第三十二話 秘書ターニャと秘書サーニャ

 城主ルーク・ドメーヌは兵隊長のルイ・ザードの調査報告を待っていた。

筆頭執事のスペードがルークの部屋をノックする。


 ルークの秘書のターニャは、緑髪に緑の瞳に緑色のスカートスーツを着用している。

ルシアの秘書セーラやコットンの秘書ニーナと同じく上級魔法騎士でもあった。


 秘書のターニャが執事スペードのノックに応じ部屋の扉の鍵を開けた。


「ターニャ、いつも悪いね」

「スペードさま、仕事ですから、お気になさらないでください」


 スペードが部屋に入ると、城主ルークは、水色のカーテン越しに城の中庭を眺めている。


「ルークさま、今日もお天気が良く何よりでございます」


「スペード、お天気もいいが、本題は何かな」


「はい、ルイからの連絡が遅れています」


「相手もプロとなれば、簡単に尻尾しっぽを見せないでしょう」


「はい・・・・・・左様かと」


スペードは、良い報告が出来ずに焦っていた。


「スペード、何か不都合でもあるのか」


「いいえ、ございませんが、敵側も相当な手足てだれならば、

ーー 時間の勝負かと考えていました」


「そうだな、しかしあせっても何の得は無いのだよ」


「はい、ルークさま、おっしゃる通りでございます」


「スペード、お願いがあるのだが、

ーー ルシアとコットンの秘書のところ

ーー 私の秘書のターニャを連れて行ってくれないか」


「ターニャさまをですか」

「ターニャには、私のメッセージを伝えてある」


「左様でございますか。

ーー 承知しました」




 執事のスペードは、秘書ターニャを連れて令嬢ルシアの部屋を訪れる。

秘書のセーラがルシアの部屋の扉を開ける。


「お久しぶりです。ターニャさま」


 セーラはターニャとサーニャの双子姉妹から上級魔法を教わっていた。

サーニャは、秘書ニーナと同じくピンク髪とピンクの瞳だった。


「セーラさま、ルークさまからのメッセージをお伝えしに来ました」

「ターニャさまが、直接来られるとは、一大事でしょうか?」


「いいえ、そういう訳では、ございませんが、喫茶部に行かれる時は、

ーー セーラさまとニーナさまの代理を、

ーー ターニャとサーニャがするようにと指示されています」


「ターニャさま、意味がよく分からないのですが」


「その日に限って、ルークさまの秘書をセーラさまとニーナさまがするということです。

ーー おとり作戦には、ルシアさまとターニャが、

ーー コットンさまとサーニャが同行します。

ーー 以上がルークさまの命令です」


 ルーク・ドメーヌは、我儘わがまま令嬢の護衛に自分の秘書を当てたのだ。

教官と生徒くらいのレベルの違う秘書を派遣することにした。


 セーラは、その場で秘書ニーナを呼び詳細を伝える。


 緑髪と緑の瞳の秘書、ピンク髪とピンクの瞳の秘書、年齢以外に外見の違いは分からないレベルだ。

ターニャとサーニャの魔法レベルはメリウスに及ばずともセーラとニーナ以上だ。


「ターニャさま、承知しました。

ーー サーニャさまにも、よろしくお願いします」


 執事スペードと秘書ターニャは、城主ルーク・ドメーヌの隣室の控え室に戻って行った。




 セーラとニーナは、ターニャからのメッセージを令嬢ルシアと令嬢コットンに、それぞれが伝えた。


「セーラ、ターニャさまのメッセージ、本当なの」

ルシアの疑問に対して令嬢コットンも首を縦に振る。


「セーラ、ルシアと同じよ。

ーー ターニャとサーニャが出るとなると、

ーー 第一級警戒レベルよ」

コットンが言った。


「コットン姉さま、意味がよく分からないのですが」


「ルシア、第一級警戒は開戦相当の緊迫時に発令されるのよ。

ーー お父さまは自分の最高の秘書を派遣させたの。

ーー あの二人には私服兵も敵わないわよ。

ーー 敵うのは大魔法使いのメリウスくらいね」


コットンの言葉を聞いたルシアはセーラに尋ねる。

「セーラ、コットン姉さまのお話聞いたことあるの?」

「お聞きしたことがありますが、

ーー 伝説レベルなので噂だけでございます」


「なるほど、噂レベルね。

ーー セーラ、メリウスを呼んでくれない」


「ルシアさま、メイドのクローラに、ルシアさまのメイドを派遣させましょう」

「セーラ、それでいいわ」




 しばらくして、ルシアのメイドがクローラとメリウス、零、玲子を連れて来た。


「クローラ、ご苦労様、セーラと控え室で待っていてください。

ーー メリウス、話があるの?

ーー お父さまの秘書ターニャと秘書サーニャが作戦の日に派遣されることになったの。

ーー メリウスはどう思われますか」


「ルシアさま、メリウスにお時間をください」

「分かったわ。あまり長く無いのなら」

「はい、では、失礼します」


 メリウスは隣室に出て行き、転移魔法でターニャとサーニャの控え室付近に移動した。

メリウスの結界魔法で双子秘書に気付かれていない。

メリウスは二人の魔法レベルを検知してみた。


 メリウスは令嬢ルシアと令嬢コットンの隣室に戻り、ルシアの部屋をノックした。


「メリウス、早いわね。

ーー それで、どうだった」


「はい、それが、言いにくいのですが、噂レベルかと」

「じゃあ、メリウス、ターニャとサーニャは偽物と言うこと」


「その可能性をも含めて再調査が必要でございます」

「分かったわ、メリウス、お願い。

ーー でも、作戦当日の秘書取り替えは、どうするの?」


「メリウスがいますから、

ーー 二重トラップで騙された振りでよろしいかと」


令嬢ルシアと令嬢コットンは深呼吸をして大きなめ息をいた。


 メリウスの想定外の言葉に対して・・・・・・。

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