数学ができない鵜飼くんと勉強。前編

 聖奈のことはとりあえず気にしないことにして、もうすぐ授業が始まるので準備を始める。次の授業は保健体育だ。教室内のクラスメイト達はぞろぞろと校庭へと向かう。


 私たちが通う私立「薔薇丘ばらのおか」高校は、地元では有名な先進校だ。何やら20年前に作られた学校らしく、校舎もピカピカ、設備は整っているし、生徒の民度もみんな良い。大学に進学することが決まっているような人達が入学するような場所であり、もちろん私もその1人だ。中学3年次の評定は4教科オール5だった。国語を惜しくも落としたが、それでもこの学校に入学することはできた。


 そういえば、受験の時も、聖奈は大変だったなぁ……


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 あれは確か、私の部屋で聖奈に勉強を教えている時のことだった。私は木製のローテーブルに向かっていて、聖奈はその右隣だった。中3の男女が部屋で2人。

なんだかラブコメチックな展開だが、私たちの間にそんなことは一切ない。

「優奈〜! 問3わかんない〜! 素因数分解って何? 素数って何?」

「聖奈、それ中1でやるところだよ……」

「そうかもしれないけど、忘れっちゃったんだもん〜」

「はいはい、一から教えてあげるから、集中して」

「は〜い」

そこから10分ほど、中1でも余裕で分かっちゃうような問題を、丁寧に教えた。聖奈はトンチンカンな解釈をするので、その度に訂正する。そんなこんなである程度キリがいいところで休憩に入る。私は、ずっと思っていたことを聖奈に聞く。

「ねえ、聖奈はさ、なんで薔薇丘高校にしようと思ったの?」

「え? それ今聞いちゃう?」

「聞かない方がいい?」

「う、うん。そ、そうしてほしい、かな?」

少し視線を逸らし、ほんのちょっと顔を赤く染める聖奈。何それ可愛い。私は、

聖奈を少しからからかいたくなってしまった。

「え〜何? もしかして、高校も私と一緒にいたいから、とか?」

「………………」

少し意地悪い声で聞くと、帰ってきたのは沈黙。でも目を逸らしているけど耳が赤くなってるのが丸わかりだ。あ〜可愛い。ちょっと悪いことしたな。謝ろ。

「聖奈? ごめ––––」

「それじゃ悪いかよ……」

謝ろうとした途端。聖奈がノートにシャーペンを滑らせながら言う。右から横顔を見るだけでもはっきり分かる。赤い。真っ赤だ。それはもうゆでだこのように真っ赤だ。待ってよ! そんな真っ赤になりながら言った言葉が

『それじゃ悪いかよ』なの!? 可愛すぎない!? やばいちょっと私の頬も赤くなってきたかもしれない。

「ごめんね。全然悪くはないよ。私も、その、聖奈とはもっと一緒にいたいし」

自分で言っててもちょっと恥ずかしくなるようなこと言ってしまった。聖奈は、私の方をずっと見ている。え? 何? なんか良い雰囲気(少女漫画調べ)に

なってない? 見つめ合っちゃってるし、顔近いし、2人とも顔赤いし、

え、これキスしちゃうやつ? 幼馴染と勉強中にキスしちゃうやつ?

聖奈とだったら、悪くないかもだけど……じゃない! 今家には家族がいる。

見られたりでもしたら最悪だ。聖奈の顔が少しずつ近づいてくる。鼻の先が触れ合いそうだ。やばいちょっとドキドキしてきた。私息臭くないよね?

「せ、聖奈?」

「優奈……俺さ、ずっと、優奈のことが……」




 

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