第23話:さようなら
年が明けたある日、茉奈が再び東京へやってきた。空港まで、夢叶は迎えに行く。何か報告があると言っていたが、詳細は来るまでのお楽しみになっている。茉奈が乗る飛行機が到着の時点で夜7時を過ぎており、まっすぐ夢叶の家へ行くことになった。
「そういや茉奈ちゃん、報告って何ー?」
夕食の支度をしながら、夢叶は茉奈に問う。
「実は、また彼氏ができましたー! 今までの男より優しくって、大満足です!」
「そんなことかと思ったよ。期待して損したぁ」
「そんなことって何さー!? 夢叶ちゃん酷ーい!」
夢叶は苦笑いを浮かべながら、オムライスを作っていた。
「できたよー。さあ、食べよう」
夕食を食べ終わると、先に口を開いたのは夢叶だ。
「前もLINEで言ったけど、今月いっぱいで転勤するんだ。だから、これを機に絵くんと完全に縁切ろうかと考え中。」
「そうなんだ……。転勤の話は、絵星さんにはして……ないよね?」
「してない。何かねぇ……疲れちゃって。最近まともに話せてないというか」
夢叶は溜め息をつきながら、茉奈に絵星とのLINEの履歴を見せる。
「昨日の朝から既読ついたまま返事ないのよ」
「本当に、自分中心だよねぇ」
「詮索するのもやめてほっといてる。今度こそ卒業できるかって話も聞いてない。お友達から聞くには、できそうだって話だけど」
「夢叶ちゃん。様子見してよかったね。そのままばっさり別れて暴れられるよりかはましじゃない? 転勤先さえ言わなければ、追いかけられることもないし。これはきっと、絵星さんの本性だよ」
茉奈はそう言うと、皿を片付け風呂に入っていった。その後ろ姿はどこか幸せそうだ。絵星とは血液型の相性は1番だったはずなのに、そんなことさえもう関係なくなってきた気がする。
翌日、夢叶は仕事で茉奈はライブを観に行っていた。夢叶が仕事中、買い物中の絵星とばったり会う。
「お疲れ夢叶。邪魔はしないから気にせず仕事してて」
絵星は一言言うと、バレンタインの特設コーナーを見ていた。夢叶がお客さんに声をかけられ接客している間にいなくなっていた。元の位置に戻ると、再び絵星の姿が。
「大したもんじゃないけど、やる」
「あ、うん。ありがとう」
それは、特設コーナーに売ってあったマカロンだった。夢叶にあげるためにわざわざレジに持っていったのか。夢叶が呆然としている間に絵星は帰っていった。
(何だそれ……)
マカロンの意味は『特別な人』だそう。彼にとって夢叶はまだ特別な存在なんだろうか。彼からのプレゼントなんて付き合っていた頃は一切なかったのに、急にどうしたのか。
夢叶はこの日の仕事を終え箱を開けずに持ち帰り、茉奈と分けて頂くことにした。
「夢叶ちゃんへのプレゼントなのに、貰っちゃっていいの? ありがとう!」
「いえいえ。正直、こんなにいらないしね。『特別な人』だって意味、分かっててやったのかしら。どうしたいのか、全く分からん」
「そうだねー……。今までプレゼントあげたことないんでしょ、絵星さん」
「うん。だからって何かくれって要求はあえてしなかった。こっちから要求するもんじゃないでしょ。ちょっとしたものでもいいからお返しできないのって、人としてどうかしてるなぁ……なんて。やっとかというより、今更? って感じ」
「夢叶ちゃんへの想いは本物なのか、分からなくなってきちゃうね。それでもよく愛してるなんて言えるな。本物なら、もうちょっとしっかりしてるでしょ」
「しっかりなんてしなくていいのさ。やることさえやっていればよかったものの……」
転勤まで日数はない。夢叶の決意は固まったが、あとは何を言うかだ。翌日、茉奈と一緒に遊び尽くし、そのまま帰りの飛行機へ乗る茉奈を見送ってから考える。
☆☆☆
1月ももうすぐ終わる。引っ越しの準備も着々と進み、夢叶はこのスーパーでの出勤最終日を迎える。
「2年と4か月の間、大変お世話になりました! 2月から新店舗の
仕事後に行われた送別会にて、決意表明をした夢叶。集まったメンバーの1人が声をかける。
「あの彼氏くんとは、どうするの?」
「帰ったら、LINEブロックしてさようならしてきます。もう疲れたんです」
尋ねてきたこの従業員の方は目を丸くしていたが、夢叶の迷いのない言葉に納得し、うんうんと頷いた。
帰ってくると深夜になっていたが、夢叶には関係ない。まずはグループLINEに別れの挨拶。
「諸事情により、ここを抜けることにしました。今までの間、大変お世話になりました」
茉奈とはこれからも連絡を取り合っていく。次に絵星宛に別れの挨拶。
「絵くんへ、今まで本当にありがとう。初めて本気にさせてくれてありがとう。ただ、これからは相手のことを考えた行動を取らないと、周りからよく思われないので気をつけてください。これは私からの忠告です」
最後に添えた言葉は。
「さようなら。元気でね」
そして、絵星のLINEとTwitterをブロック。
(全て終わったっ!)
やっとの思いで全てが片付き、夢叶はこの街を去っていった――
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