数学ができない鵜飼くんと受験後。

 今回の受験でなれないことをしたというのもあってさすがの私も疲れてしまった。だけどだいぶ手応えアリなことに間違いはない。今のところ私のことよりも聖奈のことのほうが心配である。

「大丈夫かな……」小さな声でひとりごつ。


私が今いるところは薔薇丘高校の最寄り駅の近くにある謎のモニュメントの前である。受験前来たときに、聖奈とここを終わったあとの待ち合わせ場所にしようと話していた。モニュメントの見た目はなんとも形容詞がしがたいがへんてこな形をした人間に、翼が生えている。というものである。その翼はかなり大きく、私をすっぽりと覆い隠せてしまえそうだ。近くにある解説文的なものを読んでみると、

『どんな人間でも平等に大きな世界へと羽ばたくことができる。』という思いが込められている、らしい。


意味もなく解説文を読んだり、モニュメントを眺めたりしたりして約10分。

聖奈が来ない。もうとっくに試験は終わっているはず。ちょっと高校の方に様子を見に行こう。


高校に向かって歩き出すと、街路樹が目に留まる。最寄り駅から高校までの道へ、ずーっと街路樹が植えられており、木が道を示してくれているように感じる。これは通学していて晴れやかな気持ちになれそうだ。

そういえば、通学って聖奈と一緒にするのかな……私としては一緒に行きたいけど、聖奈はどう思ってるかな……

なんて考えながら歩いていると、前から聖奈……と2人の女子が歩いてきた。

えっ、なにアイツら。怖奈でそう……

聖奈と女子二人は仲良さそうに話している。すると聖奈がこちらの存在に気づいたのか、手を振っている。


なんだろう。この胸の奥がモヤモヤする感じは。

今まで感じたことがなかった感情だけど、中3になってから急に感じるようになったこの感情は。聖奈が2人の女子に手を振り別れると、こちらに駆け寄ってきた。

「優奈〜」

「……」

「優奈?」

「……」

「優奈さん?」

「……さっきの女たち誰よ。」

「え? 急に話しかけられたんだ! 友だちができる予感!」

無邪気に返す聖奈。

「……随分仲良さそうだったね」

やばい、何か止まらない。私イヤな女になってる気がする。

「えっ? どゆこと?」

聖奈はただただ困惑している。

「聖奈のバカ」

「えぇ? ごめん! 優奈のこと怒らせたつもりはなかった! ごめんね?」

素直に聖奈が謝ってくるのでモヤモヤも自然となくなってくる。

さっきの女子たちの件は気になるけど、それを聖奈にあたってもしょうがない。

聖奈に悪いことをしてしまった。ごめん。

「せ、聖奈、いきなりごめん。ちょっと強くあたっちゃった。」

「怒ってないの? 良かった〜」

聖奈が安心しきった顔をする。かわよ。

「うん。ごめんね」

「全然大丈夫! ところで優奈、このあと受験頑張った記念でさ、」

少し言葉に間があく。こういうときの聖奈はなにか私に言いづらいことを言うとき。

だから言ってもいいよ? と優しく対応するのがよし!

「なーに? 大体なんでもいい――」


「少しだけ一緒に家の近く散歩――いや、デートしない?」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る