第三十六話 メリウスの供述魔法

 ルーク・ドメーヌ国王は、女子高生で魔法使いのメリウスと日本観光の約束を結んで、第一王女コットン、第二王女ルシアと日本に行くことを決めた。


「ドメーヌ王、日本には、いつでも参れます。

ーー しかし、その前に、この国の中で起きていることを解決するのが先決かと思います」


「メリウスは、見た目と違って冷静沈着だから助かる」


「ありがとうございます。

ーー では、クーニャさまとの任務は、いつからでしょうか」


「そうだな、あのカラクリが分かった今となっては・・・・・・。

ーー 喫茶部の潜入も意味がなくなった。

ーー かと言って、あのスパイを放置するのも忍びない」


「では、国王はどうなされるおつもりでございますか?」


「メリウスよ、何か良い考えは無いか?」


「あるには、ありますが危険な魔法です。

ーー 間違えば相手が廃人になります」


「そうか、困ったな。メリウス、時間を少しくれないか」


「とんでもございません」


 国王は給仕を呼び、メリウスとクーニャに白ワインをお願いした。

メリウスはアイボリーのドレスを着用していた。

クーニャは髪と瞳の色と同じ紫色のディナードレスだった。


 一方、第一王女コットン、第二王女ルシアは、ティラミス王子、ランティス王子と国王から離れた席に着いた。

双子の王子は、愛称にすぎない。

コットンとルシアが幼い頃に付けたニックネームだ。


 コットンは紫系のディナードレス、ルシアは明るい水色のディナードレスを着用していた。

女子高生の夢月零ゆめつきれい優翔玲子ゆうがれいこ先生はルシアの両隣に席を取った。

零は淡いピンクドレス、玲子先生はイエロードレスを着用している。


「ルシア姉さん、なんで、みんな髪と瞳の色と同じドレスを着用しているの?」


「零は、知らないと思うけど、それがこの国の公式マナーなのよ。

ーー 色なんて、選ぶのは自由なんだけどね。

ーー 面倒で無難だから同じ色を選ぶのよ。

ーー でも、あなたたちは外国の人だから自由よ」


「私はピンクドレスだから、ニーナやサーニャみたいにピンク色の髪がいいわ」


 水色髪のルシアが怪訝けげんな表情を浮かべた。


「ルシア姉さん、誤解しないで、女の子は自分に無いものが欲しいだけなの」


「零、分かるわ、あなたの髪も玲子先生の黒髪も、

ーー 私から見ればとても素敵よ」


 零は、ルシアからめられて顔が赤くなった。


「零、顔が赤いわよ。

ーー 今日のワイン、強かった?」


 零はルシアの思いやりが心に沁みていた。




 秘書ターニャ、秘書サーニャ、秘書セーラ、秘書ニーナは、メイド長のクローラと一緒にディナールームの控え室で待機していた。


 第二王女ルシアが、突然控え室にやって来て言った。


「今夜は父の国王就任、初の晩餐会ばんさんかいなのよ。

ーー あなたたちもディナールームに入ってください」


「ルシア王女、私の身分では・・・・・・」


「クローラ、私がいいと言っているのよ。

ーー 聞けないなら、あなたは不敬罪よ」


 ルシアは笑いながら言った。


「ルシアさまのお心遣い、心にみます」


「ただし、みなさんは、出口の近い廊下側の席になるわ。

ーー それだけは守ってね」


 彼女たちが、ディナールームに消えたあと、控えの間の隅に隠れていたアクト・リカエルとキレザ・リガーニが現れた。

 魔法使いメリウスが追跡魔法で二人の所在を把握していたのを悪女たちは知らない。


 ルシアは、国王とメリウスの依頼に従って動いたに過ぎなかった。

メリウスは、国王にお願いして、周囲に私服兵を待機させた。


 ルーク・ドメーヌ国王はメリウスの魔法に国家を任せていた。


 泳がす必要がなくなったのは、悪女二人の身から出たさびだった。

同一人物が潜入スパイをしていたことで、喫茶部計画が消えた。


「メリウス、どうする」

ルークが尋ねた。


「はい、供述魔法を発動します」


「それか、危険な魔法と言うのは」

「運次第でございます」


「意味がよく分からないのだが」

「はい、素直に話せば軽傷ですが、逆らえば重傷になります」


「それで、メリウスはどうしたい」

「悪女たちに、事前に逆らうなと忠告しておきます」


「そうか、それは良い、私も賛成だ」




 ドメーヌ国王の元に筆頭執事のスペードがやって来た。

「ドメーヌ王、ルイ・ザードから連絡がございました。

ーー 悪女二人を確保したと」


「スペード、ご苦労だった。ルイをねぎらってやってくれ」

「承知しました。ところで悪女二人の処分は」


「メリウスとクーニャに任せている。

ーー 悪女は、この城の取り調べ室に連れ置け」


 スペードは、国王の言葉をルイ・ザード兵隊長に伝えた。

ルイは私服兵に命令して悪女を取り調べ室に連れて行く。


 ドメーヌ城の取り調べ室には窓が無かった。

外見はただの小部屋だが、実際は地下牢ダンジョンより強固な結界魔法が施されている。


 メリウスとクーニャは国王の指示に従い、同じ階にある取り調べ室に急いだ。


「メリウス、私は、あなたを信じるわ。

ーー そして、あなたに任せるわ」


「クーニャさん、ありがとう」




 メリウスとクーニャは取り調べ室前に到着して私服兵に挨拶した。

ルイ・ザード兵隊長は国王に呼ばれてメリウスたちとすれ違いにディナールームに入った。


 ドメーヌ城のディナールームの四方は、窓側と配膳室側と正面入り口、そして廊下側の第二出入り口になっていた。


 私服兵がメリウスとクーニャを取り調べ室に招き入れると、小部屋の中央に女が二人縛られていた。

メリウスが変身魔法を解除して以来、女を見るのは初めてだった。


 クーニャは、悪女二人の醜悪な顔を見て吐き気を覚えた。


「メリウス、これは」

「変身魔法の副作用です」


 悪女二人は、メリウスとクーニャの膨大な魔法エネルギーを感じて大声で泣き出した。


 メリウスが悪女二人に声を掛けると女たちはふるえ出し、更に泣き叫んだ。


 メリウスが悪女に言った。


「あなたたちには選択肢が二つある。

ーー 逆らえば、自浄作用があなたたちを破滅させます。

ーー 命令に従えば、生きることが出来ます。

ーー どちらにしますか?」


 クーニャは、メリウスの供述魔法の発動を待っていた。

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