第三十五話 ルーク・ドメーヌ城の青天の霹靂

「スペードよ、クーニャを呼んでくれないか」

「はい、ルークさま、直ちに、お呼び致します」


 スペードは主人に告げると部屋の出口で、秘書セーラと似ている緑髪の秘書ターニャに告げた。


「スペードさま、かしこまりました。

ーー 秘書サーニャを残し、私がお呼びに参ります。

ーー じゃあ、サーニャ、よろしくお願いします」


 令嬢コットンの秘書ニーナに似たピンク髪の秘書サーニャが秘書ターニャを見送った。




 ルークの秘書ターニャは、ルシアの部屋の前に着き、令嬢ルシアの秘書セーラにルークの要件を告げた。

しばらくして、奥から姉のクーニャが出て来た。

令嬢コットンと同じ紫髪と紫の瞳が妹にも妖艶ようえんに映って見える。


「クーニャ姉さん、ルークさまがお呼びです。

ーー 至急、参れよと」


「メリウスは、どうされますか」

「いいえ、今回は何も」


「左様ですか。じゃあ、ターニャ参りましょうか」

クーニャは、そう言うと、妹のターニャと一緒に令嬢ルシアの部屋をあとにした。




「姉さん、あちらでは、どうだったの」


「そうね、こちらとは、変わらないわね。

ーー ルークさまの兄の城ですから」


「そう言うものなのか、私には分からないけど。

ーー 平和が長く続くことを祈りたいわ」


「ただ、ルークさまの兄には、後継ぎがいないのよ。

ーー それで様々な噂がリークされているわね。

ーー こちらの双子の令嬢が注目されているのも、その為よ」


「それで、魔法省がスパイを送って来たのね」


「ターニャ、それが今回の特殊任務と繋がるわけ」


「姉さん、私には何も分からないわ」




 秘書ターニャと姉のクーニャがルークの部屋に到着して、妹のサーニャがルークの部屋の扉を開けた。


「姉さん、ルークさまがお待ちしています」


 筆頭執事スペードがクーニャを連れルークの大きなデスクの前で立ち止まる。


「ルークさま、クーニャをお連れしました」


「クーニャ、今夜のディナーだが、約束はあるかな」


「ルークさま、いいえ、ございません」


「さっき、良い白ワインが入って食堂長から連絡があった。

ーー メリウスを連れて一緒にどうかね」


「ルークさま、ありがとうございます。

ーー しかし、ワインだけじゃございませんね」


「クーニャは、昔から勘の良い子だったことを思い出したよ。

ーー 実は、コットンとルシアの秘書が、ちょっと頼りなくてな。

ーー クーニャにコットンとルシアの家庭教師をお願いしたいと考えておる。

ーー 出来れば秘書セーラと秘書ニーナの再教育をもお願いしたい」


 城主ルーク・ドメーヌの本音だった。

先日の入れ替わり事件が答えたらしい。



 筆頭執事スペードが、再び現れてルーク・ドメーヌに耳打ちをする。


「ルイ・ザードが戻ったか・・・・・・」

「はい、ただ、ルークさまのお兄様の城から書簡しょかんが届いています」


 ルークはスペードから書簡を受け取り、大きな溜息をいた。

書簡には短い言葉が綴られていたのだ。


「ルークさま、どうされましたか」


「兄が体調不良を理由に退位を宣言して、私が国王に指名された」


「そうなると、コットンさまが第一王女、ルシアさまが第二王女になるわけですか」


「スペード、一連の事件と兄の体調不良退位の話、

ーー 私には無関係に見えないのだが、どうかな」


「はい、バラバラに見えていた物の輪郭が見えて来ました」


「スペードよ、ルイ・ザードに辞令を出してくれないか。

ーー 彼には、悪いが責任が今まで以上に増えることになる」




 その日の夕刻、令嬢コットンと令嬢ルシアは秘書セーラ、秘書ニーナと一緒にルークの部屋を訪れた。

傍には、クーニャとメリウス、夢月零ゆめつきれい優翔玲子ゆうがれいこ先生の三人も同席した。


 コットンとルシアは、父ルークの話にへそを曲げる。

「日本への留学、どうなるのよ」

コットンだった。


 ルシアも姉と同じ反応をする。


「そう言われても、王女になれば、制約されるのは仕方ない。

ーー 分かってくれないか二人とも」


 双子の令嬢はソッポを向いて父の視線を避けている。




「ルシアさま、魔法時計のお話を覚えていますか」

メリウスが令嬢ルシアに言った。


「覚えているわよ。時間が止まる話でしょう」


「はい、左様でございます」


「それで、どうなるのよ。メリウス」


「だから、すべて止まります」


「意味が分からないんだけど・・・・・・」


「夢と現実が同じ時間軸でしょうか。

ーー 夢の中の一年は、現実の中では数時間もありません」


「それが、なんなのよ!さっぱりわからないわ」


「つまり、無意識が投影している結果なんです」


「じゃあ、私もメリウスも無意識の投影の結果なの」


「はい、魔法に似ています」


「私たちは、目を通じて外界を見ていますが、

ーー 無意識は、目を閉じても四六時中活動しています。

ーー そして、映像をも覚醒させています」


「分からないわ、メリウス」


「つまり、魔法時計で日本に留学しても、

ーー この世界の時間に影響することはありません。

ーー 日本での数年は、ここの一秒かも知れないと言うことです」


 令嬢ルシアの横で聞いていた令嬢コットンの紫色の瞳が瑞々みずみずしいほどに輝いた。


 父ルーク・ドメーヌは、その表情を見て、頭を抱え言った。


「メリウス、今の話は、本当なのか」


「はい、ルークさま、本当でございます」


「じゃあ、メリウス、今夜の晩餐会で、もっと詳しく話してくれないか」


「ルークさまにですか」


 スペードがメリウスに言った。


「ルーク・ドメーヌ国王でございます」



 晩餐会ばんさんかいには、双子の王女とランティス王子とティラミス王子も参列することになった。

零と玲子先生、クーニャも一緒だ。


 ドメーヌがメリウスに告げた。

「メリウス、ならば、私も日本観光をしたいがどうかな」


「ドメーヌ王、可能でございます」

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