第三十一話 令嬢ルシアと令嬢コットンの我儘

 メリウス、零、玲子は、秘書のセーラとニーナに案内され、メイドのクローラと一緒に令嬢ルシアの部屋に到着した。


「メリウス、喫茶部って行ったことある?」

「いいえ、ございません。零さま」


 令嬢ルシアが零を見つめながら言った。

「零、あそこはね。

ーー 城内と言ってもこことは区画が別なのよ。

ーー ここは、ルイがいるね橋を通り馬車でしょう。

ーー でも、あそこは城の横手側なの」


 令嬢コットンが付け加える。

「城の内部から行けるけど、

ーー 通行証がないと戻れなくなるわよ」


「コットンさん、通行証ってどうするんですか」

「執事のスペードが管理しているわ。

ーー 今回は、お父さまの以来だから、すぐに出るわね」


 ティラミス王子とランティス王子が、零に通行証を見せた。

「ランティス王子、随分、小さいですね」


「大きいと邪魔になるからね」


 通行証はガラスのように透明なカードだった。

表面にランティス王子の名前が刻まれて顔写真が印刷されていた。


「日本のクレジットカードみたいね」

玲子はランティスに言って、しまったと思った。


「日本ですか。玲子さん」

「はい」

と、玲子は小さく返事をするが時遅し。


「玲子さん、日本のクレジットカードを見てみたいわ」

令嬢コットンの意識に再び火を付けてしまった。


 零が玲子先生を見ながら苦笑いをしている。


「零、私になんか言いたそうね」

珍しく冷静な玲子が零にみ付く。


 令嬢コットンは玲子のご機嫌の悪いのを察知して次の言葉を控える。




 その頃、ルーク・ドメーヌは、筆頭執事のスペードを呼んでいた。


「スペード、零と玲子さんの通行証を至急作成してくれるか」

「ルークさま、これをどうぞ」


「スペード、これは」

「メリウスさん、零さん、玲子さんが城に到着した日、

ーー 他の執事にお願いして作らせた通行証です」


 ルークが手にした三枚の通行カードには名前と顔写真が印刷されていた。


「スペード、本当に仕事が早いね」

「ルークさま、ありがとうございます」


 ルークは、スペードのアシスタントをしている執事を呼び、メリウスたちに通行カードを届けるように指示した。




 令嬢ルシアの部屋の扉がノックされて、緑髪のセーラが対応した。

「分かりました。お渡ししますね。ご苦労様」


アシスタント執事は、一礼して戻って行く。



「ルシアさま、メリウスさんたちの通行カードが届きました」

「セーラ、ありがとう」


 ルシアはセーラからメリウスたちの通行カードを受け取り確認した。


「メリウスさん、零、玲子先生、届きましたよ」


「ルシア姉さん、何が届いたの」


「零の通行カードよ」


 令嬢ルシアからメリウスたち三人は通行カードを渡された。


「でも、この写真、いつ撮影したのかしら」


「玲子先生、城で部屋着を渡された日じゃないかしら」

令嬢コットンが言った。


「本当に、至れり尽せりね。

ーー ところで、私たちがお茶して敵さんは監視しているんでしょうか。

ーー なんか、薄気味うすきみ悪いわね」


「先生、私も同じ思いよ」


「零も、感じるの」


 ルシアが零と玲子先生に言う。


「お父さまの指示を演じるだけですから問題ないわ。

ーー でもね、玲子先生顔バレよね。

ーー 零はバレて無いけど」


 コットンが口をはさむ。

「私たち、お父さまから言われて無いけど、

ーー ルシア、どうかしら」


「姉さん、私たちも喫茶部に行くわけ」


「ルシア、それが自然じゃないかしら。

ーー 私たちがいれば、私服兵がいても自然よね」


 ルシアは姉のコットンの紫色の髪を見ながら自分の水色の髪を弄り始めた。


「ルシアいいと思わない」


「姉さん、分かったわ、明日、お父さまにお願いしよう。

ーー でも通行カードは持ってないわよ」


 緑髪の秘書セーラがルシアの声を聞いて、ルシアの耳元で耳打ちした。


「ルシアお嬢様、お嬢様方は、すべて顔パスになっております」


「ありがとう、セーラ」





 翌日の朝食後、ルシアとコットンは、ルークの部屋を訪問した。


「ルークさま、お嬢様方がお見えです」

「スペード、通してくれ」


「はい、早速」


 ルシアとコットンは秘書を連れて訪問している。


「お父さま、私たち姉妹も喫茶部に行こうと思っています」


 父のルイ・ドメーヌは頭を抱えながらも娘たちの我儘わがままに抵抗出来ないでいる。


「ルシア、コットン、これは遊びじゃないんだよ。

ーー 分かるね」


「分かりますが、零と玲子先生を近くで応援したいんです」


 ルークは、しばらく天井を仰ぎ目をつむり考えた。

ルークが考えごとをする時の癖だった。


「分かった。お前たちには手を焼く。

ーー 但し、条件がある。

ーー 秘書とメリウス同伴なら許そう」


「でも、お父さま、通行カードは?」

「ルシア、秘書やメイドはみんな通行カードを所有しておるから、杞憂きゆうだ」


 ルシアの前に秘書のセーラが、コットンの前に秘書のニーナが現れ、令嬢姉妹の前に自分たちの通行カードを見せた。


「さて、ルシア、今、ルイが調査中だ。

ーー ルイが戻ったあとになるから焦らずに待っていてくれ」


「分かったわ、お父さま、

ーー 私たちも、その時が来るまで部屋で静かにしているわ」


「じゃあ、あとで知らせるが条件は以上だから、

ーー 下がってよろしい」


 ルシアとコットンはドレスの両側を両手でつまみ、左足を引き右足を曲げた姿勢で父ルークに挨拶して退室した。

ルシアもコットンも髪の色と同じ色のドレスを着用していた。


 執事のスペードが扉の外で、令嬢姉妹の背中を見送っていた。

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