第二十六話 魔法省の二重の罠

 白髪混じりのアンティークショップの店主が釈放されたあと、魔法省と軍隊が監視を続けている。

店主のジュークは猫背で背が低い醜男だったが社交上手と柔らかな顔立ちに助けられた。


 王家の軍隊の私服兵が二十四時間、ショップの出入り口を馬車の中から交代で監視していた。

六時間に一度、別の馬車と入れ替わる。

魔法省の監視も似たようなものだった。

魔法省はジュークの逃亡を想定しての監視体制だ。




 魔法省の役人がアンティークショップに頻繁に出入りしていた。

ダークグレーのスーツの男が二人、ジュークの店に入って行く。


 中年の役人が口を開く。

「ジューク、変なことを考えるなよ。

ーー 魔法省は、軍隊より甘くないぞ」


「分かっていますよ。お役人さま」

「お前がすることは、メリウスとか言う少女の拉致だ」


「ですが、どうやって」


 もう一人の若い役人がジュークに示唆しさする。


「餌を撒いてみるといい」

「と言われても素性がバレていますよ」


「そうだな、別の女を拉致してメリウスをおびき寄せるならできるか」

「お役人さま、拉致誘拐は死刑ですが」


 中年の役人がジュークの胸倉むなぐらを掴んで警告した。

「お前に断る権限があると思っているのか」


 ジュークの口の中に苦い胃液が逆流した。

「ええ、まあ・・・・・・」


中年の役人が時間を確認した。

「じゃあ、また来るからなあ。

ーー そうそう言い忘れた。

ーー 軍隊も監視をしているからな。

ーー 射殺命令も出ていると聞く。

ーー まあ、足掻あがいてみることだ」


 魔法省の役人が激しく扉を閉めて出て行った。




 同じ頃、コットンのアドバイスを受けたメリウスたちは、城の玄関前でルシアとコットンの到着を待っている。

ピンク色の髪の秘書ニーナがライトピンクのスーツで令嬢コットンと現れた。

続いて、緑色の髪の秘書セーラがライトグリーンのスーツで令嬢ルシアと現れた。


「零、玲子先生、メリウス、お待たせ」

「ルシア姉さん、コットン姉さん、ご機嫌よう」


「零、ご機嫌よう。

ーー ランティスとティラミスは?」


「もう馬車の中にいますが」

「本当、あの二人はちゃっかりしているから」


 金髪のランティス王子と銀髪のティラミス王子は、お揃いのライトグレーのスーツを着ていた。

馬車の担当のクローバがコットンとルシアを案内する。


「お嬢様、クローバは城の中です。

ーー 城の外は私兵の馬車が用意されています」


「クローバ、分かったわ」

コットンは、あの事件以来、素直になった。

クローバは丁寧に会釈をした後、馬車の手綱を掴み白樺の森へ移動させた。


 兵隊長のルイ・ザードと私兵が森の出口で待っている。

クローバと代わったザードと私兵が跳ね橋の出口まで九人を見送る。


 メリウスたちは、三台の馬車に分譲した。

先頭馬車に令嬢コットン、ティラミス王子、秘書のニーナと私兵三人の六人。

二台目の馬車に令嬢ルシア、ランティス王子、秘書のセーラと私兵三人の六人。

三台目の馬車に零、メリウス、玲子先生と私兵三人の六人。


 コットンたちの計画は王子たちの軽口から魔法省の役人を経由して店主のジュークに伝わった。


 ジュークは、メリウスたち以外の人間を一人拉致することを考えて港の見える公園に先回りして待ち伏せしている。


 魔法省と軍隊は、ジュークを尾行していた。




 炎天下の中、メリウスたちを乗せた三台の馬車が公園に到着した。

人もまばらな午後の時間帯だった。


 魔法使いのメリウスは、ジュークの気配に用心していた。

ジュークが零に近寄る。

零は口を押さえられ、ジュークにナイフを付き付けられ引きられた。

零は、心の中で!と叫ぶ。


 メリウスは気付き、零の元に現れ零を連れ戻した。

その時、ジュークは零を諦め玲子先生に襲い掛かる。


 魔法省の役人と軍隊の銃口が一斉にジュークを捉える。

公園内に銃の渇いた音が炸裂した。

ジュークの身体から血飛沫と共に後方に吹き飛ぶ。

辺りには射殺されたジュークの血の臭いが充満している。


 玲子は幸い無事だったが現場の無残な光景に気を失った。

魔法省の役人が数人、玲子の元に駆け寄り彼女は魔法省に保護者される。



 魔法省は最初からジュークを餌に考えて誰かを保護に見せかけてさらう計画をしていたのだ。

哀れな姿になったジュークに生前の面影を確認することは出来ない。




 玲子先生は魔法省の馬車に乗せられメリウスたちが気付かない内に公園から姿を消していた。

ランティス王子は零を心配して、すっかり玲子先生が消えたことを忘れている。


 メリウスがトラップに気付いた時は、玲子先生はいなかった。

零は、自分の代わりにさらわれた玲子先生を考えて終始落ち込んでいる。


「零、大丈夫ですか?」

「玲子先生が・・・・・・」


「玲子先生は、メリウスが助け出します」

「メリウス、お願いね。早く助けてあげて!」


 ルシア、コットン、ランティス、ティラミス、セーラ、ニーナの六人は、事件を受けて公園観光を中止して城に戻ることになった。




 私兵は、魔法省の姑息な手段に気付かず射殺事件に気を取られた。

役人を信用した愚かさを悔いている。


 令嬢コットンは、父に連絡を入れるように私兵の一人を呼び付けた。


 私兵は軍隊の馬車でドメーヌ城に向かいルークに伝えられた。


 城主のルークは魔法省に玲子先生を返すように交渉した。

魔法省はルークに条件を提示する。


メリウスと交換が条件と言って来た。

ルークは、この罠に怒りをあらわにする。


「メリウスさん、私がお願いできる立場じゃないけど、できるかな」

「ルークさま、私にお任せください。玲子先生を助けます」


 零にランティス王子が付き添っている。

長い一日が終わり夕焼けが空を血の色に染めていた。


「メリウス、不気味な夕焼けね」


「零さま、大丈夫でございます」

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