元処刑人一家の魔法譚
3リットルのペンネ
第1話 黒色の開幕
「えーっとキューション、キューションっと……お、あった。」
アルメタは手元の番号と張り出された紙にある同じ番号、そしてその横にある自分の名前を見つけ、安堵する。
「えー、あいつの名前は〜と。」
アルメタは張り出された紙の上の方にミーティア・シュバレリィとコスタルジオーネ・F・クローバーの文字を発見する。
まぁ当たり前か、と思いながらアルメタは、既に人の少なくなったその場所に背を向けて歩き出した。
話は一年と少し前に
「入学……ですか?俺が?シュバレリィの話ではなく?」
「ああそうだ、お前には来年ノーチェ魔法学園に入学してもらう。」
言い間違えや聞き間違えでは無いことを確信し、驚くアルメタ。
「お言葉ですがお父様……正気ですか?」
「なぜ?」
「そんなことは決まっております、私は黒色魔力しか持っておりませぬ。とてもかのノーチェ魔法学園に入学できるものではございません。」
それを聞き、はァとアルメタの父は呆れたようなため息をつく。
「お前は本当に何も知らんのだな。」
「はい?」
「ノーチェ魔法学園の入学試験は筆記のみだ、実技は無い。あくまでも入学後の評価のみだ。」
アルメタは父のその言葉に驚きとても安堵した。
「そうなのですね、てっきり私にはノーチェ魔法学園など無理なものかと。」
唐突だが、ここでこの世界について説明しよう。
この世界には六つの属性の魔法と二色の魔力が存在する。
魔法には、風、火、岩、水、白、黒があり、魔力には黒と白の二色が存在する、風火岩水の四種類はこの二色の魔力を掛け合わせて発動させる。
そしてこの世界の全ての人間は生まれた時から、持つ黒と白の魔力の割合はきまっており、その魔力の割合に応じた属性の魔法が使えるというものである。
この魔力の割合が1:1の場合は四属性全ての属性が使える、そしてこの1:1から割合が遠のく程、使える属性は制限されていく。
然し、この四属性全ての属性が使える人間は実に稀であり、数百年に一度の逸材であるため、二つで優秀、三つで天才、四つで神童と呼ばれる程である。
そして四属性とは異なる、白と黒の二つの属性の魔法、これらは二色の魔力を掛け合わせず、一色の魔力のみで発動することの出来る魔法である。
そしてアルメタは黒色魔力しか持っていない、つまり黒魔法以外行使することが出来ない。こういったどちらか片方の色の魔力しか持たないという例はこれまでに無く、かなり稀有で異質な存在……
そして一年後の旅立ちの日、アルメタは学園に向かう乗合馬車に乗り。二週間の初登校に出る。
初登校と言ったが少し語弊がある。今からアルメタが学園に行くのは試験のためであり、合格すればそのまま学園内の寮で過ごすことになるのだが。落ちればまた二週間かけて実家に戻ることとなる。
従ってこの馬車内が実質的な最後の勉強できるチャンスという訳である(尚試験は三週間後なので、向こうで泊まる宿を含めるとそうでは無い。)
試験内容をまとめたノートを見返すのにも飽き、小説に手を伸ばしかけた頃、何人か目の乗客が馬車に乗車してくる。
その乗客は薄い黄緑色をした髪の少女で周りを控えめにキョロキョロしたり、オドオドと見るからに不安そうだった。アルメタは同年代と見て恐らく試験に行くのだろうと思い、使い古されたマジックポーチに小説をしまう。
彼女も恐らくアルメタも試験に行くのだろうと見て、隣に座る、とはいえあいだはかなり空いている。
彼女の後頭部には偉くデカいリボンが付いており、アルメタはカンニング道具か何かだろうか、と思った。
そしてアルメタは昼飯を済ませ、太陽は頂点を過ぎ暖色の陽光は馬車の半分ほどまで手を伸ばしていた。
「あっ、あのっ!」
アルメタはいつの間にか近くに来ていた少女に声をかけられ、小説から顔を上げる。少女の顔は少し自分の顔の位置より高い位置にあり、アルメタは少し上をむく形になる。
そうこの少女身長が結構高い、アルメタはあまり身長が高い方では無いが、それにしても高い、下手したら姉貴より高いんじゃなかろうかとアルメタは思った。
「あの、あなたもノーチェ魔法学園に、い、行かれるんですか?」
「そうだけど、君も?」
「うん、でも、いざ試験だなって思うと緊張してきちゃって、まだ三週間もあるのに……」
「それほど本気ってことだよ。」
アルメタは取り敢えずその辺で見たようなセリフを言った。
「そ、そうかな。」
緑髪の少女は照れくさそうに頬をポリポリと掻きながら答える。
「あ、そういえば、ま、まだ名前言ってなかったね、わ、私の名前はコスタルジオーネ・F・クローバー。」
「俺はキューション・アルメタジオーネ。これからよろしく。」
尚この世界では基本的に苗字の後に名前が来るシステムである。
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