第19話:心の友と出会う
彼女の名は
今までに女性陣はいたが、夢叶はほぼ話すことがなかった。そして、今は夢叶1人になってしまった。何だか、取り残されたような気分でいた。
それは、茉奈にとっても同じだったのだろう。同じ境遇にいた2人はすぐ仲良くなった。そんなある日、茉奈からLINEが届く。
『夢叶ちゃん、今度の休み使ってそっちに遊びに行くから! 彼氏さんにも会ってみたいし!』
――そう来たか。
「分かった。でも、空港まで迎えに行けるかは分からんよ?」
とは言ってはみたものの、慣れない土地に来て、最寄りの駅まで1人で来いというのも可哀想だろう。せめて迎えに行くべきだろうと考えを改め、夢叶は再度LINEを送る。
「茉奈ちゃんよ、やっぱり迎えに行く。仕事早めに上がらせてもらうようにしとくから」
翌日夢叶は自らシフトを調整し、茉奈の滞在初日はお昼上がりに変更した。啓太がいなくなってからは、正式に食品担当のマネジャーを引き継ぎシフト管理もすることになった。そして出勤してきたパートさんたちに事情を話し、仕事に入っていく。
茉奈には彼氏がいるとは言ったものの、あのグループのメンバーにいるとはまだ教えてはいない――
☆☆☆
2週間後、ついに茉奈がやってくる。夢叶はパートさんたちに引き継ぎしまっすぐ空港へと向かう。電車の中で昼食を食べて、揺られること数十分。
夢叶は電車を降り到着ロビーに向かうと、既に茉奈がそこにいた。
「初めまして、夢叶ちゃん! 会いに来ちゃいました!」
茉奈は飛び切りの笑顔で先に声をかけてきた。
「こちらこそ初めまして、茉奈ちゃん。来てくれてありがとうね」
そして、夢叶が茉奈を連れてやってきたのは、行きつけのアニメのグッズ屋さんだった。
「凄い。めちゃくちゃ広いし、物もたくさんある! 流石大都会だわぁ……」
茉奈は興奮が止まらない。その様子を隣で見ていた夢叶は一安心していた。漫画や小物など様々な物を買い、茉奈は大満足の初日となった。
だが茉奈の宿泊先は決まっておらず、夢叶は自分の家に泊まらせることになった。この際だからと、茉奈に自分の彼氏について教えることにした。
「実はね、あのグループにいるんだよね。名前は橋渡絵星くん。あのメンバーの〈かいせ〉って人がその人だよ。同い歳で」
「え、まじ!? 全然そんな風に見えなかった。でもいいなぁ、1年も続くなんてさ。私なんて、最近別れたばっかだよ。今絶賛、寂しがり屋です」
「あら……その方とはどこで知り合ったの?」
「うーんと、Twitterで知り合って、そのままLINEも交換した感じ。付き合う前の1回を含めても、3回しか会わなかった。簡単に言えば、捨てられたのさ」
「捨てられるって、考えられん……。ネット恋愛って、そんな感じなんだ……」
茉奈は今にも泣きそうな顔をして打ち明けていた。ネット恋愛という未知の世界を知らされた夢叶は、何とも言えなかった。だが、彼女を少しでも慰めるためにある提案をする。
「もしよかったら、茉奈ちゃんの好きなもの作ってあげるよ」
「いいの? じゃあ、オムライスで」
夢叶は夕食を茉奈にごちそうした。美味しそうに食べる彼女に笑顔が戻ったところだったが、食べ終わった後突然真剣な眼差しで夢叶に尋ねる。
「夢叶ちゃん、今絵星さんとはどうなの?」
「どうなのって聞かれてもねぇ……絵くんも忙しいからそんなに会えてないけど、今は何も問題ないよ。残念ながら留年しちゃって、大学4年生もう1度やってるけど」
「なるほどねー……」
「ここまで1年余り、色々あったけどねー。話すと長くなるよ」
「長くても、全然聞く! 知りたいです!」
夢叶は絵星との出会いから現在に至るまで、茉奈に説明した。1時間余りかかった。それだけ、絵星と歩んできた道のりは険しくも、長い道のりだったのだから。
「本当に色々あったね。でもさ、嫌になって別れようなんて思わなかったの?」
「そっそれは……思ってなかった、かな」
嫌になるなんて、そんなことはなかったはずなのだが。否定するのに間を置いてしまった。
「夢叶ちゃんがこれまで1番好きになった男の人だし、他の女のところへ行ってほしくないから、別れたくなかったのは分かるよ。未だにLINEの既読無視もやってるってことは……言い方悪いけど、だらしない一面があるってことだよね。夢叶ちゃん一途なのはかっこいいから、それでも会ってみたいよ」
「うん……そう、だよね。明日時間あるか、聞いてみるよ」
LINEの既読無視や今までの失態をひっくるめて、『だらしない』という言葉でまとめた茉奈。ずばり言った彼女に対し、夢叶は納得するしかなかった。悪いイメージがついてしまったのに、それでも会ってみたいと言った茉奈は、どれだけ心が広いのだろう。
(まあ、言われてみれば確かにだらしないよね。慣れちゃったけどさ)
そう思いながらも、絵星に連絡を入れた。
翌日、絵星が講義を終えるのを待って、夢叶は茉奈の紹介を兼ねて急遽会うことにしたのだった。
――茉奈という心の友との初対面を境に、じわじわと、心境が変化していく。
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