第十六話 王立美術館って御伽噺みたい!

 令嬢ルシアは気持ちを切り替えて、おとなしく城に戻ることにした。


「セーラ、戻るわよ」

「はい、お嬢様」


 令嬢ルシアとメリウスたちの大所帯が動けば、目立つに決まっている。


「ルシア、真っ直ぐ戻るのもいいが、

ーーみんなに町を見せて上げたらどうかな」


「ランティス王子、ナイスよ。

ーー私もモヤモヤしていたのよ。ミニ観光ね」


「じゃあ、この先にある王立美術館などはどうかな?」


「そうね。それでいいわ。じゃあ、

ーーセーラ、案内してくれる」


 秘書セーラの案内で五人と私服兵は町中を移動する。


「セーラ、どうしたの?」

「道を間違えたのかな」


「ランティス王子、どう思う」

「ルシア、道はあっていると思うよ」


「じゃあ、どうして着かないのよ。

ーーメリウス、分かる?」


「多分、さっき購入した小刀かもしれない」


「アレ、問題なかったわよね」


「多分、あの店の結界の中ではね。

ーー暗澹あんたんの波動はなかったのだけど、今は微か感じます」


「じゃあ、この小刀を預ければ、問題無いわね」


ルシアとメリウスたちは、アンティークショップまで戻ることにした。


「ジュークさん、すみませんが、

ーーさっき購入した小刀を一時預かって頂けませんか」

「ルシアお嬢様、では、お預かりしますね」


「王立美術館から戻ったら、

ーー秘書のセーラに取りに来させますからよろしいでしょうか」


「お嬢様、お気になさらないで楽しんで来てくださいませ」

「じゃあ、ジュークさん、あとでね」


 ルシアたちは、再び、王立美術館への道を歩き出す。


「メリウス、さっきはどうして行けなかったの」

「零さま、多分、でしょう。

ーー弱くてもパワーが桁違いに強いのでしょう」


「そんな危ない物、ルシアさんは大丈夫なのかな」

「はっきり分かりませんが、いわく付きのお品物かも知れませんね」


 零とメリウスの話を傍で聞いていた秘書のセーラの顔色が変わる。


「メリウスさん、返品した方がいいかしら」

「それは、ルシアさまがお決めになることですから分かりません」


 秘書のセーラはルシアを見て尋ねた。


「ルシアさま、あの魔刀をどうされますか?

ーー私は、気が乗りませんが」


「メリウスは、どうなの?」

「ルシアさま、先程の原因があの魔刀なら、

ーー洒落にならないパワーがございます」


「メリウスが、そういうなら、ジュークさんに預かってもらうわ」

「はい、それが無難かも知れませんね」


セーラがみんなを制止させた。

「王立美術館に着きました」


 この瞬間、魔刀の犯人説が確定した。

 セーラが王立美術館の受付に交渉した結果、全員、別の入り口から入ることになった。


「セーラさん、ここは?」

「メリウスさん、ここは、VIP専用入り口になります」


 夢月零と優翔ゆうが玲子がキョロキョロしている。


「零、美術館は初めてですか」

「ルシアさん、こんな大きな美術館を見たのが初めてです」


「そうなの?零の国の美術館は小さいの」


「小さくはありませんが、こんな桁違いの大きさはありませんわね」


 零と玲子は美術品よりも大きさに圧巻されている。


 令嬢ルシアの城といい、この美術館といい、まるで巨人の御伽噺の世界を見ているようだ。


 ランティス王子は、優翔ゆうが玲子先生に説明している。


 令嬢ルシアは、零とメリウスと一緒に館内をぐるぐるしていた。

秘書のセーラは、ルシアの後方に待機。

私服兵は、出入り口を固めている。


 セーラがランティス王子に耳打ちして見学の切り上げをお願いした。


「ルシア、そろそろ、みんな疲れたから終わりにしないか?」

「そうね、魔刀の件もあるし、

ーー戻ってジュークさんにお願いするわ」


 秘書のセーラ、令嬢ルシア、ランティス王子は、美術館をあとにアンティークショップに向かう。

零、玲子、メリウスの三人は、ショップの外で待つ事になる。


 しばらくしてルシアたちが現れて、城に引き返すことになった。


「ルシアさま、あの魔刀は、どうなりましたか?」

「あれは、セーラの判断で返却することにしました」


 メリウスが秘書のセーラに尋ねる。


「あの魔刀は大丈夫でしたか?」

「大丈夫って意味が分からないわ」


「魔刀に触れて、目眩とかの体調不良がありませんか」

「大丈夫です」


「なら、良かった。多分、短時間が幸いしたのでしょう。

ーーそれにしても、あの店主が無事なのが不思議です」


「そんなに危険なの」

「次元が歪みましたからね」


「・・・・・・」


 セーラは、言葉を失ってメリウスを見つめた。


 城の跳ね橋が見えて来て、兵隊長のルイ・ザードがルシアに手を振っている。


「ルシアお嬢様、今日はお早いお戻りですね」

「そうなの、ザード、今日は魔刀で色々あって」


「魔刀ですか・・・・・・?

ーーあまり危険な品物には注意が必要ですね」

「ザードもそう思う」


「はい、職業柄、危険と隣り合わせですから

ーー用心しています」


ルシアとザードが会話をしているうちに、白樺の森外れに出た。


「じゃあ、お嬢様、今日はここで失礼します」

「ザード、いつもありがとうございます」


 令嬢ルシアとランティス王子は、馬車の前にいるクローバに労いの言葉を掛け馬車に乗り込んだ。

セーラが、零、玲子、メリウスに乗車を促す。


 馬車が走り出して右手を迂回して、しばらくすると城の大きな玄関が見え始めた。

夕方の柔らかい日差しが城の庭を赤く染めていた。

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