第5章:危機
第15話:仲間の裏切り
年明け最初の休みを迎えた夢叶は、絵星を家に呼んだ。月輝と連絡がつかなくなってから、初めて会う。
「来てくれてありがとう」
「ううん、家に俺以外誰もいないし」
時間は午前11時。お昼はデリバリーで頼んでいる。届くまでの間、月輝の話になる。
「なあ……あれから月輝とも会えてないし連絡もつかないんだけど、夢叶の方は?」
「昨日久々にLINE来てて少し話したんだけど、それが……」
絵星にLINEでのやり取りを見せるも、今までの月輝とは違い、冷たい態度で夢叶と話しているのが垣間見える。絵星を敵に回すような発言ばかりが並ぶ。
「何でだよ? 夢叶も言ってくれたけど、何で俺は悪者にされなきゃならない? 俺らに割って入ってきたのはあいつの方だろ? 一体何が月輝をこんな風にさせたのか……」
「うん、聞いても答えてくれなかったしね。絵くんはそんな人じゃない。月輝くんだって分かってたはずじゃない。絵くんと真面目に向き合って、悩んで……ここまで来たのに、月輝くんとの今までの付き合いって何だったのって思う」
「仕事やご家族との間で何かあったのなら、全然力になる。でも、夢叶と話してる感じだと、とてもそんな風には思えない」
昨日のグループLINE内では、月輝が夢叶と絵星を避け他のメンバーと親しげに話す様子を絵星も見ている。
「ああああああ!! 絶対許さん!!」
いきなり大声を出す絵星の隣で、びくっとする夢叶。
「ご、ごめんびっくりさせちゃって……」
「ううん。それだけ、怒ってるってことだよね……」
夢叶をそっと抱きしめる絵星。
「また3人で遊べたらいいなって思ってたけど、まあそう都合のいいようにはいかんか。寂しくはなるけど、いなくなったと思えば邪魔されることもないし。信用できん奴のことなんて気にしないで――」
話しながら押し倒す。
「絵くん?」
「これからはいっぱい独占させて? 俺だけのお姫様」
「喜んで……! 私だけの王子様」
熱い口づけをしている間に注文した食事が到着。
「はーい、今行きまーす!」
夢叶がデリバリーで注文したのはミックスピザ。2人で美味しくいただいた。
絵星が帰ってから、夢叶は月輝宛にLINEを送る。絵星とは連絡がつかない以上、自分が動くしかないと。
『明日仕事帰り、お家行くので少しお話させてもらえませんか?』
絵星はああ言っていたけど、夢叶としてはまだ煮え切らないからだ。口論も覚悟の上で、1人で立ち向かう――
☆☆☆
翌日。仕事を終えた夢叶は、月輝のもとへと向かった。
「ごめんください。夢叶です」
「はいはーい」
夢叶がインターホンを鳴らすと、すぐ月輝が出てきた。
「寒いし、中入ってよ」
「うん」
本題に入る。
「ところでさ、何で私と絵くんのこと避け続けるの? 何か悪いことした?」
「いや? 君たちを見てると、何だろう……むかつく。こっちに引っ越してくる前に彼女いたんだけど、突然自殺した。今まで思い出さないようにしてたのに、絵星のことが落ち着いてから、急に――」
「急に思い出して?」
「うん。彼女は何も辛そうな様子は全然なくて。俺は無力だった。無力すぎて、毎日のように泣いてた。だからさぁ……今までピンチだってあったのに乗り越えて、お互いを信頼して。幸せそうにしてる君らがむかつくんだよ」
「彼女さんの話は、絵くんにはしたの?」
「したさ。あいつから前聞いたけど、夢叶さんが仕事中に前の男に暴力振るわれそうだったところをあいつが助けたんだってね。絵星は色々話聞いていたから助けることができた」
「そうだったけどさ? 月輝くんは何も無力なんかじゃない。彼女さんだってそう思ってる。今までだって、絵くんのことも、私のことも気にかけてくれて――」
「……ごめん……帰ってくれ……っ」
もう話はしたくないのか、我慢の限界なのか。月輝に追い出されそうになる夢叶。
「最後に、夢叶さん。君に恋したの全く後悔してないよ。……さようなら」
夢叶は成す
(やることはやったから、仕方ないかぁ……)
しかし――夢叶と絵星が付き合っていることに関して、月輝が何かしら悪影響を受けていたという言い分をしていたが、本人の本心は違うようだった。最後に夢叶が一瞬見たのは、怒りを
それで何となく訳が違う気がしていた夢叶だったが、これが現実だ。月輝が何を思って2人から距離を取ったのか、最後まで明らかにならなかった。
やがて数日後、月輝はグループLINEから退会し、アカウントも削除。この街から引っ越し、去っていった――
これが、仲間の裏切りだ。
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