第14話:君のために誓う

 勝負はつかなかった。だが、絵星に目を覚ましてほしい。月輝の思いは、ただただそれだけ。


「これ以上、夢叶さんを困らせるな。かっこ悪かったって、夢叶さんは何か文句でも言ったか?」


『言ってないが。』


「そうだろ? それでも、そんなお前を信じてくれているんだ。夢叶さんへの思いは、そんなもんじゃないだろ?」


『うん。そうだ。自分のことばかりで、周りも、夢叶のことも……見えてなかった。近いうちに直接会って謝る。』


「夢叶さんは、受け入れてくれると信じてるよ。大丈夫だ。」


 その後絵星は夕食のため、電話は終わった。


「ありがとう。月輝くんがいてくれなかったら……このまま別れていたかもしれない。私も、絵くんと向き合えそうだよ。」


「悔しいけど……君たちには、いつまでも幸せに、笑い合ってほしい。」


そう言う月輝はかなり悔しそうにしていたが。


「月輝くんさえよければ、今度3人でどこか遊びに行こう?」


「うん、喜んで!」


 立ち上がり、帰ろうとする夢叶を追い、月輝が抱きしめる。


「――俺はまだ、諦めてないから。」


「全く……ずるい人め。」


 週が明け、仕事を終えた夢叶のもとへ、絵星が会いに来た。


「夢叶、今まで本当にすまなかった。卒業できるように気合い入れて頑張るから、これからも一緒にいてほしい。」


「もちろん。全力でサポートするね!」


熱い抱擁を交わす。2人が待ち望んだ、幸せの瞬間だ――


☆☆☆


 それから1週間余り。絵星は順調に卒業論文を書き進めている。どうやら自由に書いてもいいらしく、夢叶には前向きな報告ができていた。


 そんな中、絵星は大学の昼休み中に夢叶へ電話をかける。この日は夢叶は休みだ。


「もしもしー? お休み中のところごめんね?」


『いいよー。暇だったし。』


「佑仁が面接でいないからさ。その、声が……聞きたくなって。」


『……私も、そうだったよ。』


 絵星は昼休み後の3限目は空き講のため、4限目が始まるまでは話せる。併設されている図書館の前の廊下まで移動し、話を続ける。


「ねえ夢叶。今年も色々あったねぇ。」


『そうだねー。でもね、絵くんと出会って、お付き合いして……とっても充実した1年になったよ! 本当にありがとう!』


「お礼を言いたいのは俺の方だよ。初めての彼女で、どうしていいか分からない俺なのに、一緒にいてくれて本当に嬉しかった。付き合ってもう9か月になるのかぁ、早いな。」


『もうそんなにたつんだねー、あっという間。』


「うん、あっという間。あのね夢叶、君に伝えたいことが――」


急に緊張し出した絵星。


「こないだまで夢叶に散々迷惑かけた俺が言うことじゃないかもしれない。無事に現役で大学卒業できるか分からない。けど……君への思いは変わることなんてない。だから夢叶、君のために誓うよ。」


『なになにー?』


「いつか、俺と……結婚してください!」


この誓いを聞いた瞬間、夢叶は驚いた。そして、嬉し涙。


『いいよ、こんな私だけど……よろしくお願いします!』


「何で泣いてんの、可愛いやつめ。」


『急に改まったこと言うからよぉ。』


 時刻はもうすぐ午後2時。まだ時間はあるが、そろそろ佑仁が戻ってくるため、電話はこれにて終わるそうだ。


「そろそろ切るね、電話ありがとう。愛してる。」


『うん、私も……愛してます。』


電話が終わった。恥ずかしそうにしながらも、夢叶は幸せを噛みしめていた。


(結婚……そんなこと言われるなんて。嬉しいよ、絵くん。)


 その日の夜、夢叶はLINEで月輝に報告。


『いいじゃん、よかったじゃない夢叶さん! それだけあいつ頑張る気になったから、俺も一安心だよ。』


月輝は祝福の言葉を送ってくれた。


『今度の日曜日お休み取れたから、絵くんと3人で遊びに行こうよ!』


『いいよー、予定空けとくわ。』


この返事を最後に、月輝との連絡が突然途絶えてしまった。絵星にも確認したところ、同じことが起きてしまった……。


このまま、年が明ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る