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 次の日もまたデマン氏が(自身の診察も兼ねて)来て、彼は息子の容体を聞いた。トールス医師は重々しい態度をとって答える。


「残念ですが昨日と状況は変わっておりません。試しに投薬治療を、もちろん人体に害はないものをしましたが改善はみられませんでした。今は身体への電気刺激を試しています」


 きっと治りますよ、と微笑みかける。さて、そのデマン氏の状態はといえば、やはり息子のことが響いたのだろう彼は明らかに偏執的な傾向をみせていた。


 話による昨夜、妻との口論になって罵声を浴びせ、危うく手が出るところだったという(すぐに謝ったらしいが)。その理由を問い質すとどうやらこういうことだった。


 当然ながら彼の息子のことだった。昨日、帰った氏はインターネットで片端から(息子の部屋のパソコンから)マビスコ・プルトクフスに関連するような出来事をもう一度調べ上げたらしく、そこで彼のSNS、つまり思春期の少年のパソコンの中の、親にも見せていないアカウントを覗いた。奥さんとの口論の始まりはそれからだった。少年は明らかに一般的な思想を逸脱していた。他者を執拗に攻撃するところから、デジタルに精通していない素人目(デマン氏のことだ)でも怪しいと思えるような奇天烈な情報を信奉していることがわかり、しかも、あからさまな男尊女卑であるとか、右傾であるとか、あまつさえテロリズムに傾倒する発言すらも見受けられた。衝撃的で息子の発言を遡る毎に胃の中からむせかえった物が逆流してくる気さえして——不安や恐怖は怒りに変わって——手近で一緒にそれらを観ていた奥さんに当り散らした。彼女も衝撃的な事実にそのまま口喧嘩になったのだという。彼女には酷いことをいったと氏は大いに嘆いた。


 しかし顔を上げるとこうもいった。


「天罰なのです」


「はい?」医師は思わず聞き返す。


「息子があんなことをしているとは露も知りませんでした。もし、このままだったらいずれ間違いなく大きなことをしでかしていたでしょう。殺人か何か、銃の乱射事件やら何らかのテロに加担してたかもしれません」


「その前に天がそれを止めたと?」医師は怪訝な表情を浮かべないように注意する。


「その通り! マビスコ・プルトクフスとは天罰なのです」


 人差し指を立てて、どうだという顔を披露する。トールス医師はその考えに賛同するしないの判然としない回答をしながらも思春期の少年がそういったインターネット、取り分け内に引き篭もっている思春期以外の人もそういう思想に傾倒してしまうのはこと現代においては数は決して少なくないことを教え、この病院に通院している人もその手の者がいることを告げた。すると、


「ではやはり。そんなものは無くなるべきなのですな」


 といって宥めても興奮冷めやらぬ内に帰ってしまった。トールス医師は不安な顔をした。

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