第三十八話 ダンスのお相手を!

 国王ルーク・ドメーヌは、ザード隊長が私服兵に書かせた悪女二人の供述を見て頭を抱えた。

そこに書かれていたことは、潜入に至る手順と経緯だけだった。

 国王が知りたい首謀者の名前は見当たらない。


 魔法省は、供述妨害を企らむくらい石橋を叩いていた。

幾多の部署か、幾人の人間を経ているのだろうと、ルークは考えていた。


 悪女が報告する先で事が終わっていれば良いのだが・・・・・・。

と考えてルークは、計算の甘さを思い知った。




「メリウス、ザード、これからどうするか。

ーー 教えてくれないか」


「ルークさま、悪女からの連絡が途絶えれば、

ーー 魔法省が別の刺客を向けるかと、思いますが・・・・・・」


「ザードよ、それなら好都合なのだが、

ーー 敵は、そんな正攻法は使わないだろう。

ーー これまでの経緯を考えればだが。

ーー メリウスは、どう思うかな」


「はい、ルークさまのお考えと同じです。

ーー ただ・・・・・・」


「メリウス、話しても構わない」


「ええ、私は・・・・・・。

ーー しばらくは、何もせずに傍観が良いかと思います」


「と言うと、我慢比べかな」


「はい、そんなところでございます」


「悪女は療養所送りだが、何か出来るかね」


「いいえ、することは何もございません」


「そうか・・・・・・」


 ドメーヌ国王の視界に第一王女コットンと第二王女ルシアが入った。


「お父さま、メリウスが大魔法使いでも無理難題は可哀想よ」


「ルシア、父が、そんなことをしているように見えるか」


「見えるから、コットン姉さんと一緒に来たのよ。

ーー ねえ、コットン姉さん」


「そうね、メリウスにも休暇が必要じゃないかしら」


「お前たち、また、なんか企らんでいるな」


「あら、分かったかしら?」


 第二王女ルシアは、そういうとコットンにウインクした。


「お父さま、秘書同伴で日本観光は、如何いかがかしら」


「そんなこと、今、出来る場合じゃないだろう。コットン」


 ルシアは、クーニャを見て言った。


「一緒に行きませんか。日本へ、クーニャ」


 クーニャは、初耳の言葉に耳を疑う。

「ルシアさま、日本って、何処でしょうか?」


「私のクラスメイトの夢月零ゆめつきれいと先生の優翔玲子ゆうがれいこさんはね。

ーー メリウスと一緒に、異国の日本からやって来たのよ」


「そうだったの。知らなかったわ」


「それでね、

ーー 秘書のセーラやニーナも同伴させたいと考えているの」


「大勢になるわね。

ーー そうなると護衛が必要になるわ」

クーニャがルシアに言った時、ルーク・ドメーヌ国王がルシアに向かって呟く。


「その話、思い出したぞルシア。

ーー 日本観光だな」


「はい、お父さま」


「でも、お父さまの護衛は、秘書ターニャと秘書サーニャですが」


「そうだな・・・・・・」




 黙っていたメリウスがルークに話し掛けた。


「ルークさま、意外と妙案かも知れません。

ーー 城の中枢が、一時とは言え、いなくなる訳ですから」


メリウスが言った。

「そうなると、ドメーヌ国王、秘書ターニャ、サーニャ、

ーー 執事スペードとクーニャは欠かせないでしょう。

ーー コットン王女、ルシア王女に、ティラミス王子とランティス王子、秘書セーラとニーナ。

ーー そして私たち三人ですね」


「メリウス、ルイ・ザードは、どうする」


「ルークさま、国防軍の隊長は、国に必要かと」


「そうだな、今回は、身の回りの者だけになるか」


「お父さま、クローラも連れて行きます」


「でもな、ザード同様、

ーー クローラにはメイド長としての仕事があると思うんだが」


 コットンがルシアに代わって言った。


「お父さま、クローラがいれば、私たちが助かります」


「でもな、コットン。

ーー いくらなんでも、この大人数をクローラ一人じゃ無理じゃないか」




「分かったわ、お父さま。

ーー ルシアや秘書を交えてを提案するわよ。

ーー 場所は、ルシアの部屋の隣室にある謁見えっけんの間で如何かしら」


 ドメーヌ国王は筆頭執事スペードを呼んだ。


「スペード、私の明日の予定に、空きはあるかな?」


「はい、明日の午後三時以降は、大丈夫でございます」


「スペードありがとう。

ーー じゃあ、家族会議は、明日の午後三時に謁見えっけんの間にしよう。

ーー 私は、それぞれの立場を考慮したい。

ーー コットン、これで良いか」


「お父さま、ありがとうございます」

コットンがルークに礼をすると、ルシアも一緒に礼をしてテーブルに戻って行った。




 クーニャが怪訝けげんな表情で、ドメーヌ国王を見ていた。


「ルークさま、私も会議に参加するのでしょうか」


「クーニャ、なにを言っておる。

ーー クーニャ抜きなどいささかも考えてないよ。

ーー 明日はお茶をしながら会議にしよう」


「ルークさま、それは、ご命令でしょうか」


「そうだな、クーニャ。どっちがいい」


 メリウスは、クーニャとルークの会話に微笑んでいた。




 零と玲子先生が心配してメリウスのもとにやって来た。


「メリウス、大勢で日本観光、本気でするの」


「玲子さま、メリウスに出来ないことは、ございません」


 ルーク・ドメーヌ国王が、零と玲子先生を見て言った。


「明日は、謁見えっけんの間でお茶会になると思う。

ーー 零も玲子先生も楽しんでくれないか」


 零は、メリウスを見て言った。


「私も玲子先生も、メリウスに従うわ。

ーー メリウスは、どう思う」


「零さま、なんの問題もございません」




ルーク・ドメーヌ国王が玲子先生に言った。

「このあと、ダンスルームで私のお相手をしてくれないか」


「はい、喜んで、ドメーヌ国王さま」


 零の肩をランティス王子が軽く叩く。

零が振り返ると、ランティス王子が、零の顔前に右手を差し出していた。


「零さま、ダンスのお相手をお願いします」


 零の頬が、みるみるピンクドレスのように赤くなった。

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