第四十一話 前世からのご縁じゃないかしら

 銃撃事件から三日後の午前中、城の執事が玄関横の待機室で、兄の城からの使者に対応していた。

城内は事件以降、軍の警備が強化されていた。




「これはこれは、キャンニャさま

ーー 再びお越し頂き恐縮しています。

ーー 私は、執事のダイヤと申します。

ーー ところで、先日お願いした書簡はございますか 」


 シルバーグレー色のスカートスーツ姿のキャンニャは、クーニャと同じくらいの年齢に見えた。

髪と瞳の色はスーツと同じ色だったが、瞳はやや青みを帯びていた。

顔は小顔で肌が日に焼けたようにやや浅黒く健康色に見えた。


 キャンニャのシルバーグレージャケットの下から淡いピンク色シャツが見えている。

腰はモデルのように括れ、膝丈のスカートから覗く両足がすらっと伸びている。

ピンク色のパンプスとシャツがアクセントになっていた。


 筆頭執事スペードの部下のダイヤは、つい彼女に魅了されて口を滑らせて尋ねてしまった。

人は、時より思考と行動が一致しないことがある。

ダイヤも、その一人だった。


「キャンニャさま、もしかしてスポーツをされていますか」


「はい、時間がある時にですが、テニスをしています」


「なるほど、テニス焼けですか」


「いいえ、私は生まれながら浅黒い肌なんです」


「それは、失礼しました」




 キャンニャは、茶色のトート型のショルダーバッグから青色の書簡を取り出して執事のダイヤに渡した。


「キャンニャさま、しばらく、ここでお待ちください」


「ダイヤさま、ありがとうございます」


 ダイヤは、筆頭執事のスペードがいる部屋に急いだ。




 スペードは、ルーク・ドメーヌの秘書のターニャに青色の書簡を手渡し、一緒にルークの元に行った。


 ルーク・ドメーヌは、おもむろに書簡を開封して目を通し、スペードに見せた。


「スペード、兄が、あの者の処遇を私に一任して来たが・・・・・・」


「ルークさま、じゃあ、面会でなく面接試験ですか」


「スペード、冗談はいいから、その者を連れて参れ。

ーー ただ、クーニャとメリウスを同席させるように」


 ターニャが、ルークの話に反応した。

「ルークさま、私が連れて参ります」


「ターニャ、悪いが、宜しく」


 スペードは部屋の外で待機していたダイヤに告げた。


「じゃあ、ダイヤ、キャンニャを連れて来たら、

ーー この部屋の待機室で待っていてください」


「スペードさま、早速、連れて参ります」


 しばらくして、秘書のターニャが、クーニャとメリウスを連れて来た。

遅れてダイヤとキャンニャも到着する。


「サーニャ、入るわよ」

ターニャが言った。


 ダイヤは待機室に残り、スペードが対応した。

「さー、キャンニャさま、中へどうぞ」


クーニャとメリウスがターニャの後ろに続いた。




 ルーク・ドメーヌが立ち上がり、キャンニャに挨拶をした。

「ようこそ、ドメーヌ城へ」


「キャンニャと申します。

ーー この度は貴重なお時間をいただき感謝しております」


「まあ、まあ、固い挨拶はいいから楽にしておくれ」


「ルークさま、ありがとうございます」


「今、この部屋にいるのはね、筆頭執事のスペード、

ーー 秘書のターニャとサーニャ、

ーー 特殊任務のクーニャとメリウスだ。

ーー これから、君の処遇を考えよう」


「どういうことでしょうか」


「書簡には、兄の直筆で面倒を見るように書かれている」


「私は、クーニャさまがいなくなった後の後継者に選ばれました」


「兄が隠居をすることが書かれている。

ーー 君の扱いは、私に任せなさい。

ーー 悪いようにはしないから」


 ルークは、スペードを呼んで尋ねた。


「ダイヤは、元気かな。

ーー どうだろう。

ーー 当面は、ダイヤに任せて見るのも良いだろう。

ーー キャンニャが城に慣れて来たら、また考えよう」


「ルークさま、執事は社交部の管轄ですが」


「大丈夫でしょう。ルークに任せなさい」


 ルークは、そういうとサーニャを呼んで言った。

「待機室で待っているダイヤを、ここへ呼んでおくれ」


「ルークさま、早速」


 サーニャがダイヤを連れて来た。

金髪のダイヤは、キャンニャを見て微笑みを隠せない。

幾分、頬が赤く見えた。


「ダイヤ、嬉しそうだな」


「スペードさま、この部屋の敷居が高く私などが・・・・・・」


「まあいい、当面だが、ルークさまから話がある」

スペードは、そう言ってルークを見る。


「ダイヤ、当分、この女性を社交部で見てもらえると助かるのだが」


 キャンニャは、ダイヤの前に来て言った。

「キャンニャと申します。改めて、よろしくお願いします」


「キャンニャさん、喜んで」


 ダイヤは、キャンニャに挨拶して照れていた。




 ルーク・ドメーヌと筆頭執事のスペードが二人を見ながら咳払いをした。

クーニャとメリウス、ターニャとサーニャは呆れている。


クーニャが皮肉を口にした。

「出逢いは突然やって来る」


メリウスが言った。

「一目惚れに付けるお薬はありません」


ルークが言った。

「メリウスの魔法でも無理か」


「多分、無理かと・・・・・・」


 スペードが、ダイヤとキャンニャを社交部本部がある棟に連れて行った。

メイド長のクローラも社交部に所属している。


「クーニャさん、社交部本部ってあるんですか」


「いいえ、初耳よ。

ーー ルークさまとスペードさまのアイディアじゃないかしら」


「うん、よく分からないけど、あのお二人、お似合いね。

ーー 赤い糸かな」


「メリウス、赤い糸ってなに」


「日本の赤い糸伝説のお話」


「御伽噺ですか」


「似ているけど違うわよ。

ーー 前世から繋がったご縁じゃないかしら・・・・・・」


 正午の強い日差しがドメーヌ城の中庭に溢れていた。


「ルークさま、今日もお天気ですね」

メリウスが言った。

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