第22話:倒れたのに

 地震の影響で空港の運営がマヒし、計画通りの6泊7日で帰れるか不安だった夢叶だったが、地震発生から4日後何とか無事に東京へ戻ることができる。空港まで茉奈が見送りに来てくれ、


「せっかく来てくれたのに、バタバタさせちゃってごめんね。次来た時はゆっくり色んな所回ろうね!」


茉奈は笑顔で送ってくれる。夢叶も笑顔で応え、飛行機へ乗り込んでいった。


 翌日、店長から電話がかかってきた。リニューアルオープンに向けての打ち合わせだった。電話が終わる前、店長から残念なお知らせを受けることになる。


 それは夢叶が転勤してから、彼女の右腕として支えていたベテランのパートさんが病院での検査でがんが見つかり、退職せざるを得なくなった件だった。


(そんな――)


電話を終えると、涙があふれていた。


☆☆☆


 それから夢叶は、人員募集をしても人が来ない中で仕事が立て込む日々が続くことになる。気がつくと11月に入っており、肌寒い時期になってきている。それなりに絵星と会ったりLINEしたりするけど、イライラすることも増えていた。


『返事ほったらかして何でゲームしてんの?』


ほんの少し既読無視されただけでも、そう言うようになってしまった。


『ごめんなさい…。最近気になってたんだけどさ、仕事がしんどいなら素直に辛いって言ってくれよ。頼ってくれよ…。』


絵星からはいつもなら謝罪だけで引き下がっていたが、この日はお願いの言葉も添えられていた。何か察していたのかもしれないが、夢叶は。


『うん、本当に大丈夫だから。心配かけてこっちこそごめん。』


絵星のことは頼れないとは思っていないが、大丈夫だというをしておいて、自前のパソコンで事務作業を再開した夢叶。休みの日も休まらない日々が続いていた。リニューアルオープンしてからのシフトは、5連勤か6連勤しての2連休の繰り返しだった。相当疲労が溜まっているのは、目に見えているだろうに。


☆☆☆


 それから数日後。夢叶は連勤最終日に入っていた。この日も変わらず過密な仕事スケジュールをこなし、そしてクリスマスの特設コーナーの手直しをしていた。その時、突然頭がクラっと来る感覚に襲われる。


(――あれ? クラクラするぞ?)


と思ってはいたものの、気のせいだということにして作業を続けていた。ところが作業を終えた途端意識が飛び、倒れてしまった。すぐさま近くにいた女性のお客さんが抱きかかえ、声をかける。


「お姉さん! 大丈夫ですか!?」


お客さんの声で目を覚ますも、応答ができる様子ではない夢叶。やがて救急車で近くの病院へ運ばれた。


 点滴を受けながらゆっくりと目を開けた夢叶に、病院の先生から過労が原因だと言われてしまった。先生と入れ替わりで店長が荷物一式を届けに来てくれた。


「店長……すみません。ご迷惑おかけしました。5日間入院です。」


「君にばかり負担をかけすぎてしまって、こっちとしても申し訳なかった。1週間の間だけ、他の店舗から応援で来てもらえるようにしたから、この機会にゆっくり休んでください。」


「は、はい…。」


 店長が帰ってから、夢叶はカバンからスマホを取り出しLINEを開く。


『ねえ絵くん。仕事中に倒れた。5日間入院になってしまったよー。絵くんも心配してくれたのに、大丈夫だって意地張っちゃってごめん。よかったら――』


入院している病院の場所を教え、スマホの電源を切る。LINE上ではと言っているが、本心は。


来てくれ――)


そう願って入院生活を余儀なくされた夢叶だったが、既読がつくだけで何にもないまま退院。


(何なん?)


絵星は一体、どんな神経をしているんだろうか? 全く分からない。


 5日ぶりに家に戻ってきた夢叶は、茉奈にLINEで報告がてら愚痴を吐いていた。今日は休みなのか、茉奈からすぐに返事が来る。


『いや、まじで信じられない。夢叶ちゃんが倒れたっていうのにどうしてのほほんとしていられるの? でも夢叶ちゃん、大事に至らなくてよかったよ――本当にさ。』


続けて送られてきたのは。


『絵星さんにちょっと言ってくるわ。』


(茉奈ちゃん気持ちは分かるけど、ちょっと待てっ…!?)


夢叶の静止を待つことなく、茉奈がグループLINE上で絵星宛に思いっきり苦情を投げつけていた。茉奈なりに気遣ってくれたのかもしれないが…。


 暫くして、絵星からLINEが届いた。それも、1週間ぶりだ。


『遅くなってごめん。俺も大学の方が忙しくてどうしようもできなくて。俺が言うことじゃないかもしれないんだけど……ゆっくり休んで。』


――どうしようもできなくて?


それは、本気で心配していないとも取れる内容だった。


『明日か明後日早く帰れるから、少し顔出すか?』


なら、来なくていいです。』


夢叶はそれだけ言うと、眠りについてしまった。目覚めると翌日の昼になっていた。関わるだけで更に疲れが増すのだろうか。


☆☆☆


 倒れてから1週間後、夢叶は仕事に復帰。そして更に1週間後、新人と思われる見知らぬ人が初出勤していた。店長が言うには、ちょうど経験者だという方が面接に来て、即採用にしたんだそう。


(このまま年末に入ったらどうしようかと思ってた。店長、ありがとう。)


 間もなく12月。夢叶は新たな同僚とともに、年の瀬へ向かっていく。


 その後夢叶は店長より、来年の2月から新店舗への配属が決まったと告げられる。

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