第二十八話 復活したジューク

 魔法省の中年役人と若い役人の魔法が解けた頃。

心優しい大魔法使いのメリウスがジュークの遺体に蘇生魔術を施していた。


 メリウスには、ジュークが悪人には見え無かったのである。


 ジュークは中間世界の光の世界から地上に戻された。

目の前には小娘姿のメリウスがいる。


 ジュークには、無残な死を遂げた記憶すら消えていた。

臨死体験だけが残っている。


 ジュークとメリウスがいるのは軍隊の地下牢だった。

遺体となったジュークは薄暗い牢内に放置されていたのだ。




「ジュークさん、生まれ変わったご気分は、

ーー 如何ですか」


「メリウスさん、

ーー あなたが私を助けたのですね」


「ジュークさん、

ーー あなたには、コットン嬢やルシア嬢に、

ーー 手を掛ける機会が沢山ありました。

ーー なぜ、しなかったのですか?」


 メリウスは、ジュークの心を読みながら尋ねていた。


「私は、元々、魔法使いの従者と言うか世話人をしていました。

ーー ある時、魔法省から中年の役人が来ました。

ーー 私はカネを握らされ魔法省の依頼を受けたのです」


「つまり、魔法省の狙いは、王家の弟の娘の殺害ですね」


ジュークは軽く頷く。

ジュークは、メリウスに逆らうどころか恩を感じていた。


 メリウスの説明を受けたダンジョンの管理人が復活したジュークを見て腰を抜かした。

大量の血痕も消え、崩れ落ちた肉塊が元の状態になっていたからだ。


 メリウスは事情を説明して軍隊での保護を城主に要求した。

前例のない要求はルーク・ドメーヌの許可の元、承認される。


 しばらくして、ジュークは、ドメーヌ城の従業員宿舎に移され私兵の監視が付くことになった。


 メリウスの説明に納得したルークは、王家の兄を通じて魔法省の調査を依頼する。


後に、王家の特殊捜査班が結成された。


 メリウスの想像の通りの結果がルークに報告される。

執事のスペードが調査結果の書簡をルークの目の前で読み上げた。

書簡がルークのデスクの上に置かれスペードは退室する。


 同席していたコットン、ルシア、ティラミス、ランティス、零と玲子は青ざめた。

メリウスだけが、いつもと変わらない表情をしている。


「スペードが読み上げた通り、

ーー 調査結果は、クーデターだ・・・・・・」


「お父さま、だとすれば喫緊きっきんの問題ですが」

「そうだな、コットンの言う通り時間は残されていない」


「それで、ジュークの口封じとメリウスの拉致らちを考えたんですね。

ーー すべて繋がります」

ティラミス王子の発言を聞いたコットンが悪役令嬢に逆戻りする勢いで怒り狂った。


 無理もない、コットンとティラミス王子は実際に殺され掛けた被害者なのだ。


メリウスがルーク・ドメーヌに提案をする。

「ドメーヌさま、私にいい考えがございます。

ーー 多少、残酷ですが」


「メリウスさん、まさか、伝説の魔法ですか?」


「いいえ、ちょっとらしめた方が良いと思っただけです」


 今まで蚊帳の外にいた令嬢ルシアが口を開く。

「メリウスは、軍隊よりも強いのよね」


零も続いた。

「メリウスに出来ないことはないわね」


 ランティス王子だけ、話をまったく理解していなかった。

ルシアがランティスを見て呟く。


「本当に、あんた鈍いわね」

コットンもルシアの口調を真似る。


城主ルーク・ドメーヌとの家族会議を終えた。




 ピンク色の髪と瞳のコットンの秘書ニーナと緑色の髪と瞳のルシアの秘書セーラが、

ーー メリウスたちを担当しているメイド長のクローラと一緒に入室して来た。

後ろには、兵隊長のルイ・.ザードと私服兵が同行している。


「あら、珍しいわね。ルイ」

コットンがルイに言った。


「はい、今回の喫緊きっきんな問題でルークさまに呼ばれています」

「それなら、メリウスさんが対応するそうよ」


 ルイは、メリウスの秘密の力を知らない。

「メリウスさんよ、いえ、メリウスさまね」

コットンの言葉に、ルイは言葉を失った。



「まあ、ルイ、今夜は折角ですから、

ーー ディナーをご一緒しませんか」


「そんな、コットンお嬢様、勿体ないお言葉をありがとうございます。

ーー しかし、私には仕事がございます」


ルークがルイの肩に手を掛けて言う。

「ルイ、たまには息抜きが必要です。

ーー ディナーに参加しなさい。

ーー 他のみなさんも、どうぞ」


ルイに同伴していた私服兵がルークに敬礼した。




 クローラの案内でルイと私服兵もディナールームに入った。

メリウスたちは令嬢と王子のいる中央のテーブルに着席した。

ルイと私服兵は、廊下側の端の席に着席となった。

しばらくして、給仕が順にメニューを配り始めた。


 零は小娘姿のメリウスの偉大さに嬉しくなった。

コットンもルシアもメリウスとの出逢いに感謝している。


 ジュークは、この問題が解決するまで従業員宿舎で寝泊まりとなる。

宿舎には、私服兵と私兵が常駐していた。

ジュークの身の安全を考えたルークの判断だ。




「メリウスさん、お食事を終えたら私の部屋に来てください」

「ルシアさま、何かございますか?」


「コットンも、私も、あなたと一緒にいたいのよ。

ーー 怖いからじゃないわよ」


「そうね、ルシア、私も賛成よ」

コットンのあとに零が口を開いた。


「ルシア姉さんとコットン姉さんに賛成します」

零は、右手を頭上の上にかかげ笑っている。


 玲子先生からも笑顔が溢れていた。


ランティスとティラミスがオドオドと令嬢に質問した。

「あのお・・・・・・」


 コットンとルシアの双子姉妹が即座に返事をした。

「男子禁制よ」


 零には、ルシアの水色の髪と瞳と同じ色のドレスが眩しく感じた。

コットンの紫色の髪と瞳と同じ色のディナードレスが妖艶に見えた。

零の夜は、始まったばかりだ。

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