第二十四話 ランティス王子の告白

 魔法省の調査官がジュークが拘束されている部屋を訪問して驚く。

建物全体に魔法のバリアを感じ取ったからだ。

魔法省でも、このレベルのバリアを張れる者はいない。


 過去の勇者以来、そういう者は現れていなかった。


 調査官はジュークの取り調べを終えて他国のスパイと判明した。

軍体に報告されてジュークの命は軍事裁判に掛けられることになった。


 調査官がジュークの元を去ろうとした時、調査官に向かってジュークは愚痴を漏らす。

「あの女だって、俺なんかより凄い魔法使いだよ」

「あの女って、誰だ!」


「名前は知らんが、令嬢ルシアと一緒だったようだ」

「なんでわかるのか、貴様如きが」


「奴は、魔鏡も魔刀も見破った、そんな芸当ができる学生がいるか!

ーーここの結界も奴の仕業だ。

ーー結界さえなければ逃亡出来たのに。クソ!」


「それで、お前の目的は何だ!」

「そんなこと喋る馬鹿がいるかよ」


「そうだな、せいぜいダンジョンの臭い飯に慣れるこった。

ーー首が繋がっていればの話だが」


 魔法省の調査官は、ジュークの顔面に蹴りを入れたあと部屋を出た。

ジュークの鼻からどす黒い血が吹き出していた。


 軍体の優しい見張り番がジュークに使い捨てのハンカチを渡す。

「兄ちゃん、世話になるな」


 ジュークはスパイ容疑がバレた時点で射殺を覚悟していた。

蹴りで済んでホッとしている。

「俺も悪運強いな・・・・・・」



 後日、令嬢ルシアと令嬢コットンの城に、魔法省の人間が訪問した。

跳ね橋のゲートにいた隊長のルイ・ザードが拒否してドメーヌ城の私兵に門前払いされた。


 城主であるルーク・ドメーヌに魔法省から手紙が執拗に届いている。

ルークは、ルシアとコットンを呼び尋ねた。


「なるほど、そういうことがあったのか」

「お父さま、メリウスたちはどうなるの」


「多分、魔法省の話では伝説の勇者以来の魔力だそうだ。

ーーおそらくその魔力のお陰で

ーーコットンやティラミスを常世とこよの国の狭間から助け出せたのだろう」


「お父さま、メリウスはどうなるの」

「大丈夫だ、王家がメリウスには付いている。

ーー心配ない」


「でも、魔法省はメリウスが欲しいのでしょう」

「大丈夫だ、ルシア、私が守るから」


 ルシアは父の胸元に飛び込んで感謝した。

その様子を見ていた元悪役令嬢のコットンも喜ぶ。



 後日、王家は、魔法省に対して、メリウスが王家直属になった事を告げた。

その時を境に、執拗な要求は途絶えたかに見えたが・・・・・・。


 魔法省は、アンティークショップの主人のジュークと司法取引をした。

 ジュークは、取引のお陰で断罪を逃れ、メリウスの拉致に協力することになった。


 二者択一の片方は地獄、片方も地獄。

同じ地獄ならとジュークは考えて結論を出した。


 あんな化け物相手したら、結果は同じだ。

ーー逃げるが最前策だ。

ーーどうやって逃げるかが問題と考えているうちにジュークは眠りに落ちた。



 魔法使いのメリウスには、ジュークの考えが手に取るように分かった。

この国の滞在よりも、日本に戻ってからの心配をするメリウスだった。


「メリウスどうしたの元気ないね」

「零さま、私は心配ございません。

ーーメリウスは軍体よりも強く丈夫です」


「見かけはただの女子高生なのにね」

「はい、今だけでございます」


「メリウス、留学どうするの」

「玲子先生と相談します」


「玲子先生といえば、ランティス王子と仲が良いわね」

「零さんね、大人を揶揄うものじゃありません。

ーーそれよりも私はあなたが心配です」


「大丈夫よ。私の貞操は万里の長城並みに高いから」

「あら、お空よりは低いのね」


「先生もきついわ」

メリウスが零と玲子の戯れを後ろで見守っている。



 メリウスたちの部屋がノックされて零が出るとランティス王子がいた。

「零さんが、ルシアの前世の妹と聞いて・・・・・・」

「王子、それで」


「僕と付き合ってください」

「・・・・・・」


「だってルシアさんのフィアンセでしょう」

「ああ、零さんは知らないのですね。

ーーこの国でいうフィアンセは婚約者じゃないのですよ。

ーーどちらかと言うと幼馴染じゃないでしょうか」


 玲子先生も後ろで驚いていた。

ランティス王子がよく現れるタイミングに不自然さを感じていた玲子は全てを納得した。


「王子、それよりも日本への留学、どうするの」

「それは、みなさん次第ですが・・・・・・」


「メリウス、玲子先生、どうしますか」

「零さま、滞在先は零さまのご自宅になりますね」


「両親の許可が必要ね」

「零さま、それはメリウスにお任せくださいませ」


「本当、メリウスってアラジンのランプのアラジンみたいね」

「零さん、アラジンって何ですか?」


「私たちの世界にある御伽噺なのよ」

「それで、メリウスさんがアラジンですか」


「そうね、私のスーパーヒロインよ」

ランティスは困ると金髪に手を当てる癖があった。


「零さん、ランティス王子が困っているわよ」

「先生、ランティス王子は、お強いから大丈夫よね」


 ランティス王子は返す言葉が見つからずに苦笑いをした。



 メイド三人が着替えを届け、ランティス王子は廊下で待つ。

メイド長のクローラが現れクローラの先導でブレックファーストルームに向かった。


ランティス王子が一人ごとを呟く。

「早く、零の故郷を見て見たい」


 クローラが驚いて降り返った。

 廊下の先では緑色の髪のセーラとピンクヘアのニーナが手を振っていた。


「ランティス王子、今日も晴天よ」

零がランティスを見つめながら笑っている。

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