第2話 入学試験
「うん、よろしくね!キューションさん。」
彼女は魔法騎士の家系であるコスタルジオーネ家の長女で二人の兄が居るらしい。
使える属性は風と白魔法が少しとの事。
「あ、キューションさんはどの属性が使えるんですか?」
アルメタは態度の割に思いの外グイグイくるなぁ、と思って彼女を見た。
「あっご、ごめんなさい、デリカシー無いですよね、会ったばかりなのに……」
アルメタの視線を咎めるものだと思ったのか、申し訳なさそうに弁明するクローバー。
「あぁ、いや、別に責めたわけじゃないんですよ、その……」
アルメタはそう言いかけたものの、似たようなことを考えていたので、それに変わる理由を探す。
「そ、そう!そのリボン!大きいのに、綺麗に結ばれていて、器用だなと思いまして、思わず見入ってしまいました。」
アルメタは愛想笑いを浮かべ、できる限り悟られないように振る舞う。
「あ、そうなんですね!ごめんなさい、勘違いしちゃって。」
「いやいや僕も勘違いされるような真似をしたのが悪いのですよ。」
両者安堵の下、会話は続く。間に沈黙が流れる。それを先に破ったのはアルメタだった。
「そういえば僕の魔法適性をまだ言ってませんでしたね。」
アルメタは少し息を吸って、何かを決意したような表情で言う。
「黒、僕の魔法適性は黒だけなのです。」
その言葉にクローバーは驚き、困惑の表情を浮かべる。が、気にもかけず、アルメタは自己紹介を言い切る。
「キューション家の悪魔の子とは、このアルメタジオーネよ!」
「はい、知ってますよ。」
アルメタは驚きのあまり目を見開いたまま固まってしまう。
「ほら、黒髪黒目って珍しいですし、貴族の集まりとかでも色々……あ、でも悪い噂じゃなくってしっかり、すごい魔法を作り出したとか、呪物の
前半は少し気になったが、自分が思うより、自分の評価は良いようでアルメタは少し安心した。がどうせなら底抜けに怯えていて欲しいとも思った。
「あ、そうだ!呪いに詳しいなら、私に教えてくれない?私呪術関連苦手なんだよねー。」
「なら、僕も、白魔法関連はまぁ魔力柄どうも苦手で、教えてくれませんか?」
「ええ!もちろん!」
そして二週間が過ぎた、馬車というある種密室空間で男女が二人……何も起きなかった!
当然である、そもそも馬車内には二人だけでなく、一般の客や他にも多くのノーチェ魔法学園入学試験に望む若人が多く乗るのだ、ペンや紙の音が響く車内で湧き上がるのは入学試験に合格できるかの焦りのみである。
そして二週間の道のりが過ぎ、入試一週間前、五条……ではなくアルメタジオーネ、現着。
何人もの入学志望者達が一斉にバスを降りる。その様はまるで壺から幾匹の毒虫が溢れ返るようだった。
然し終わりでは無い、まだこれから一週間宿にて勉強漬けの日々が始まるのだ、そう決意を新たにし宿の扉を開ける。するとそこには見知った顔があった。
「おぉ!アルメタ!アルメタじゃないか!久しぶり……と言っても一ヶ月くらいだな!この宿に泊まることにしたのか?」
「えぇ、そうだけど意外だね、ミーティア家ならこの辺に別荘の一つや二つ持っているものと思っていたのだけれど。」
「流石にそんなには持ってないよ、王都に一つとあと要塞都市に二つほど、あるくらいさ。」
それでもなかなかと思うアルメタ。
男はまだ少年で燃えるような赤色の短髪は若さを象徴する冠のようだった。
ひとしきり挨拶を終えると、アルメタは予約していた自分の部屋へと向かう。
と、その時、一人の女性が宿へと入ってきた。
「あれ?アルメタさん?」
紺と緑のツートンカラー、後頭部には細いテープ状のリボンを結んだにしてはかなり大きなそして見事に完璧な線対称の蝶々結びのリボン。
入ってきたのはアルメタの友人であり、一時の隣人であったコスタルジオーネ・F・クローバーであった。
「あら、クローバーさんもこの宿に泊まるんですね。」
「えぇ、そうなんです、兄も受験前にここに泊まったらしくて。」
「そうなんですね、あ、紹介するよミーティア、こちらコスタルジオーネ・F・クローバーさん。」
ど、どうも、とやや緊張しながらぺこりと頭を下げるクローバー。
「クローバーさん、こちらはミーティア・シュバレリイ、僕の幼馴染で友人。」
よろしく!と握手をするために手を差し出すミーティア、クローバーはその手を取って握り返す。
「じゃあ僕はこの辺で。」
そう言うとアルメタはチェックインを手際よく済ませ、与えられた部屋に向かう。
残されたミーティアとクローバーは互いにチェックインを済ませ、部屋へと向かう。
そして一週間が経過した。
亡者の様な面で俯いた幾人もの若人達が、閻魔大王の法廷に殺到する霊魂のように生気を無くした様子で歩いている。
若人達が向かう建物は、ノーチェ魔法学園入学試験会場。対魔加工の施された
だがそれに気づく者はいない、皆一様に虚ろな表情をしており、ある者は本を手に何かをしきりに
だがもう他人を気遣う余裕は誰にも無い、受験生達は排水口に群がる水のように会場に入る。
全員が席に着き、仰々しささえ感じるほど立派な題号と、いくつかの約束事が書かれた試験用紙が配られ、試験監督官の合図で、静かすぎる会場に紙をめくる音が一斉に響いた。
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