隣の席の鵜飼くんは数学ができない。

馴鹿谷々

1章 隣の席の鵜飼くんは可愛い。

隣の席の鵜飼くんは数学ができない。

––––私、中条優奈なかじょう ゆうなには悩みがある。隣の席の鵜飼うかいくんが、可愛すぎることだ。


 眠そうに瞼を擦りながらノートに向かう鵜飼くんを見ながら考える。

まだ1時間目なんだけどな……

ノートには丸っこいけど綺麗な字で「数学」と書いてある。

 

可愛い。鵜飼くんを一言で表すならその言葉しかないと思う。くりんとした目、長いまつ毛、そしてとどめの萌え袖。うちのクラスの2大イケメン男子の1人、鵜飼くんは可愛い。いや、可愛すぎるのだ。

 

 ちなみに2大イケメン男子のもう1人は、新垣翔にいがきしょう。頭脳明晰、運動神経抜群、そしてイケメンと、人間が持って生まれれる才能を全て持って誕生したような男だ。張り出されるテストの点数順位で、私が狙う1位をいっつも掻っ攫っていく。憎き新垣。


 ちょっと話が逸れたけど、とにかく鵜飼くんは可愛い。なぜかって……

キーンコーンカーンコーン。突然1時間目の終了を告げるチャイムが鳴った。

これは……

「優奈〜疲れたぁ〜」

「はいはい、聖奈せな。お疲れ様。」


 鵜飼くん、いや、聖奈が茶色みがかった頭を私の方に向けて差し出してくる。

撫でて。と言うサインだ。なるべく優しく聖奈の頭を撫でてやると、聖奈が嬉しそうに目を細めて私の手にほほを擦り寄せてくる。可愛い、まるで犬みたいだ。

 

 聖奈は中学1年の時からの親友だ。幼馴染と呼ぶには遅いかもしれないけど、親友と呼んでもおかしくないはずだ。お互いに好きなもの嫌いなものは完璧に把握してるし、扱いにはなれている。だから聖奈が授業(というか数学の授業)のあとに私の机まで来て、甘えてくることもわかっていた。


「よしよし」

「ありがとぉ〜優奈大好き!」

 

 周りのクラスメイトたちがザワザワと騒ぎ出す。これだよこれ。いきなり爆弾

発言をしてくるんだこの男は。可愛いことした後にそんなこと言われたら心臓に悪いよ……


「ちょ、ちょっと聖奈、クラスの中でそう言うこと言うのやめてって。」

「あ、ごめん。つい思ったこと言っちゃった……ごめんね?」

謝ったあと、もう一度上目遣いで謝られる。もう聖奈〜! 可愛いから許す!

っていうかまた軽い爆弾を放り込まれた気がする。ほんっと心臓に悪い。

聖奈を撫でる手を止めずに悶絶に耐える。これが私達の休み時間の過ごし方だ。

周りのクラスメイトの目線や話など気にせず、聖奈を甘やかし続ける。私も聖奈もこの時間が大好きで、誰にも邪魔されたくない。すると突然。

「なあ、お前らってさ、付き合ってんの?」


 クラスのモブAくんが私達の時間を壊す。邪魔すんな消え失せろ。

おっと。私の中の怖奈こわなが出てしまった。


 う〜ん。私達が付き合ってるか。か……私は聖奈のことをとして見ていない。つまり、恋愛感情を抱いてはいないと言うことだ。まぁ恋愛感情を経験したことのない私(16歳)が言うのもアレなのだが……


「付き合ってないよ。優奈は俺の大切な友達だもん。」

「へ〜そうか? そういうふうには見えないけどな〜」

「そうそう。私と聖奈に付き合うとかはないし。ね?」


 聖奈が頷くと、ちぇ。と不満そうに帰るモブA。でも、すぐ隣にいる聖奈もちょっと不満そうな顔をしている。なんで? わからないけど、これで聖奈との時間を再開できる。と思い、聖奈の方に手を伸ばすと、少し頭を振り、手を払われてしまった。私、何かしちゃったかな? 

「どうしたの聖奈?」

「うるさい。なんでもないよ……」


 ちょっと拗ねた声で言う聖奈。なんで拗ねてるの? 聖奈? なんで〜!?

聖奈はたまにこう言うことがあるんだよなぁ……ふと顔を背けた聖奈の耳を見ると、ほんのりと赤くなってる気がした。風邪気味なのかな? あとで栄養ドリンク買ってあげよ。




 








 



 






 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る