第十四話 令嬢コットンと令嬢ルシアのブレックファースト

 メリウスが零の大きな声に冷や汗を掻き、優翔ゆうが玲子も頭を抱え込む。

令嬢ルシアも表情が変わり、零をいぶかしげに見下ろした。

メリウスが咄嗟に間に割り込み言い訳をしている。


「ルシアさま、零さまは、

ーー子どもの頃から独り言の多い子で気になさらないでくださいませ」

「分かったわ。メリウスがそう言うなら咎めませんが

ーー今後、ご注意下さい」


 玲子は、零の後ろで小さな溜め息をつく。

 メリウスが零に囁き、零の左手に魔法を送り込んだ。

玲子がメリウスに尋ねたら意外な言葉に小さく驚く。


「零さまは、しばらく落ち着かれる筈ですから心配ありません」

「メリウスさん、まさか?」


「はい、そうです」

「メリウスさんのお陰で助かるわ」



 秘書のセーラがメイドのクローラを呼んでいる。

どうやらブレックファーストの席順を申し渡されたようだ。


 令嬢ルシアと令嬢クローラは窓側の長いテーブルの中央の席に着いた。

 メリウスたちは、通路側の長いテーブルの席の端に決まった。

執事が、令嬢ルシアと令嬢コットンにワインリストをお見せした。


「いいわよ、スペード。

ーー私はこの白ワインを頂くわ」

「コットンさま、ありがとうございます」


 続いて、スペードは、同じ質問を令嬢ルシアにする。


「スペード、ありがとう。私はこの白ワインを頂くわ。

ーー玲子先生、零、メリウスにも同じものをお願いね」

「かしこまりました。ルシアさま」


 別の給仕が、メリウスたちのテーブルに白ワインを運んだ。


「ルシア、また、お節介しているの」

「コットンさま、ルシアは親切をしているだけです」


「ランティス王子は、ルシアには甘いのよ。

ーーあの娘の水色の髪と水色の瞳は魔性よ」


「コットン、それは言い過ぎだ」

「ティラミス王子まで、ルシアを庇うの?」


「庇うわけじゃないがルシアさまに悪意は感じられないんじゃないかな」


 令嬢ルシアは、毎朝の同じ光景に辟易へきえきしている。


 給仕が、前菜、スープ、パン、ジュースを運んできた。

テーブルには既にバターとジャムが並んでいる。


 令嬢コットンは、口を付けず、ブレックファーストルームの扉を激しく開けて出て行く。

ティラミス王子があとを追いかける。


「まったくコットンは、気が短くて、どうしようもない」

「ルシア、コットンさまも悪い方じゃないから、

ーー腹の虫の居所が少し悪かったんだと思うよ」


「ランティス王子は本当に優しいわね。

ーー学園で姉がなんと呼ばれているか知っているわよね」

「ええ、知っているけど、あれは庶民の誤解と僕は思っているよ」


「まあ、いいわ。誤解にしておいてあげる」



 給仕がデザートとコーヒーを運んで来て、メリウスたちは朝食もクリア出来そうと安堵する。

陸上選手がハードルをクリアした瞬間に似ているかもしれない。


 ルシアは、前日のアンティークショップの魔鏡を思い出した。

双子の潜在意識が共有しているなら、令嬢コットンがアンティークショップを訪れる可能性があった。


「メリウス、あのアンティークショップの魔鏡、本当に危ないの」

「ルシアさま、分かりませんが、不吉なオーラが漂っていました」


「もしも、知らないで魔鏡に触れたらどうなりますか」

「その場合、最悪は消えてしまいます」


「消えるって、どうなるの」

「異世界転移します」


「メリウス、私も異世界に行きたいわ」

「あの魔鏡だけは、ダメです」


「じゃあ、どうするのよ」

「メリウスにいい考えがございますので、しばらくお待ちいただけますか」


「どれくらい待つのよ」

「そうですね。あと一日もあれば」


「一日なら、待つわ」

令嬢ルシアは、メリウスに握手して抱きしめた。

零と玲子は食事を終え、ルシアの反応に驚いている。



 ブレックファーストルームの真っ白なカーテンが開けられ、中庭の花壇に太陽の光が降り注いでいる。


優翔ゆうが先生、今日は学校ーーお休みですか?」

「日本なら、お休みだけど・・・・・・分からないわ。夢月さん」


「零さま、本日は、お休みでございます」



 令嬢ルシアが、メリウスの背後から顔を出して零に話掛ける。

「零、今日は、私のお相手をするのよ。いいわね」


 メリウスの頭痛の種が成長している。

玲子も隣で聞かなかったことにしようと考えた。


「ルシア、じゃあ僕も零たちとお相手するよ。

ーー人数多い方が賑やかでいいだろう」

「ランティス王子の申し出じゃ、私は断れないわよ」


「ルシア、随分じゃあないか?」

令嬢ルシアは、あっかんべーの仕草をしたあとで、無邪気に舌を出した。



 ブレックファーストルームの扉が開き、秘書のセーラとメイドのクローラが部屋に入って来た。

城内を自由に往来することが禁じられている。


「ルシアお嬢さま、では、お部屋にお戻りされますか」

「いいえ、セーラ、メリウスたちと城外へ遊びに行くわ」


「城外ですか?」

「そうよ、悪い?」


「悪くはありませんが、聞いていませんので」

「さっき、思いついたのよ」


「お時間は、どれくらいですか?」

「分からないわ」


「じゃあ、護衛を手配しますので少しだけお待ちください」

「分かったわ、セーラ。少しだけよ」


「ルシアお嬢様、ありがとうございます」

「セーラ、悪いわね」

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