第十七話 ドメーヌ城の混浴大浴場

 秘書のセーラを先頭にメリウスたちは、ドメーヌ城の玄関を入る。


「あのー、昨日はゲスト証を渡されましたが・・・・・・」

「零、心配ありませんわ。

ーーもう、みんなあなたたちのことを知っていますから」


 令嬢ルシアは、零のもやもやに答えたあと、セーラと並んでメイドたちの間を通る。


「ルシアお嬢様、お帰りなさいませ」

「みなさんも、ご機嫌よう」


 前からメイド長のクローラがやって来る。

「ルシアさま、お疲れ様でございます。

ーークローラが、引き続きメリウスさまたちの案内をさせて頂きます」


「クローラ、悪いわね。

ーーセーラ、このあとの予定は」


「大浴場に移動して、入浴でございます。

ーー入浴後、お食事になります」


「分かったわ。じゃあ、メリウスたちを一緒に連れて来て」

「お嬢様、お着替えがまだですが」


「お着替えは、まだ、いいわよ。ディナーの前で」


 

 セーラがクローラに近寄って囁く。

 セーラの話を聞いたクローラは、

ーーメリウスたちを大浴場に連れて行くことに同意してメリウスたちの部屋に向かう。


 クローラはメリウスたちの担当メイドを呼んだ。

三人は、クローラの指示に従い、白い湯浴ゆあみ着を三着と、

ーーメイド用の黄色の湯浴み着が用意された。


 クローラが先頭になり、三人のメイドはメリウスたちの後方を歩く。

城の地下に入ると温泉の硫黄いおうの臭いが漂っている。

微かに湯気と湿度を感じているとセーラの声がした。


「クローラ、こっちよ」

「セーラさま、お早いですね」


「ルシアさまのお部屋の方が近いだけです」


 セーラと話をしていると双子のランティス王子とティラミス王子もやって来た。

クローラとセーラが、殿方の脱衣所は、お隣ですよと注意している。


 王子たちにも他のメイドが付き添っている。



 セーラとクローラが脱衣所に入りメリウスたちも湯浴み着に着替える。

令嬢ルシアは先に着替えいる。

令嬢コットンが隣にいて零と玲子が緊張する。


「ルシアさま・・・・・・」

メリウスがルシアに声をかけたとき、

ーーコットン嬢がルシアに近寄り早口で話出す。


「ルシア、聞いていないわよ」

「姉さん、心配ないわよ。メリウスたちは味方よ」


「何処の馬の骨か分からないのよ」

「姉さん、私のお友達に失礼よ」


 セーラとクローラが二人の間に入り仲裁した。



 しばらくして、ルシアがセーラとクローラに入浴を促し、

ーーメリウスたちのメイドも付き添うことになった。


 脱衣所で湯浴み着に着替えた、セーラ、クローラ、三人のメイドが、

ーールシアと共に大浴場の引き戸を開けて中に入る。

中は温泉の湯気で何も見えないほどに霞んでいた。


 令嬢コットンが、突然、大声でティラミス王子に声を掛けた。


「コットン、僕に用ですか?」

「いいえね、おられるか確認しただけよ」


「ランティスと一緒だから大丈夫」


 湯浴み着姿の玲子が驚いてセーラに聞いた。

「セーラさん、この大浴場は混浴ですか?」

「混浴ってな〜に?」


「女と男が同じ湯船に浸かるお風呂ですが」

「玲子さん、ここは同じ湯船ですが、

ーー殿方の湯とは目に見えない結界で仕切られています」


「殿方の湯船から、こちらは見えるのですか」

「視界は遮断されて、あちら側を見ることも往来も不可能になっています」


「そうよ、セーラの言う通り、ただお喋りは出来るのよね。ランティス王子」

「ルシアの声は、よく聞こえるな。

ーー結界が邪魔だよ。あははは〜」


 双子の令嬢と双子の王子は、大浴場の会話を楽しんだ後、

ーーそれぞれのシャワールームに向かった。


 セーラ、クローラ、メイドたちは既に上がって待機している。

メリウスたちも先に上がっていた。



 三人のメイドが、メリウスたちを部屋着に着替えさせ制服を回収した。

部屋着は、昨夜のと同じ色のアイボリー、イエロー、淡いピンクのドレスだ。


メリウスにアイボリーのドレス。

玲子にイエローのドレス。

零に淡いピンクのドレス。


 クローラがメリウスたちに移動を促していると、

ーールシアが水色の髪の毛を拭きながらやって来た。

「みんな、ちょっと待っていて、一緒に食堂に行きましょう」


 セーラはルシアの身支度を整え、

ーールシアも昨夜と同じ薄い水色のドレスに着替えた。


「じゃあ、みなさん参りましょうか」


 令嬢ルシアがセーラに微笑み掛けて零を見た。

「零、大浴場、気に入った?」

「ええ、夢を見ている気分でした」


「零、面白いこと言うのね。夢じゃあないわよ」

「だって、あんなに大きな温泉、初めてですから」


 ルシアは笑いながら、玲子を見ると、玲子も同じ事を口にする。

令嬢ルシアの普通は普通では無かった。


「ルシア、ちょっと待って」

後ろからランティス王子が呼び止める。


「ランティス、なにか」

「今日は、どちらの食堂ですか」


「ランティス、分からないわ。セーラに聞いて」


 セーラがランティス王子に説明する。

「城内の食堂は日替わりメニューのように場所を変えています」


 食堂が移動することはない。

複数のディナー用食堂が予め割り振らているだけだった。


 メリウスたちは、毎回違う道を進み、方向感覚が麻痺しそうになった。



 セーラが立ち止まり、

ーー中の給仕が大きな扉を開け直立不動で令嬢ルシアに深々と頭を下げている。


「お嬢様、お待ちしておりました。

ーーお席の用意は出来ております」


 ルシアは、給仕に礼を伝えセーラとクローラに指示を出した。

「零さま、玲子さま、メリウスさま、

ーーさあ、こちらです」


 メリウスたちは驚いた。

昨日の食堂の復元がそこにあったからだ。


ルシアが声を上げる。

「お父様・・・・・・ご機嫌よう」

「ルシア、ご機嫌よう」


 令嬢コットンが城主ルーク・ドメーヌの後ろにティラミス王子と一緒に立っていた。

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