第二十五話 店主ジュークの釈放とルシアの作戦会議

 令嬢コットンの私室は魔鏡の残存エネルギーを警戒して当分使用禁止になった。


 コットンにとっては、願ってもいない好機到来となる。


「ルシア、今を逃したら先はないかも知れないわ」


「そうね、姉さん、私も同意するわ。

ーー 父には、私から伝えておきます。

ーー 姉さんが行けば無用な心労を掛けるかもしれないので」


「ルシアの言う通り、

ーー ある意味最悪なシチュエーションね」


「これからメリウスの部屋に行って作戦会議をどうかしら」


「作戦会議ねーー分かったわ」



 二人は秘書のニーナとセーラを従えて城の長い廊下を移動した。


 零、玲子、メリウスが滞在している部屋の扉にノックの音が響く。


 メリウスが出るとニーナとセーラが挨拶をした。

ルシアが顔を出してメリウスに用件を告げた。


「メリウス、ここで相談したいことがあるの?」

 メリウスはとぼけた表情で腕組みをして考えている振りをしている。


 零が後ろから令嬢ルシアに声を掛けた。


「ルシアさん、お入りください。

ーー 正確には私の部屋じゃありませんがね」


玲子先生が後ろでハラハラしている。


「ルシアさん、何の相談?」

「決まっているじゃない、日本への留学よ」


「メリウスね、ルシアさんたちに説明してあげて」

「零さま、メリウスにお任せください」



「ルシアさま、あの次元トンネルを魔法時計で通過しますと時差が生じます」

「メリウスさん、意味が分からないわよ」


「私たちは、日本からやって来ました。

ーー 本来なら時間も一緒なのですが

ーー 次元トンネルが時間をスキップした時に誤差が生まれます」


「まだ、分からないわ」

「送り出し側と受け入れ側に時差が生まれます。

ーーその結果、送り出し側は魔法時計が時間停止を掛けます」


「・・・・・・」

「つまり、一秒も時間が動いていません。

ーー 私たちが戻った瞬間に振り子時計の振り子が動き始めます。

ーー つまり、逆も然りとなります」


「ややこしいけど、なんとなく分かるわね」



 メリウスの説明のあとでルシアの提案でルシアの部屋でティーパーティをすることになった。

ーー セーラの指示でメイド長のクローラが呼ばれた。

ーー クローラは部下のメイド三人と一緒にルシア嬢の部屋に向かう。


 メリウスたち三人は、セーラとニーナのあとについて長い廊下を進んだ。

両側に絵画が飾られている廊下は美術館さながらに飽きない。


「ルシアさん、この絵にある場所は何処ですか」

「零、そこは、ここから遠くにある場所よ。

ーー 湾の絶景が見れる場所で有名よ」


「じゃあ、ここは?」

「零と一緒に行った国立美術館の近くにある大きな公園ね。

ーー 零、行きたいの?」


「出来ればだけど・・・・・・」

「前世の妹よ!ルシア姉さんにお任せください」


「ありがとうルシアさん」

「零、違うわよ。ルシア姉さんよ」


 ルシアと零がやり取りをしているとランティス王子が廊下の分岐点から現れる。


「ランティス、最近、神出鬼没じゃない。

ーー 薄気味悪いわね」


「ルシア、それはご挨拶だね」

「ランティスは、どちらへ」


「ルシアのところに決まっているじゃないか」

「へー、そうなの。まあ、いいわ」


 ランティスが合流したあとでティラミス王子もやって来た。

前日の続きに期待しているようだ。


「私たちは、明日の日程調整をこれから話し合うのよね。姉さん」

コットンが本領発揮して王子たちをへこませた。


「今日はどうも、お嬢様の腹の虫の居所が悪そうだから

ーー またにするよ」

「あら、嫌だわ。ティラミス

ーー 明日はご一緒してくださらないの?」


 メリウスたちがルシアの部屋に到着した。

ルシアの秘書のセーラの案内で零はルシアやコットンと一緒に部屋に入った。

メイドたちは、隣の控えの間で待つことになった。


「姉さん、零がね、絵画にあった場所に興味があるそうよ。

ーー そして、明日、お天気良ければ行こうかと思って」


「そうねルシア、零を連れて行って上げて。

ーー 明日は私、用事があるので」


「姉さん、いつならいいの?」

「ルシア、そうね、明後日はどうかしら?」


「私は、大丈夫よ」

「ところで、ルシアは何処に行くつもり」


「国立美術館の近くの公園よ」

「あそこは、あまり評判が良くないわね」


「じゃ、姉さんのおすすめは」


「そうね、港近くまで馬車で移動しましょう。

ーー 私兵も一緒にね。

ーー そして、港が見える公園にしましょう。

ーー この辺では、最高よ。

ーー 零、どうかしら?」


「コットンさん、私は港が見たくなりました」

「零、コットン姉さんよ。

ーー 零がルシアの前世の妹なら、私の妹よ。

ーー 分かるわね」


「姉さん、私も零に同じことを言ったのよ」


零は、仲直りしたルシアとコットンを見て幸せだった。

ーー ランティス王子の告白以来、気持ちに重しが乗っているようだった。


 メイドが、紅茶をテーブルに運んで来た。

零、ルシア、コットンの三人は小さい方のテーブルを選びアフタヌーンティーとケーキを召し上がる。


 メリウスと玲子たちはセーラとニーナと大きなテーブルで同じ物を召し上がった。


 ランティス王子とティラミス王子が魔法省の情報を伝えに血相を変えてやって来た。


「アンティークショップの店主のジュークが

ーー 魔法省によって釈放されたそうだ」


「ランティス、それ、変じゃない」

「ルシア、多分、交換条件が提示されたんだろう」


「司法取引だな」

「兄さん、なんですか」


「ランティス、何か美味しい餌があるんだろう」


メリウスが来て言う。

「多分、魔法省の狙いは私の結界魔法です。

ーー でも心配無用です。

ーー メリウスに勝てる人間はいませんから」


 メリウスは小さくため息を吐いて零を見た。

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