第10話:初、すれ違いの音〔後編〕
この事態を受けて、かなりのショックと怒りで感情がぐちゃぐちゃになっていた夢叶。休みのはずだったのにどっと疲れ、翌日そのまま出勤してしまった。それでも平然を装っていたが、いつもはやらない失敗を繰り返し、自分でも何でなのか分からなくなっていた。
夢叶の異変に気づいていた啓太が、仕事が終わると彼女を呼び出した。
「蒲本ちゃん? 何かあったんか?」
「そ、それはっ……」
夢叶は言葉を詰まらせ、なかなか話が進まない。
「ここで立ち話すると邪魔になるし、場所変えよう。少しでも気が楽になれるように」
夢叶が啓太に連れられて来たのは、職場から少し離れたレストランだった。
「すみません、今日は本当にご迷惑おかけしました……」
「いや、今日全然蒲本ちゃんらしくないから、真相を確かめたくて」
それぞれ希望のメニューを注文し、待っている間に夢叶が重い口を開く。
「矢間さんもご存知ですけど、昨日、私の誕生日だったんです。それで、お互いに欲しいもの贈り合おうって絵くんと決めていたんです」
「うんうん」
「絵くんに欲しいもの贈れたから、今度は私。めちゃくちゃ楽しみにしてたんです。なのに――」
「うん?」
「私の誕生日祝いなんてほったらかして、佑仁くんと旅行してたんです……。手持ちも最低限しかなくなって、何も買えなくなったんですってっ……」
そう打ち明ける夢叶の声は、震えていた。
「……はぁ。友達付き合い大事なのは分かるけど、最優先は彼女の誕生日だろ? 何やってんだよあいつは。少しでも時間作って渡してやれたんだったら、違ったのによ」
注文の品が届き、黙々と食べる2人。
「あっ私、自分の分は自分で払いまっ――」
「いいよ、俺の奢りだ。呼んだの俺だし」
「はい……では、お言葉に甘えて、ごちそうさまです……」
啓太がまとめて食事代を支払い、レストランを後にする。
「……ありがとうございました、お話聞いてくださって」
「礼には及ばんよ。今頃あいつ猛反省してるだろうから、帰ってからちょっとだけでも話聞いてやれ」
「……そうします」
夢叶は帰宅後すぐ、LINEを開く。
『夢叶、昨日は本当にごめん。夢叶が許してくれるなら、これからも一緒にいてくれるかな? ダメなところはダメってはっきり言ってくれると助かる』
絵星から何か来ていた。
「分かった。夏休み終わるまでに、1回だけでもいいから会ってゆっくりお話したいな。絵くんのこと、信じてあげる。そこまで言うなら」
と返事をした後、夢叶は風呂と寝る準備へと入っていった。
☆☆☆
翌日、仕事を終え帰宅した夢叶宛に月輝からLINEが来ていた。個人的に連絡してくるのは、随分と久々な気がする。
『夢叶さん! 今日絵星と会ったんだけど……俺が実家に帰ってる間何かあった?』
「それが――」
夢叶はこれまでにあったことを月輝に説明した。
『絵星からちょっと喧嘩しちゃったって聞いてたけどさ、そんなことが……。いや、ありえないでしょ。約束を破るとか。それも誕生日当日。夢叶さん……本当に、気の毒だったよね……』
「お盆中、私仕事で会えないで終わっちゃったんだよね。だから、何だろう……うまく伝わってなかったのだろうか……」
絵星に非があるのは分かってはいるが、何か自分にも悪いところはあったんじゃないかと夢叶は自分を責めそうになっていた。
『夢叶さんは、自分の役割をしっかり果たしたんだから、何も悪いところなんてないよ。あいつが心の底から反省してるんだから、俺もそうだけど、夢叶さんも今まで通りあいつと付き合ってあげたらいいと思うよ。そう簡単には別れないと俺は信じてるよ』
(役割、か……。そうだね。だいぶ吹っ切れたかも?)
月輝にお礼をし前を向いた夢叶は、ここからいつも通り絵星と接していこうと決めたのだった。
――その矢先だった。
『こうして話してると心が、痛い……』
「何で?」
『夢叶さんのことが、ずっと前から好きだったから』
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