第二十話 令嬢ルシアと令嬢コットンの留学

 メイド長のクローラの先導でメリウスたちの三日目が始まった。

いくつもの廊下分岐点を通過していた時だった。

背後ろからランティス王子の声が聞こえた。


優翔ゆうが玲子先生!」

「あら、ランティス王子、おはようございます」


「先生、おはよう」

「今から朝食ですか?」


「ええ、クローラさんの案内で」

「じゃ、僕もご一緒していいですか」


 クローラが玲子の代わりに答えた。

「ランティス王子、ルシアさまとご一緒じゃないのですか」


「いいえね、ちょっと遅れてしまって・・・・・・」

「なるほど、そう言うことでしたらたら・・・・・・。

ーー私、クローラがご案内をさせていただきます」


 ランティス王子は気不味きまずそうに自分の金髪の後頭部を撫でていた。


「クローラさん、今日も違う廊下ですね」

「零さま、城の規則ですから」


 零は、がっかりした表情を浮かべた。

零は、あまり運動が得意ではない。


「零さま、そんな表情をしたらーークローラさんに失礼ですよ」


「そうですね、メリウスの言う通りね」


 クローラとメリウスたちの後ろには、担当メイドの三人も同行している。



一階の表玄関に到着すると螺旋階段の下の後ろ側の扉をクローラが開けた。

大きな廊下が城内の奥まで伸びている。


 ランティスは、何処に向かっているかに気付いたようだ。

零は相変わらず、屁張った表示を浮かべている。



 廊下の奥から令嬢ルシアの秘書のセーラがクローラに手を振っている。

セーラの緑色の髪が遠くから見ても輝いている。


「セーラさま、ありがとうございます。

ーーお陰で無事に辿り着くことが出来ました」


「そんなオーバーな」

セーラが笑っている。


セーラの後ろから令嬢ルシアが顔を出す。

「みなさん、ご機嫌よう!」

「ルシア、ご機嫌よう」


「ランティス、どうしたの?」

「寝坊して、クローラさんのあとをついて来たわけです」


 ルシアは、呆れた表情でランティス王子を見る。

ランティスがルシアに謝罪した。


「ランティス、寝坊はペナルティよ。

ーーランティスの嫌いな物を出してもらいましょう」


「そんな、それじゃコットンと同じじゃないですか」

「だって、私たち双子ですから思考も共有しているのよ」


 零がルシアの言葉に反応して頷いている。


「零もそう思うのね」

「はい、ルシアさんに賛成します」

「私もよ、ランティス王子」


「零さん、玲子先生、そりゃあないでしょう。

ーーみなさんは味方と思っていたのに・・・・・・」


 メリウスは無言でスルーしている。


「セーラ、クローラ、朝食の案内をしてください」



 ルシアの言葉を受けて一同は、ブレックファーストルームに入る。


 朝の日差しが大きな窓から溢れていた。

執事が給仕にカーテンを閉じる指示を出す。

数人が小走りでカーテンに駆け寄りレースカーテンを閉じた。


 ルシアたちは昨日と同じスカートスーツ姿だった。

ルシアは、水色のブラウス、零は薄いピンクのブラウス、玲子はイエロー、メリウスはアイボリーだ。


 メイドが毎日洗濯してアイロンを掛けたブラウスは新品のように皺がない。



 ルシアは、前日と同じ白ワインを飲んだ。

「零、ここのワイン、城内の葡萄で造られているのよ」

「城内に工場があるんですか。ルシアさん」


「いいえ、工場はないわ。田畑だけよ。

ーー父がドメーヌ城用のワインを製造させているの」

「限定ワインですね」


「そうね、町には出回っていないはずよ」

「そうでしょう。ランティス王子」


 ランティス王子は寝坊の件もあってルシアを怒らせないように注意している。



 そこに双子の姉の令嬢コットンとランティスの兄のティラミス王子がやって来た。

メリウスたちのテーブルの反対側の席に着いた。


 入り口方向から、ランティス、ルシア、コットン、ティラミスの順で並んでいる。

反対側はランティスの前が玲子先生、右隣が零、そしてメリウスとなった。


「ルシア、まだ、お友達ごっこしているの?

ーーあなたも父と似てお人好しね」

「姉さん、ここで父の陰口をするのはやめてください」


「父が皇位継承権を譲らなければ、今頃、父が王だったのよ」

「姉さん、そう言うお話はやめてください!」



 ランティスもティラミスも不味いと感じて話題を変えた。

「コットンさま、このドメーヌの白ワインは、城内だけでしたか?」

「馬鹿じゃない。そんなわけないじゃない。

ーーあれは、ドメーヌのビジネスなのよ」


「姉さん、私は父から聞いてランティス王子に伝えたのよ」


「だから、父はそう言う間抜けなところがあるから呆れるのよ」


ランティス王子の仲裁は火に油を注ぐことになった。



 そんな時、城主のルーク・ドメーヌがやって来た。

「コットン、お前はまたルシアに絡んでいるのか?

ーーその悪い癖は、治らないのかな」


「お父さま、留学でもすれば直りますわ」

「何処に留学すると言うのだ」


「ルシアと一緒に留学します」

「だから何処に」



 メリウスが危険を察知した時、零がコットンに向かって叫んでいた。

「日本よ」

玲子とメリウスは頭を抱えた。


「零、それできるの?」

コットンが真顔で零に質問をした。


「多分、だって玲子先生は日本の教師よ」


コットンが零を見て不気味な表情を浮かべた。

「ルシア、日本に留学しよう」


 ルーク・.ドメーヌは娘たちを自由奔放に育てたことに後悔の表情を浮かべた。



 令嬢コットンがアンティークショップで購入した鏡を取りだす。

ルシアが怖れていた、魔鏡だった。


 だが、令嬢コットンには何も起きていない。

メリウスまで、収拾の付かない事態に混乱を隠せなかった。

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