第二十七話 玲子先生の奪還

 夢月零ゆめつきれいは、優翔玲子ゆうがれいこが魔法省の人質になったことを知り怒り狂っていた。

ランティス王子が零を宥めるが慰めになっていない。


 ティラミス王子とランティス王子の会話が魔法省に伝わっていた事をあとで知り王子たちも落胆している。


「ランティス王子、大丈夫だから、メリウスが助けるから」

零の言葉にルシアがランティスを責めた。


「ランティス、見損なったよ」

「ルシア、反省しているよ」




 拉致から、一日が過ぎた午後、玲子は、魔法省の病室に監禁されていた。

重要な人質の待遇は意外にも良く、城での生活と変わらない。

玲子は、メリウスが来る事を願って祈った。


「メリウス、お願い、早く私を解放して」

玲子の心の声は、メリウスの耳元に届いていた。


魔法省の中年の役人が玲子の病室を訪問した。

「ご気分は、良くなりましたか。

ーー 現場で倒れていたので、私たちが保護したのですよ」


「それは、感謝しています。

ーー 私は、この通り元気になりましたので大丈夫です」


「メリウスさんという少女が迎えに来るそうです。

ーー もう少し、ここで静養してください」


玲子は、この役人に逆らったところでメリットの無いことを悟っていた。




 更に一日が経過した。

メリウスは、城主のルーク・ドメーヌに謁見していた。


「ルークさま、私と玲子先生の取り引きに応じてください」

「メリウスさん、そんなことをすれば、

ーー あなたの身に安全の保証はありませんよ」


「ルークさま、私なら大丈夫でございます」


ルークは、メリウスの言葉を受けて悩んでいた。


 令嬢ルシアとランティス王子、

ーー 令嬢コットンとティラミス王子に付き添われた零が現れる。


「ルークさま、メリウスなら大丈夫です」

 零の言葉を聞いたルシアとコットンも父に懇願する。


「お父さま、メリウスさんを信用して上げてください」


娘と王子の言葉にルークは決心した。


「分かった。

ーー 零とメリウスを信用してみよう」


 城主ルークは、日時の交渉を伝えるように城の執事のスペードを呼ぶ。


「ルークさま、承知致しました。

ーー 直ちに手配をさせて頂きます」


「スペード、よろしくお願いします」


スペードはルークにお辞儀して後退りした後、部屋を出た。




 どんよりとした灰色の雲が垂れ込めた日、メリウスは魔法省の迎えの馬車に乗った。

ルシア、コットン、ランティス、ティラミス、零が見送りをする中、

ーー メリウスを乗せた馬車は視界の外に消えて行った。


「メリウスは、大丈夫よ。ルシア姉さん。

ーー メリウスは強いから」


「零が言うんだから、そうね。

ーー 中間世界でも大丈夫だったメリウスですものね」


「ただ、何も出来ない無力感に怒りが収まりません」

「零、私も同じ思いよ」




 魔法省の玄関には、優翔玲子ゆうがれいこが中年の役人と一緒に並んでいた。

メリウスを乗せた馬車が到着する。

玲子はメリウスを見て不甲斐ない思いを感じる。

メリウスと交代した玲子は役人に馬車に乗るように促された。


 玲子を乗せた馬車が消えるとメリウスは、魔法省の奥に案内される。

「お役人さま、私みたいな小娘に何のご用ですか」


 メリウスは相手の出方を見ている。

中年役人の男が生前ジュークから聞かされた事をメリウスに伝えた。


「そんな戯言を信じられたのですか。

ーー ジュークとかいう魔法使いの言い訳と思いますが」


 中年役人は、小娘を見ながら妙に納得している。

メリウスは相手の心が読めるのだ。

中年役人はメリウスの手のひらの中で踊らされていた。


「私に、利用価値があると思われますか。

ーー サーカスにでも売り飛ばしますか?」


 渋い表情になった中年の役人は部屋を出て若い男と交代した。




 メリウスにして見れば誰と交代しても同じだ。


「あなたも魔法省に素直に従った方が、

ーー ご自分のためですよ」


 メリウスは腹の中で笑い転げていた。


 若い役人が話している相手こそ、中年の役人だった。


 メリウスは、無詠唱魔法で中年男をメリウスの姿形に変身させていた。

メリウス自身も中年男の姿になって魔法省の玄関を堂々と出て行く。


 メリウスの姿をした中年役人を若い役人の男が監視していた。




 その頃、玲子はルーク城の跳ね橋で兵隊長のルイ・ザードに出迎えられた。

玲子を城の玄関で出迎えたのは、メイド長のクローラだった。


「クローラさん、わざわざお迎えをありがとうございます」

「玲子さま、お元気で何よりでございます」


 クローラと玲子が玄関を抜けた時、零、ルシア、コットンが駆け寄る。

「玲子先生、ご無事で良かったわ」

「ルシアさま、ありがとうございます」


「ところで、メリウスさんは?」

「玲子先生と交換じゃなくて」


「零、変ね。

ーー 私はメリウスの気配をさっきから感じているのよ」


 零、ルシア、コットンの後ろから、メリウスが現れた。

神出鬼没のメリウスはいつもの女子高生姿に戻っていた。


 玲子がメリウスに歩み寄り強く抱きしめる。

「先生が、弱いからみんなに心配を掛けたわ。

ーー メリウス、零、ごめんなさい。

ーー ルシアさま、コットンさまにまでご迷惑をお掛けして」


 ランティス王子とティラミス王子も玲子の前に来た。


 クローラが来て言う。

「みなさん、ここは城の玄関ですから、奥にご案内します」


 クローラは、地下への階段を降りた。


 メイド三人が前から現れた

メイドの手には白い湯浴ゆあみ着が三着ある。

メリウスたちは大浴場への廊下を進んだ。



 日没前に天候は回復して晴れている。

強い日差しがドメーヌ城の中庭に溢れていた。


 魔法省の病室では、

ーー 中年役人と若い役人の男二人が謎の監視ごっこをしていた。

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