第三十三話 ダンジョンから脱走した偽のターニャと偽のサーニャ

「ターニャ、順調ね」

「ルークもスペードも気付いていないわ、間抜けね」


「サーニャ、過信は禁物よ。あのメリウスに気を付けないと」

「そうね、上の情報では魔人級らしいわよ。

ーー 誰か来たわ・・・・・・」


 令嬢ルシアの秘書セーラと令嬢コットンの秘書ニーナがターニャとサーニャの部屋を訪れた。

メリウスは透明化して二人と同行している。


「あら、珍しいわね」

ターニャが言った。


「あなたがもしも、本物のターニャならね」

セーラの言葉にニーナの顔色が曇る。


「セーラ、本物も偽物も無いわよ」

「そうかしら、顔は瓜二つでも、私が練習試合で与えた手の傷が無いわ」


「セーラ、何言ってるの?

ーー そんな傷、完治して治っているに決まっているじゃない」

「あら、そうかしら、私が誰か分かる?」


「まさか・・・・・・」


「そうよ、まさかよ。

ーー あの日は、今回と同じように、

ーー 私たちは、ルークさまの指示で入れ替わっていたのよ。

ーー 分かった?偽のターニャさんと偽のサーニャさん」


 秘書の部屋の外では、ルークの私服兵が数人待機していた。




 ターニャとサーニャは、黙秘権を主張したが、魔法使いメリウスがさせなかった。

二人は自分の意思に反して、メリウスの魔法で喋り出す。


「じゃあ、私たちが拉致した秘書が本物のセーラとニーナということなら、

ーー あなたたち二人は誰なのよ」

偽のサーニャが言った。


本物のサーニャが答えた。

「じゃ、偽のサーニャさん、私たちの魔力レベルが分かる?」


偽のサーニャは、大声で泣き出した。


「私たちがミスしたと言うの?」

「そうね、普通は区別が難しいわね。

ーー これで、本物のサーニャとターニャに戻れるわ」




 秘書の部屋の隅の扉から縛られていた本物のセーラとニーナをメリウスが解放した。


 偽のターニャが本物のターニャに言った。

「あなたたちが、いつ入れ替わったか私は知らないわ」


「あなたが本物だったら、魔力レベル測定で分かった筈よ。

ーー あのクソ爺爺じいじい、罠にめたのか?」




 城主ルーク・ドメーヌがスペードと一緒に、修羅場に現れる。

「ターニャとサーニャの魔力は、傍にいるだけで静電気のようにビリビリするんだよ」

スペードが珍しく苛立った口調で吐き捨てた。


「スペードの言う通りだ。

ーー 私たちは、ターニャとサーニャとの対人距離には、注意している」

ルークが言うと、ターニャがルークに言った。


「ルークさまも、お人が悪いわね」

サーニャだった。


「じゃあ、ターニャとサーニャよ、

ーー この二人を地下牢ダンジョンに連行してくれ」


ターニャとサーニャは、魔法で二人を縛り上げた。

二人が偽者の肩に触れた瞬間、青白い静電気が小さな音を立て身体を包み込む。

[ピシッ]


 偽者のターニャとサーニャの二人は床に倒れ気絶した。

廊下から私服兵が数人入り、二人を地下牢に連れて行く。


「ルークさま、地下牢ダンジョンは、一時処置でございます」

「スペード、分かっておる」


「セーラ、ニーナ、今回は大変だったが無事で私は感謝している」


「ルークさま、勿体もったいないお言葉、嬉しすぎます」

セーラに続いてニーナもルークに挨拶あいさつした。




 魔法使いメリウスは、セーラとニーナを解放した後、透明化を解除している。


「メリウス、あなたは何者なの、その底知れぬパワー」

ターニャが言うとルークが遮る。


「ターニャ、メリウスは魔法省が狙う程の大物です。

ーー 偶然、ルシアのお友達になったお陰で私も助かった」


「でも、ルークさま、メリウスの魔法レベルって、

ーー おそらく測定不能じゃないでしょうか」


「ターニャ、そんなことしたら測定器が全部お釈迦オシャカになるわよ」


 ピンク髪のサーニャが緑髪のターニャの横で笑っていた。

ピンク髪のニーナと緑髪のセーラも久しぶりにルシアとコットンの部屋に戻ることになった。

メリウスも同行した。




「ルシアお嬢様、申し訳ございません」

秘書セーラだった。


「コットンお嬢様、失態をお詫び致します」

秘書ニーナだった。


「今回は、タイミングよく、あなたたちのお陰で内部スパイを捕らえることが出来たわ。

ーー 謝罪など不要ね」

コットンがニーナとセーラに言った。


「セーラもニーナも、頭を上げて、私もコットン姉さんと同じよ」

ルシアが言うと、ランティス王子とティラミス王子がルシアの部屋の扉をノックした。


「ルシア、入れてくれ」

「コットン、話がある」


セーラとニーナが対応した。

「お二人とも、何の騒ぎですか?」


「さっき、聞いたんだけど、地下牢ダンジョンの二人が逃亡したらしい」


メリウスが王子たちに言った。

「魔法のお縄を解きましたから」

「メリウス、意味が分からないわ」


「大きなネズミのアジトが気になりませんか」

「なるほど、メリウスは泳がせる作戦ね。

ーー でも、あの風貌じゃあ、不味くありませんか?」


「ルシアさま、メリウスが魔法で変装魔法を解除してございます」

「さすが、メリウスね」

ルシアが言った。



 スペードがルークに地下牢ダンジョン脱走事件を報告した。

秘書ターニャとサーニャが笑みを浮かべ、スペードを主人の部屋に招き入れた。


「ルークさま、実は大変なことが」

「スペード知っておる」


「と言うと、何でしょうか?」

「こちらからも罠を仕掛けておる」


「ルークさま、分かりません」


「メリウスに魔法の手錠、

ーー つまり、お縄を解除するように指示したのは私だ。

ーー スペードよ、地下牢ダンジョンにスパイを留め置いても時間の無駄だ。

ーー 今ごろは、メリウスがで位置を把握している筈だ」


「ルークさま、追跡魔法など聞いたことがございません」

スペードが怪訝な表情を浮かべて、ルークに言った。


「無理もない、を使えるのは、メリウス、ターニャ、サーニャの三人くらいだ」

ルークは、そう言うと中庭側の水色のカーテンを少し持ち上げてみた。


 見知らぬ顔の女二人が、足早に喫茶部と城の境を歩いている。

私服兵が、その背後を監視していた。

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