第12話:卒業できる?

 その後全科目の結果が分かり、追い込まれていた絵星に更なるピンチが――


 10月から始まる後期に入る前、絵星はゼミの先生に呼び出された。そこで突きつけられた現実。それは『前期で単位複数落としてしまっているから、後期は本気で頑張らないと単位が足りず卒業できない』ということ……。


 卒業できないかもなんて、みっともない。そんな自分が夢叶の隣にいてもいいのかと、絵星は考え込んでしまった――


『夢叶、今日も仕事お疲れ様。ちょっとね俺……忙しいから今日はこの辺で。』


帰宅後、夢叶にLINEでそう言って誤魔化し、部屋に閉じこもってしまった。


(やっぱり、夢叶にははっきり言わなきゃならないかな……。)


夢叶に本当のことを言えたのは、後期スタート前日の日曜日の夜だった。


『そうなんだ……。絵くんが気に障ることがないように私も気をつけるから、学業頑張ってね、としか言えないかなぁ。』


(何で、そんな俺にここまで優しくしてくれるの?)


絵星はますます、分からなくなってしまった……。


☆☆☆


 後期スタート初日の日程が全て終わると、絵星は佑仁と一緒に夢叶と啓太がいる職場へ行くことになった。この日、啓太は休みだ。


「今更だけど、何でついてくるんだよ? 何か買い物でもするのか?」


「いや? だって、『夢叶のとこへ行く』って言うお前さんの顔が、いつもより暗かったから。卒業できないかもしれないからって、夢叶さんに合わせる顔がないの?」


「そっ……そんなことねぇし。だいたい、佑仁は心配し過ぎなんだよ。」


「まあ……ならいいけど。」


佑仁が言うことは間違ってはいない。少々険悪モードになりながら、夢叶のもとへと向かった2人。


 2人が着くと、夢叶はまだ仕事中だった。店内をゆっくり回って時間を潰し、出入り口で夢叶が出てくるのを待った。10分ぐらいたつと、仕事を終えた夢叶が現れた。


「あら、絵くん来てたんだ。それに、佑仁くんまで。珍しいね2人で来るなんて。」


「夢叶さん、お仕事お疲れ様です。俺は、あいつについてきただけなんで。てかおい、何か用があって寄ったんじゃなかったのか?」


絵星は何か思い詰めているのか、夢叶に顔を合わせようとしない。


「……今の俺とは、夢叶と釣り合わない。仕事順調そうだし。それと比べて、俺なんてかっこ悪すぎる。ごめん、先帰るわ。」


夢叶と佑仁が引き留めようとするが、絵星はそれを無視して足早に帰ってしまった。


「……何か悪いことしたのかな、私。」


「いや、絵星自身の問題だから夢叶さんには関係ないと思いますよ。今のあいつには、夢叶さんが眩しく見えたのかもしれませんよ?」


「こないだ、『忙しいからこの辺で』なんてLINEで言われたけど、本当は?」


「あれは、嘘です。本人に確認済みです。卒業できないかもっていう現実を目の当たりにして、重く受け止めすぎてるかもですね。俺は、まだ勝算がある範囲だと思ってますけど――」


 佑仁と別れ、とぼとぼと帰る夢叶。


(頑張ってって言うのも、余計なお世話なのかなぁ。少しの間、そっとしとくべきか……。)


自分には関係ないことなのは、確かにそうだ。でも、夢叶も頭を悩ませていた。


 帰宅後、絵星と月輝からそれぞれLINEが来ていた。まずは絵星から。


『さっきは冷たく当たってごめん。でも、あれが俺の本音なんだ。暫くこんな調子かもしれないけど、迷惑にならないようにするから……。夢叶との将来のために、頑張れるのかな、俺。』


次は月輝から。


『夢叶さん、今日もお疲れ様~! 最新の可愛い可愛い自撮りが見たいな~!』


テンションが真逆なLINEだ。絵星には適当に返し、月輝には昨日撮った自撮り写真を送り、夕食作りに取りかかった。


 この日、絵星からは既読はついたが返事が来ることはなかった。あの様子だと仕方ないだろう。夕食を食べ終わると、月輝から返事が来た。


『ありがとう! 変わらず可愛いわー。絵星にも同じの送ったの?』


『うん、めっちゃ褒めてたよ。待ち受けにしたらしくて……。』


そう返事を送った後の夢叶の表情が曇る。


『それはちょっとやりすぎじゃね? でも、あいつならやりそうだが。』


『今日ね、絵くんが職場に顔出したんだけど……。』


 夢叶は思い切ったのか、無意識なのか分からないが、月輝に電話をかけた。


『夢叶さん、どうかしたの? 電話かけてきちゃって。絵星と会って、何かあったの?』


「それが、卒業できないかもしれないって。それで、そんなんじゃ俺はかっこ悪いし、私とは釣り合わないって言われた…。頑張ってねって前言ったんだけど、余計なお世話、だったのかなって――」


 経緯を話し切ると、夢叶は涙を流していた。


『そう、だったのか…。暫くほっといた方がいいかもしれないけど…、ねえ、夢叶さん?』


「はい?」


『そんなやつとは別れて、俺と付き合って? 将来考えたら、俺を選んだ方がましだよ?』


月輝は思いもよらない提案を夢叶に下す――

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