第二十二話 零の秘密と二人の令嬢

 フィアンセのティラミス王子がコットンの身体を起こした。

コットンから微かな呼気を確認できた王子はコットンの名前を繰り返し呼んだ。


 令嬢ルシアはメリウスが回復魔法を使えることを知っている。


「メリウス、姉さんを助けてください」

「ルシアさま、その前にこの部屋からみんなを遠ざけてください」


ルシアはセーラとニーナに指示を告げた。

「ルシアさま、ティラミス王子、あなたも離れてください。

ーーあとは、メリウスにお任せください」


「メリウス、ありがとう」


「ルシアさま、ティラミス王子、この部屋に結界を張ります。

ーーその前に、コットンさまの状態を確認したいと思います」


 ルシアと王子が部屋を出てから魔鏡をコットン嬢の手から魔法で離した。

次にコットンの状態を見たメリウスが驚く。

コットンの魂だけが肉体から離脱して彷徨っている。


 メリウスは短時間の対応を決心して零の元に駆け寄る。

そしてルシアとティラミス王子に今見た状況を告げた。


 ティラミス王子は大きな両手で自分の頭を掴み崩れ落ちるように倒れた。


 それを見たメリウスが気付くが遅かった。



 ティラミス王子も、その場で仰向けになり意識を失った。


「王子がコットンさまのお身体を支えた時、

ーー魔鏡はまだコットン嬢の手にありました。

ーーおそらく、その時に魔鏡の負のパワーを浴びたのでしょう。

ーーあの魔鏡は触ってはいけないのです」


「メリウス、姉さんとティラミス王子を助けて」

「ルシアさまとランティス王子次第でございます」


「メリウスどう言うこと?」

「コットンさまを助けられるのは、妹のルシアさま。

ーーティラミス王子を助けられるのは、弟のランティス王子しかいません」


「メリウス、まだ意味がわからないわ」


「お二人の意識は冥界と、この世界の間にいます。

ーーけれども、魂は信頼した相手にしか反応しません。

ーーこれだけは避けたかったのですが」


「メリウス、なんのこと」

「次元、トンネルです」


「何するの?」

「ルシアさまと王子が、そのトンネルに入り、

ーーお名前を呼びます。

ーーお二人の魂は魔鏡の影響で中間世界を彷徨っています。

ーーその意識と合流して次元トンネルから戻します」


「分かったわ。姉さんを取り戻すわ」

「僕も兄さんを取り戻す」


「ただ、零と玲子先生もここに置き去りに出来ません。

ーー零の魔法時計が必要ですから」


「メリウス、私は前世の姉のルシアさんに協力を惜しまないわよ。

ーーでも、メリウス、守ってね」


「零さま、メリウスは、零さまの召使いでございます」


セーラ、ニーナ、クローラを置いて、メリウスは注意だけを告げた。

「魔鏡に触らないで、近付かないで」


セーラがメリウスの言葉を了解した。



「メリウス、じゃあ行きましょう」


 令嬢ルシア、零、ランティス王子、玲子先生、そしてメリウスの五人は、城の外に出た。

 メリウスが指示した城の横まで移動した。

 メリウスが空間からアイテムボックスを取り出し、零に魔法時計を渡した。

メリウスが背後で指示を出している。


「みなさん、零さまを中心に手を繋いでください」

「メリウス、パネルが開いたわ」

「零さま、オプションパネルの行き先を読み上げてください」


「来世、前世、霊界、中間世界・・・・・・」

「零さま、中間世界を選んでタッチしてください」


すると目の前に無数の光が輝き始めた。

「零さま、他のみなさんも光の中にお入りください」


「メリウス、ここは光ばかりの世界よ。

ーーでも、眩しくないわ」


「ここは、臨死体験者が目にする光の世界です。

ーーコットンさまも、ティラミス王子も、ここにいるでしょう」


「メリウス、私たち、どうすればいいの?」

「心の中で、コットンさまを呼んでください」


 ルシアとティラミス王子は、何度も何度も呼んで見たが何も起きない。

「諦めずに続けてください」


 コットンの意識が反応してルシアに、

ーーティラミスの意識が反応してランティスの心に語り掛けている。


 ルシアもランティスも心の中で名前を呼び合った。

しばらくして、光に包まれたコットン嬢とティラミス王子が目の前に現れ二人は驚く。


 メリウスは、その瞬間大魔法を発動して次元トンネルの中に全員を戻した。

霊体になったコットンとティラミスの意識は次元トンネル内で消えた。


 ルシアとランティスは失敗かと思った。

零が魔法時計を発動して異世界を選んだ。

再び真っ暗なトンネルがメリウスたちの前に出現した。


 令嬢ルシアとランティス王子の背中を零が押した。

メリウスたちは次元トンネル内を進み移動前の場所に戻った。



 ルシアの秘書のセーラとコットンの秘書のニーナ、メイド長のクローラが遠くから駆け寄って来た。

その後には、コットン嬢とティラミス王子の姿があった。


「ランティス、ルシア、そしてみんな、

ーー命がけで光の世界まで迎えに来てくれてありがとう」


 令嬢コットンが妹のルシアを抱きしめながら号泣した。

「ルシアになんかあったら、私は生きていられないわ」


「姉さん、私も同じよ」


メリウスが告げた。

「コットンさま、あの呪われた魔鏡はメリウスにお任せください。

ーーメリウスが処分致します」


「メリウス、分かったわ。

ーーでも、そんな危険な代物を扱えるアンティークショップの主人って怪しくない?」

令嬢コットンの素朴な疑問に双子の王子も同意して調査を出すことにした。



「ところで、零、私が前世の姉って、なんの話」

「つい口が滑って」


「ルシアさま、零が前世の妹でございます。

ーー同じ色の波動を身にまとっています」


 メリウスの言葉にルシアは零を強く抱きしめて大粒の涙で頬を濡らした。

零も同じだった。


 ルシアは、王家の水色のハンカチを零の顔に当て優しく拭いた。

「零、大浴場とディナーよ」


 秘書のセーラとニーナが横で微笑んでいる。

「零、夕日が綺麗ね」

令嬢コットンも零に感謝して握手した。


「零、あなたが前世のルシアの妹なら、私の妹よ。

ーー沢山、いじめるから覚悟しなさい」


「私は、コットンさんもルシアさんも大好きですから

ーー気になりませんわ」


 コットン、ルシア、零が初めて和解した日、

ーーアンティークショップの主人のジュークは国外に脱出する途中、王家の軍体に身柄を拘束されていた。

事態を知った父であり城主のルーク・ドメーヌが軍体に調査命令を出していたからだ。

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