第6章:本当に幸せか?

第18話:新年度の別れと出会い

 夢叶がこの地にやってきて2度目の新年度を迎えた。大学4年生としてあと1年やり直すことになった絵星と共に、新たな1年を踏み出す。


 そこで、春休みを終える絵星からの提案は。


『夜、寝落ち通話したい。』


これは、仕事を終え帰宅した夢叶ヘ送られたLINEだった。


『いいよ、やれる時にやらなきゃだね。』


と返事をする。普段は寝るのが早い絵星だが、わざわざ合わせてくれたのだろうか。こうして、寝る直前に電話を繋げ、お互いに静かに眠りに落ちていくのである。


お互いの健闘を祈ると共に、どこか幸せなひと時だ。


☆☆☆


 4月も後半に入って本格的に講義が始まり、絵星は今まで以上に学業に取り組んでいる。夢叶はまだ、かつて自分たちを結んでくれた啓太の転勤の件を絵星に伝えていなかった。


(もうあてにしてないから、言う必要もないかな。)


そう思っていた夢叶だったが、そうもいかないようだ。GWという大型連休に差し掛かる前、啓太の送別会を夢叶や店長のほか10数人で集まり、行われることになった。場所は、駅前のとある居酒屋だった。


「矢間くんとは○○店に配属になってからの付き合いで、もう3年もたった。長いようで短かった。相方のような存在だった。寂しくはなってしまうけど、副店長として新たな道を進む矢間くんを、皆さんで温かく見送りましょう!」


ある程度食事が進んだところで、店長が送辞の挨拶をする。拍手に包まれながら、啓太が答辞の挨拶をする。


「この度は副店長として□□店へ行くことになりました。お集まりいただいた方々の中には、自分よりも○○店に長くいる方もいらっしゃいます。初めての転勤だった僕を温かく迎え入れ、共に仕事ができたことには感謝しかありません。このご恩は一生、忘れることはないでしょう。そして蒲本ちゃん。」


「は、はい?」


挨拶の途中で、夢叶は指名を受ける。


「あとは頼んだ。君の更なる活躍を祈ってるよ。」


「は、はいっ!」


頑張れという周囲の従業員の応援の言葉と温かい拍手で、答辞を終えた。


 送別会を終え、啓太は例のグループLINEから退会していた。それを見ていた夢叶に対して、啓太が最後に贈った言葉とは。


「蒲本ちゃんも必ず、幸せになれよ。」


それだけ言って、啓太は左手を振りながら去っていった。その手の薬指には真新しい結婚指輪がついていた。


(そうかぁ、だから――)


言葉の意味を理解した夢叶は、翌日思い切って絵星にLINEで教えることに。


『ケータ、転勤したんだ…。知らなかった。そして結婚してたのにはだいぶびっくり。まじで驚いた。皆知らんよなこれ。』


絵星はただただ驚きを隠せない様子だった。


『必ず、幸せになれ……かぁ。夢叶にそう言ってくれたケータを見返すためにも、不器用な俺だけど、しっかり支えていくからな。』


驚くだけでなく、見返すことを誓う絵星を微笑ましく思っていた夢叶だった。


『またどこかで会う時には、堂々と見返してやりましょう。』


夢叶もその気になっていた。自分たちが更に成長し立派になった暁には、別れろなんて言ったこと、後悔させるために。


☆☆☆


 5月に入って間もない頃、夢叶と絵星、佑仁のいるグループLINEにある女性がやってきた。メンバーの1人からの紹介のようだ。今年に入ってからメンバーが減っていく一方だったが、念願の新入りだ。


茉奈まなです! 20歳の女です! アニメを語れる場所を求めてやってきました! よろしくお願いしますっ!!』


茉奈と名乗った女の子はご丁寧に挨拶をしていた。LINEでの名前も〈茉奈〉となっているため、苗字までは分からない。彼女の挨拶に先に反応したのは、夢叶だ。


『よろしくね、茉奈ちゃん!』


すると。


『やった……よかった。ネットで女の人に出会えて。』


彼女は嬉しそうにしていた。この出会いが、彼女だけでなく夢叶にも、いい影響を受けることになる――

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