第四十六話 玲子さん、助かりましたから大丈夫ですよ!
寺の僧侶の一人が、
「今日は、寺の住職が不在で護摩行はございません。
ーー どうぞお構いなくご見学をされて下さい。
ーー 但し、地下では、ドラマの撮影班が仕事をしています」
「ドラマですか」
「ええ、テレビドラマのようですが
ーー 詳しくは聞いていません」
「じゃあ、お邪魔にならないようにします」
玲子先生が僧侶と話している時だった。
三十代くらいに見えるサングラスの男が玲子の前に現れ、尋ねて来た。
「あの、みなさん、お時間がありますか」
「私ですか」
「はい、あなたとお連れの方です」
「ありますが、何か」
「いいえ、お恥ずかしい話ですが、
ーー こちらの手配ミスで出演者が撮影に間に合わず
ーー 急遽、みなさんにご協力をお願いしたいと思いました」
「協力ですか」
「はい、撮影に参加して欲しいのですが、如何でしょう」
「なにをするのですか」
「観光客の設定で、壁にある絵画を眺めている役です」
「難しくありませんか」
「いいえ、
ーー 口パクをして欲しいのです」
「口パクって」
「声を出さないで、会話をしている振りです」
「ちょっと、みんなに聞いてみるわ」
玲子は零とメリウスに伝え、ルシアとコットンに言った。
ランティス王子とティラミス王子も興味を示している。
メリウスが玲子先生と一緒に撮影班の女性スタッフに尋ねる。
「メリウスと申しますが。
ーー ちょっと気になりましたので。
ーー お時間は、どれくらいでしょうか。
ーー あと、ギャランティは発生しますか」
女性スタッフがサングラスの男に耳打ちする。
「メリウスさん、言いにくいのですが、
ーー 短時間なのでギャランティは発生しません。
ーー が、記念品をお渡しします」
メリウスはにこやかな表情を浮かべ、スタッフらしきサングラスの男性に言った。
「分かりました。短時間なら問題ありません」
「私、東陽制作の小金崎隼人と申します。
ーー 第四話の監督をしています。
ーー ヒロインが寺に尋ねて来るシーンから始まります。
ーー みなさんは、その時の観光客をお願いします」
横にいた
「監督さん、それってエキストラですか」
「はい、通行役などと同じエキストラですからモブになります」
「なるほど、モブですね」
零は不機嫌そうな表情を浮かべて、露骨に肩を落とした。
「零、良かったじゃない。
ーー 責任ないから気楽よ」
玲子が言い掛けた時だった。
ヒロイン役の女優が玲子の前に現れ玲子を見て言った。
「あなた、
ーー 私、覚えている・・・・・・」
「ああ、もしかして早乙女沙織さんですか」
「そうよ、高校時代の演劇部の早乙女よ。
ーー あなた、演劇辞めたの」
「私は、早乙女部長みたいに、
ーー 演技上手く無かったので諦めました」
玲子は、笑いながら昔を振り返って遠い学生時代を思い出す。
「あの、演技できるのですか」
「小金崎監督、玲子は私より上手いのよ。
ーー ただ控えめな性格でオーディションに向いていなかったわ」
小金崎は、海を眺めながら玲子を見て言った。
「玲子さんでしたっけ、
ーー あなたには、早乙女さんと偶然出会う昔の幼馴染みの役をしてもらいます」
「監督、玲子の台本は」
「早乙女さん、短いシーンですから、アドリブで抜けましょう」
「押さなければいいですが」
「玲子、あなたなら大丈夫よ」
「早乙女さんも、そう言っているから、
ーー さあ、みなさん、下の階に移動しましょう」
早乙女沙織と
百畳以上ある大広間ではスタッフが撮影の準備をしていた。
「監督、レールもライトも準備出来ています」
「分かった、じゃあ、練習してみましょう。
ーー みなさんは、壁際で口パクの会話をしてください。
ーー 早乙女さんと
アシスタントディレクターがカチンコを構えて、スタッフがライトを灯す。
ルシアとランティス王子、コットンとティラミス王子がカップルで絵画を見ている。
メリウスと零も、四人の間に入って絵画を見ながら口パクをしているシーンを演じた。
早乙女沙織と
「じゃあ、早乙女さん、
ーー 他の方は、さっきと同じ要領でお願いします」
エーディーが大きな声で叫ぶ。
「本番、シーン十九の一、用意、三、二、ハイ」
カチンコが鳴った。
スタッフのカットの声で中断する。
「早乙女さん、次はシーン十九の二をお願いします」
再び撮影再開。
「あなたね、急に消えて、私、大変だったのよ・・・・・・」
早乙女が苛立ちながら
再びカット。
「早乙女さんも
ーー じゃあ、もう一度お願いします。
ーー みなさんもさっきと同じ感じで、よろしくお願いします」
本番シーンは、少しだけ押して撮影が終了となった。
早乙女沙織が玲子に名刺を渡して連絡先をメモしていた。
「
ーー また機会があればよろしくお願いします」
小金崎監督も玲子に名刺を渡した。
小金崎が大声を上げ、スタッフに撤収を指示した。
「みんな、撤収してください」
女性スタッフが記念品のボールペンをエキストラ役のメリウスたちに渡した。
玲子は、小金崎監督から商品券を受け取って驚く。
「監督、多いですが」
「玲子さん、助かりましたから大丈夫ですよ」
陽が西に傾き水平線の初島が夕陽に染まっていた。
キラキラ輝く水面に異世界からの訪問者、ルシア、コットン、ランティス、ティラミスの四人も満足していた。
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