第三十話 首謀者判明 二重トラップ作戦

 大魔法使いメリウスが数日ぶりにドメーヌ城に戻った。

ルークドメーヌが労いの言葉を掛けている。


 メリウスは変身魔法と転移魔法を駆使して魔法省の裏取り調査を終えた。




「メリウス、ご苦労であった」

「ルークさま、ありがとうございます」


「で、首謀者の名前は合っているのか」


「メリウスの調査の裏取りでは、上がっている名前は次の二名です」


「メリウス、私に直接申して構わんから、ゆっくり声に出してみい」


「ありがとうございます。ルークさま、

ーー 最初の一名は、アクト・リカエルと言う男です。

ーー もう一名は、キレザ・リガーニと言う女です。

ーー この二名はカップルを装って行動していました」


 ルークは、その名前に聞き覚えがあった。

王家に頻繁に出入りを繰り返していた二名だ。


「ルークさま、今回の件はセキュリティホールが絡んでいると思われます」


「メリウス、よく分からないのだが」


「“信頼関係を人質にする”詐欺の古典的な手口と申し上げれば、

ーー ご理解いただけますでしょうか」


「なるほど、味方と思わせて油断させる戦法か。

ーー しかしメリウス、先日の裏取りに上がった名前とは違うが」


「ルークさま、別の名前を複数持っているようです。

ーー 先日のは、先方のおとり作戦で我々をおびき寄せる罠でございます」


「メリウス、つまり、実在しない偽名ということですか?」

「はい、多分、間違いないかと思います。

ーー その二名を経由して、ドメーヌ城の内部情報や外出予定が漏れていたと見て間違いありません」




 ルーク・ドメーヌは、ルイ・ザードを呼んだ。

「ルイ、で当たってくれ」


「はい、ルークさま。第一級で対処します」

「ルイ、他言無用でな。

ーー ドメーヌ城内部への潜入スパイの可能性も視野に慎重にだ。

ーー も要請している。

ーー 到着したら、ルイが指揮を取れ」


「ルークさま、御意」

 ルイ・ザードはメリウスを一瞥いちべつして、ルークの部屋を急いで出て行く。




 入れ替わるように、令嬢コットンとティラミス王子と令嬢ルシアとランティス王子がやって来た。


ルークがメリウスの報告を伝え新しい事実が浮上する。


ランティス王子が口を開く。

「先日の前に、

ーー その両名を城内ので見ています」


「じゃ、その時、お前たちが喫茶部で余計なことを言ったのが

ーー 伝わった可能性があるな」


 ランティス王子は、ルークが全てお見通しであることを知り自分たちの軽口の行動を詫びた。


「ランティス、やっぱり、あなたね」

ルシアが、いつになく剣幕でランティス王子を責め立てていた。


 ルシアの髪の毛が水色でなく紫色ならば令嬢コットンと思うほどの大爆発になった。


 自分たちだけでなく、国そのものを危険にさらす脇の甘さに令嬢ルシアは怒っている。

令嬢コットンも、ルシアの言動を引き継ぐようにティラミス王子を責めた。


 執事のスペードが二人の王子を退室させる。




 ルークがメリウスを見ながら、おもむろに口を開いた。


「メリウスよ、どうしたい」


「あの二人だけの仕業には無理があります」


「では、メリウスは他の者の存在を疑っているわけかな」


「はい。もう少し調査が必要かと」


「分かった。急いでも事態は変わらないだろう。

ーー 調査を継続させよう」


「左様でございます」


「メリウス何か策が他にあるかな」


「しばらくは、騙されたふりをして、

ーー 王子たちに協力してもらえればありがたいのですが」


「なるほど、罠だな」


「はい、二重トラップで対応出来ればと・・・・・・」


 


 メリウスの話を聞いていたルシアとコットンが父のルーク・ドメーヌに駆け寄り嘆願する。


「お父様、ランティス王子をお使いください」

ルシアが言うとコットンも続いた。


「お父様、ティラミス王子にも名誉挽回の機会をお与えください」


「ルシア、コットン、お前たちの気持ちは分かった。

ーー だが、もう一枚、カードが足らない気がしておるが」




 執事のスペードが 夢月零ゆめつきれい優翔ゆうが玲子を案内して来た。

ルーク・ドメーヌが大きな机の前から離れて零の前に行き零の手を握って言った。


「零、今回のお芝居に協力してくれないか」

 零は、話の意味が分からずメリウスを見た。

メリウスは零にテレパシーを送り大丈夫だと伝えている。


「ルークさま、メリウスが大丈夫と言っているから

ーー 引き受けますが・・・・・・。

ーー いったいなにをするのですか?」


「王子たちと城内の喫茶部に寄ってお茶をして欲しい」


「王子たちとお茶ですか」


 ルークは零の横にいた玲子先生にも同じ事を説明してから付け加える。


「王子たちの軽口だけでは敵を振り向かせるのは難しい。

ーー そこで、あなたたち二人が浮上した訳です」


「ルークさま、敵と仰いましたが?」


「この城は広い、城内には、いくつもの別棟がある。

ーー 従業員宿舎も、そのひとつだが、それだけじゃない。

ーー この城のエリアは小さな街の生活空間を備えている。

ーー だから、人の出入りも多い、私服兵も付けよう」


「ルークさま、そんな危険なことですか?」

 玲子先生は、魔法省での経験を降り返った。


「玲子さん、あなたが躊躇ためらう気持ちは察します。

ーー どうかルークを信じて欲しい」


「分かりましたわ。お引き受け致します」

 城主ルークは玲子先生の手を取り感謝を告げた。


「あとで、執事のスペードが、喫茶部で話す内容をあなたたちに伝える。

ーー 大まかなことだけだ」




 スペードがメイド長のクローラを呼んだ。

ルシアの秘書セーラとコットンの秘書ニーナもクローラと一緒に来た。


 クローラが言った。

「これから、ルシアお嬢さまのお部屋で私たちは待機して、

ーー 筆頭執事スペードさまの指示をお待ちします」


 ルシアとコットンが秘書に一部始終を伝えクローラを先導するように伝えた。


 メリウス、零、玲子は、クローラのあとに従う。

その前には緑色髪のセーラとピンク髪のニーナが歩いている。

ルシアとコットンは零の横にいた。



 ルークの部屋を出て行く零たちを見ながら執事のスペードは、ニタリと薄気味の悪い笑いを浮かべた。


 あとで、城主ルーク・ドメーヌはスペードとルイ・ザードを呼んで”二重トラップ作戦“の詳細を指示するつもりでいた。

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