第三十七話 ドメーヌ国王さまの仰せのままに

「ルイ・ザードよ、無事に戻られて良かった」

「ルークさま、失礼しました。ドメーヌ国王」


「ルイよ、今まで通りで構わない。

ーー もっと楽にしてくれ。ところで、ルイよ。

ーー 今回のことで正式に国防軍の隊長を任せることになった。

ーー 荷が重くなるがルークの右腕になってくれないか」


「ルークさま、勿体もったいないお言葉、身に余る光栄でございます」


「まあ、今夜は、晩餐会ばんさんかいだ。

ーー ワインも沢山あるから気軽に飲んで楽しんでくれ。

ーー 零や玲子先生もいる」


「ルークさま、そのように致します」




 同じ階にある取り調べ室の周囲は、蟻の子が一匹たりと入れない厳重警備が施されていた。

私服兵が廊下の出入り口を固めている。


 クーニャはメリウスのの発動を待っていた。

メリウスはクーニャにウインクして合図を送った。


 クーニャはメリウスの背後に退いた。


 取り調べ室の中に光の洪水が渦巻き始めた。

光は、扉の隙間から廊下に溢れ出した。


 私服兵たちは、その異様な光景に驚いてふるえる者もいた。


「ザード隊長に報告してくれ」


 ひとりの私服兵が部下に命令した。

部下は、廊下を駆けてルイ・ザードに報告に行く。




 筆頭執事スペードの部下がディナールームの第二扉の前で、私服兵の報告を聞きスペードに伝えた。


「ルークさま、ルイ・ザード隊長に私服兵から報告がございました」


「スペードよ、それは取り調べ室の件じゃないかな」


「はい、そうですが」


「それなら心配無用だ。

ーー あそこには、メリウスとクーニャがいる。

ーー 一国の軍隊だって彼女たちには敵わない。

ーー 赤子同然だよ」


 ルークは、少しお酒が回った顔つきでスペードに言った。


「私服兵は、どうされますか」


「心配無用と伝えてくれ」


 スペードが下がるとルイ・ザード隊長がルークに言った。


「ルークさま、心配無用なのは、分かります。

ーー けれども、部下が心配しているので、離席をお許し頂けないでしょうか」


「ルイが、そうしたいなら、私は止めないが、戻っておいでよ」


 ルイ・ザードは、ルークに敬礼して、ディナールームを出て行った。




「メリウス、この光は、何かしら」


「クーニャさん、この光に危害はありませんのでご心配なく。

ーー ただ、光の量と魔法の危険度が比例しているのは事実です」


 メリウスは、わざと悪女の耳に届くようにクーニャに説明した。


「メリウス、そんなに危険なの?」


「ルークさまには、言葉を選びましたが・・・・・・。

ーー 実際は口で言えるレベルではございません」


「メリウス、どうなるの」


「供述に無理に逆らえば、廃人ではなく、灰かちりになって消えるでしょう。

ーー まあ、そこまでもして守りたいなら止めませんが」


 悪女が、再び、大声を上げて泣き出した。




 取り調べ室の扉がノックされ、ルイ・ザード隊長と私服兵が現れた。


「メリウス、久しぶり。

ーー ところで、この眩い光の渦は大丈夫なのかな」


「ザード隊長、心配無用でございます」


「そうなのか。ところで、そこの悪女は供述しているか」


「いいえ、泣いて抵抗しています」


「抵抗すると、どうなる。

ーー 最初は、脱毛から始まり。

ーー 次に皮膚が変色を始めたら、お終いです」


 悪女は、メリウスとザード隊長の話を聞いて泣き止む。

既に頭髪の一部が床に落ち始めていた。


 ルイ・ザードが悪女に言った。


「お前たちも、死にたくなければ、素直になることだ。

ーー メリウスを敵にしても、お前たちには何の得もない。

ーー 髪の毛が全部あるうちに白状するのが賢明な選択だよ」


 メリウスはザードの言葉を聞いてハッとした。


「隊長、この二人は、別の魔法を仕掛けられています」


「どう言うことだ、メリウス」


「白状しようとすると発動する魔法です」


「厄介だな」


「いいえ、解除します。

ーー そして、その魔法を仕掛けた者に返します」


「メリウス、御伽噺おとぎばなし呪詛返じゅそがえしに似ているが」


「隊長、理論は同じです」


「じゃメリウス、解除してやれ」


「隊長、直ちに」




 メリウスが悪女に仕掛けられた魔法を解除した瞬間、遠く離れたが倒れた。

 悪女と同じ症状に見舞われていた。


 二人の悪女は、供述妨害をしていた魔法解除のあと、隣にいたザード隊長が驚くほどベラベラと話し出す。


 ザード隊長が、私服兵のひとりを呼び記録を書き留めるように命令した。

ザードは、別の私服兵も呼んで、手伝わせた。


 悪女の脱毛が止まり、髪の毛が元に戻った頃、供述が終わった。


 魔法省で倒れた役人は、悪女に施した魔法の副作用と供述魔法の反作用を全身に受け灰となった。

それを見ていた同僚たちは精神錯乱していたと、後に知らされる。


 供述を終えた二人の悪女は、メリウスの魔法で変身魔法の副作用が解除され普通の女性の顔に戻った。

身柄は、城の療養所扱いとなった。




 メリウスとクーニャは、ルイ・ザード隊長と私服兵の案内でディナールームに戻った。

筆頭執事スペードが入り口で出迎えている。


「ドメーヌ国王が、お待ちしています」


「ありがとうございます。スペードさん」


 メリウスとクーニャは並んで、ルーク・ドメーヌの前の席に着席した。


「メリウス、あの二人は、白状したか?」


 ルイ・ザード隊長が私服兵二人に書かせた供述内容をドメーヌ国王に差し出した。


「ルイ、これが供述なのか?」


「はい、書き損じ無ければですが」


 ルーク・ドメーヌは頭を抱えメリウスを見た。


「メリウス、まだまだ解決は先のようだ。

ーー 大変だけど、ルイ・ザード隊長に協力してくれないか」


「ドメーヌ国王さまの仰せのままに」

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