解を生み、メイドたちの間で囁かれ噂になっているが本人だけ知らない。


 クローラは、玄関脇の管理責任者からビジター証を預かり、ルシアたちがいる場所に小走りに近付き言った。


「ルシア王女さま、王様がお探ししています」


 クローラはルシアに用件を伝えながら、ビジター証をランティスに手渡した。


「クローラ、今日はいつの何時か、分かります」


 クローラは、スカートのポケットから懐中時計を出して言った。


「クローラありがとう。助かったわ。

ーー でも、なんでクローラが私に」

ルシアが小さな声で言った。


「セーラさまは、ターニャさまとご一緒に、王女さまを探していました。

ーー 私は、セーラさまの伝言を受け、メリウスさんたちを探している途中で、

ーー ランティスさまとお会いしました」


「分かったわ。あとで行きますが、その前に紹介するわね」


 ルシアは、小金崎、南、早乙女、山女の四人の前に、メイド長のクローラを引き連れて行き紹介した。


「映画監督をしている小金崎隼人と申します。

ーー お世話になります」


「私は小金崎さんの婚約者でスタッフの南香織です」


「小金崎さんの作品に出演している

ーー 女優の早乙女沙織です」


「小金崎さんの家政婦の山女京子やまめきょうこです。

ーー お邪魔にならなければ良いのですが」


「あら、山女さんって私たちのお仲間ですか」


「クローラさんでしたっけ、お仲間なんて勿体ないお言葉でございます」


「まあ、いいわ、私がみなさんをご案内します」

 クローラは、ビジター証を首からぶら下げた四人を連れて城の正面玄関の中に消えた。



「クローラに任せておけば大丈夫ね。

ーー ところで、お父さま、

ーー いえ、ドメーヌ王は私に何の用があるのかしら」


「ルシア、お忍びがバレているかも」


「コットン姉さん、それは無いわ。

ーー クローラの懐中時計の針は私たちが日本に行った日でした。

ーー タイムロスが少しありましたが」


 メリウスが時間差の説明をルシアとコットンに始めた。


「ルシアさま、コットンさま、

ーー 最初に、朝霧女学園前に出ました」


「メリウスさん、覚えているわ」


「あの瞬間、魔法時計の時間停止が解除されています」


「メリウスって、頭いい」


「零さま、お戯れを」


「そうよ、夢月さん。

ーー でも、そうなると・・・・・・。

ーー メリウスさん。

ーー 江ノ島と湘南の経過時間はどうなるの」


「その場合、場所のエネルギーが優先するか。

ーー 国レベルでのエネルギーかで変わります。

ーー ドメーヌ国の場合、国と言うより場所だった可能性があります」


「メリウスさん、可能性じゃあ困るわ」


「玲子先生は、日本の朝霧女学園に戻れないことで

ーー 時間停止がどうなったかをご心配しているようですが」


「そうよ、困ることよ。

ーー 湘南の別荘で一泊しているわ」


「玲子先生、もしも最悪な事態になった場合、

ーー メリウスがで玲子先生と零さまを元の時間に戻して差し上げます」


 玲子は、メリウスを強く抱きしめていた。


「メリウスさん、ありがとう。気持ちが軽くなったわ」


 零は、玲子の喜びぶりに戸惑いを感じている。


「私、学校、あまり好きじゃないから、あまり気になりません」


「零さま、そういうお考えは胸に閉まっておくべきでことでございます」


「メリウスは、そういうところが固いのよ」




「ところで、メリウス、これからどうするの」


「零さま、クローラさまがいないので勝手に動けません」


「メリウスさん、玲子先生、零、とりあえず、私の部屋に行きましょう」


 双子王女のルシアとコットンが城の正面玄関に立つと、三十人のメイドたちが両側に整列した。

メイドたちは、両手をエプロンの前で組み腰を九十度に曲げて言った。


「第一王女コットンさま、おかえりなさいませ!

ーー 第二王女ルシアさま、おかえりなさいませ! 」


「ただいま戻りました。皆さま、ごきげんよう」


 コットンとルシアの返事にメイドたちは、にこやかな表情を浮かべ姿勢を元に戻した。


 クローラの次になるメイド副長が、コットンとルシアの間に入り挨拶したあと、螺旋階段に案内を始めた。

私服兵が背後を警戒しながら王女のあとに続く。




「玲子先生、なんか今日は、いつもと違いません」


「そうね、王女になってから正面玄関でご一緒したことありませんから

ーー わかりませんわ」


「玲子先生、正面玄関の警備がいつかの事件以来、厳重になったと聞いています」


「ランティス王子って、情報収拾が早いのね」


「・・・・・・ 」


 ランティスは自分の口の軽さに嫌気がさしていた。


「玲子先生、まあ、その辺の事情はひとまず置いておいて中に入りましょう」

ティラミス王子がフォローした。


「ルシアさま、コットンさま、お探ししておりました」


「セーラ、ご心配をおかけしました」


 コットンとルシアは、淡い緑色のスカートスーツ姿のセーラに詫びた。


「王女さま、勿体ないお言葉でございます」


「セーラ、今夜はね、お土産話が沢山あるわよ」


「ルシアさま、コットンさま、日焼けしていませんか。

ーー あら嫌だ、ランティス王子、ティラミス王子も。

ーー それに玲子先生と零さままで。

ーー どうされましたか」


 日焼けしていないメリウスがセーラに言った。

「お楽しみは、これからでございます」


「メリウスさん、意味がわからわよ。

ーー 何でメリウスさんだけ日焼けしていないの」


「はい、猫は日焼けが苦手でございます」


 秘書のセーラは、メリウスの冗談かと聞き流した。

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